中小建設企業にもできる!建設DX導入事例と成功の秘訣を徹底解説

目次
1. 建設業界におけるDXの必要性とは
建設業界では、人手不足や高齢化、属人化による品質・安全管理のばらつきなど、深刻な課題が続いています。
特に中小企業では、紙や口頭による業務運用が多く、技術継承や効率化が進みにくいのが実情です。
こうした状況を打開する手段として、注目されているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
DXとは、ICT(情報通信技術)を活用しながら、業務全体を効率的かつ持続可能な体制へと変革する取り組みです。
導入が進めば、作業の標準化・省力化が図れるだけでなく、品質向上や事故の未然防止といった面でも大きな効果が期待されます。
今後の技術進化に対応し、競争力を維持するためにも、建設業におけるDXは不可欠な経営戦略と言えるでしょう。
1-1.業界全体が抱える課題
建設業界は長年にわたり人力中心の「労働集約型産業」として発展してきましたが、現代の環境変化により、次のような構造的課題が深刻化しています。
慢性的な人手不足と高齢化
地方を中心に若手の採用が難しくなっており、現場の中心を担ってきた熟練職人が次々に引退を迎えています。
人材の確保と世代交代の準備が進まなければ、業務の維持そのものが危ぶまれます。品質や安全のばらつき
施工の品質や安全管理が経験や勘に頼っている現場では、ベテランと若手の間でスキルや判断力に差が出やすく、標準化が困難です。
紙や口頭によるマニュアル運用も多く、全体の業務品質を一定に保つのが難しい状況です。記録業務の負担と非効率
工事写真の整理や報告書作成に毎日多くの時間が取られており、現場での本来の作業に集中できないという声も多数あります。
人手に依存した記録業務はミスや抜け漏れの原因にもなり、生産性や信頼性の低下を招いています。
このように、従来型の現場運営では、これからの建設業界が直面する変化に対応するのが難しくなっています。
次章では、こうした課題が放置された場合に生じるリスクと、DX導入の必要性について解説します。
1-2.デジタル導入の遅れによる影響
建設現場でDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が進んでいない場合、以下のようなリスクや弊害が顕著になります。
現場の属人化が進み、生産性が不安定に
「この作業はあの人しかできない」といった状況が続くと、特定の従業員の不在時に業務が滞るなど、現場の安定運用が困難になります。
技術や知識が共有されず、全体のパフォーマンスが個人に依存してしまいます。記録作業に多くの時間がかかり、現場作業の妨げに
報告書作成や写真整理に1日数時間かかることもあり、現場担当者の負担が大きくなっています。
本来注力すべき作業時間が圧迫され、結果的に工期や品質にも影響します。事故やトラブルの再発防止が困難に
紙ベースや記憶頼みの記録では、問題発生時に正確な原因分析ができず、同じ失敗が繰り返されやすくなります。
安全管理の徹底や品質向上にも支障をきたします。
こうした状態が続くと、「信頼性のある現場」として評価されにくくなり、元請けや官公庁からの受注機会を逃すリスクにもつながります。
今後、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やドローン、AI解析などが建設業界の標準になっていくなかで、こうした技術に対応できない企業は競争力を大きく失う可能性があります。
だからこそ、今こそ建設DXを自社に取り入れ、業務の見える化・標準化を進めることが、持続可能な現場運営の第一歩なのです。
2. 建設DXに取り組む際の基本ステップ
建設業界で「よし、DXを始めよう!」と思っても、どこから手をつければよいのか悩む企業は少なくありません。
特にITに詳しい人材がいない中小建設会社では、導入のハードルが高く感じられることが多いです。
しかし、正しいステップで進めれば、社内に専門人材がいなくてもDXを始めることはできます。
ここでは、建設現場でDXを推進するために必要な基本ステップを紹介します。
2-1.課題の抽出と整理
まず最初に行うべきは「自社がどんな問題を抱えているのか」を明確にすることです。
闇雲にデジタルツールを導入してもうまく機能しません。
次のような問いに答えるだけでも現状把握に役立ちます。
どの業務で時間が取られているか?
どの作業でミスや手戻りが多いか?
誰にしかできない仕事があるか?
技術の継承が難しくなっている部分はどこか?
現場の職員や技術者と話し合いながら、こうした課題を可視化して整理しましょう。
課題整理においては、「この作業を改善すれば、1日〇〇時間削減できる」といった定量的な見方も大切です。
それによって、どの領域から改善すべきかの優先順位がつけやすくなります。
2-2.テクノロジー選定と社内体制の整備
課題が明らかになったら、それに合ったテクノロジーを選びます。
例としては以下のようなものがあります。
現場写真の自動整理や報告書作成を効率化するアプリ
工程管理をタブレットで行うクラウドサービス
作業員の位置情報をリアルタイムで把握できるセンサー
ただし、ツールの選定は慎重に行いましょう。
現場の誰も使いこなせない操作が複雑なツールでは、DXの効果は生まれません。
同時に、導入した後に活用が継続できるよう、担当者の配置や、先導役となる「DX推進チーム」を社内でつくることも重要です。
このチームは、現場の声を吸い上げつつ、ベンダー(ツール提供会社)との調整役も担います。
また、社員への説明会や試験導入、研修などを通じて、現場全体で新しい仕組みを受け入れる体制を整えていきます。
3. 三井住友建設:掘削施工の効率化と安全性の向上
ここからは、実際にDXを導入し成果を挙げている建設会社の事例を紹介します。
最初に取り上げるのは大手ゼネコンの一角、三井住友建設による掘削施工のデジタル化の取り組みです。
3-1.導入前の課題と背景
三井住友建設では、地下構造物や基礎工事のために行う「掘削作業」において、精度と安全が常に求められてきました。
しかし、従来は経験を頼りに作業を進めることが多く、掘削の深さや距離の微調整が難しく、ヒューマンエラーによる手戻りや、機械の無駄稼働が問題となっていました。
また、掘削機を操作するオペレーターへの負担も大きく、少人数で作業するには限界もありました。
こうした課題を背景に、同社では「データに基づいた施工計画」と「作業の自動化」による改革を目指しました。
3-2.DX施策の内容と導入プロセス
まず、掘削機にGPSとセンサーを搭載したスマート機器を導入し、作業位置や深さをリアルタイムで取得できるようにしました。
加えて、ドローンを使って地形を3Dで測量し、施工前後の状態を比較する仕組みも取り入れました。
これにより、掘削の計画と実施にズレがないかを即座に把握でき、速やかに修正対処ができるようになりました。
また、ICT建機(情報通信技術を搭載した建設機械)と現場管理システムを連携させることで、操作ミスを減らすと同時に、監督者が遠隔から作業の進行を確認可能になりました。
3-3.導入後の具体的な成果
導入の結果、掘削精度が格段に向上し、作業時間は20~30%短縮されました。
また、オペレーターの経験や勘に頼らず均一な品質を保てる点が評価され、他現場への水平展開も進められています。
さらに、作業データをクラウドで蓄積し、他の現場でも再利用できるようになったことで、技術の継承やナレッジ共有も容易になりました。
安全面でも、位置や傾きに応じた警告システムにより、機械の転倒リスクを未然に防ぐことが可能となりました。
4. 前田建設工業:コンクリート締固め作業の品質と効率の向上
前田建設工業は、品質管理の改善と作業の効率化を目指して、コンクリート締固め作業においてデジタル技術の導入を進めました。
コンクリートは鉄筋コンクリート構造物にとって重要な部分ですが、施工のちょっとした違いが品質に影響するため、管理が難しい工程でもあります。
ここでは、同社がどのような取り組みを行い、どのような成果を得たのかを紹介します。
4-1.課題となっていた品質管理のばらつき
締固め作業とは、打ち込んだコンクリートを振動などにより隙間なく詰め込み、密度を上げて強度や耐久性を確保する工程です。
前田建設工業では、従来この作業をベテラン職人の経験に依存しており、人によって締固めの精度に違いが出る問題を抱えていました。
また、これまでの施工管理では、締固めの時間や振動の強さを記録しておらず、仕上がり不良が後から発覚した場合でも「なぜ失敗したのか」が分からないこともありました。
このように、品質のばらつきと原因の不透明さが、経営リスクとなっていたのです。
4-2.IoTやセンシング技術の活用
そこで、前田建設工業は、振動機(バイブレータ)にセンサーを取り付けて、作業中の振動状態や時間を自動でモニタリングできるシステムを導入しました。
このシステムはIoT(モノのインターネット)と呼ばれる仕組みのひとつで、機械に接続されたセンサーがインターネットを通じてリアルタイムに情報を送信する技術です。
これにより、押し当てる時間・深さ・強さが最適かどうかを自動で可視化でき、作業者の熟練度に関係なく優れた品質管理が実現されました。
また、施工中のデータはクラウド上に保存されているため、後からの確認やトラブル時の解析にも役立てることができます。
4-3.作業時間短縮と人的ミスの削減
導入後は、締固め作業の標準化が進み、作業にかかる時間がこれまでの7~8割程度に短縮されました。
また、締固め不足による修復工事の回数が大きく減少し、コスト削減とスケジュール厳守にも貢献しています。
現場の作業者からも「手元の表示で最適な振動時間がわかるので安心して作業できる」と好評で、新人でも安定した品質の施工が可能となりました。
このように、デジタル技術の導入によって「人がやる勘頼みの仕事」を見える化し、誰でも同じように取り組める仕組みに変えることがDXの力と言えます。
5. 清水建設:安全管理の高度化による事故リスクの削減
建設現場で最も大切なことのひとつが「安全管理」です。
清水建設では、長年「事故ゼロ」を目指して安全管理に取り組んできましたが、現場が複雑化する中で、従来のやり方では限界が見えてきました。
そこで、安全の見える化と予防の自動化に向けてDXの導入を決断しました。
5-1.現場の安全管理における課題
従来の安全管理では、作業前のKY(危険予知)活動や目視確認、紙のチェックリストなどが中心で、作業員任せになってしまう点も多くありました。
また、危険なエリアへの立ち入りや機械との接触事故は、人のうっかりミスによるものが多く、完全に防ぐには限界がありました。
事故が起こった場合の報告や分析も後追いになりやすく、現場ごとの経験に依存していたため、全体としての改善が進みにくい状況でした。
5-2.ウェアラブル機器とAI監視システムの導入
清水建設が注目したのは、作業員が身につけるウェアラブル端末とAIを使った監視カメラの活用でした。
ヘルメットやベストに小型のセンサーを取りつけることで、作業員の位置、動作、健康状態(例:心拍数、温度)をモニターできるようにしました。
さらに、現場全体にはAIが搭載された監視カメラを配置し、不慮の事故や危険動作を検知した場合には即時アラートを発する仕組みを構築。
これにより、現場監督がすぐに対応できるようになり、事故の未然防止が実現しました。
5-3.データ可視化による迅速な対応
これらのセンサーやカメラが収集した情報は全てリアルタイムで管理システムに集まり、パソコンやタブレット上で一目瞭然になります。
これにより、「誰が、いつ、どこで危険な行動を取ったか」がすぐに分かり、その場で是正指導ができるようになりました。
また、熱中症リスクの事前察知や、転倒・滑落の予兆もAIで検知可能になり、実際に接触事故や転倒事故の発生率が減少しました。
清水建設では、このシステムを全現場に展開しており、安全管理の基準が一層高まりました。
6. 建設現場にDXを導入するメリットと得られる成果
これまで紹介してきたように、DXを導入することで業務の効率化・品質向上・安全管理の高度化といった成果が得られます。
しかし、それは一部の大手企業だけの話ではありません。
中小企業でも段階的に取り組むことで、さまざまな利点を得ることができます。
ここでは、建設現場におけるDX導入の代表的なメリットを、3つの観点で分かりやすくまとめていきます。
6-1.コスト削減と生産性向上
デジタルツールの導入は、初期投資がかかるケースが多く、導入をためらう企業も少なくありません。
しかし、導入後の効果を見ればその投資が十分に回収できることがわかります。
現場の写真整理や報告書作成がアプリで自動化されることで、これまで1人1日1時間かけていた作業が15分で済むようになります。
複数人・複数現場で活用することで、大幅な人件費削減とともに、報告にかかるミスの低減にもつながります。
また、クラウド上に図面や進捗情報を共有すれば、移動時間や書類の郵送などの非効率も削減でき、現場全体の生産性が向上します。
6-2.人手不足問題への対策
DXの大きなメリットの一つが、「限られた人材で、より多くの業務をこなせるようになる」点です。
自動化や遠隔操作の仕組みを導入すれば、熟練職人がすべて自ら現場に出なくても、後進のサポートや指導が可能となります。
また、作業未経験の若手社員でも、デジタル機器によって作業の標準化が進めば、すぐに一定の作業品質を出せるようになり、一人前になるまでの時間を短縮できます。
これは、技術が属人化している中小企業にとって非常に大きなメリットであり、将来的な人材不足に対する備えとも言えるでしょう。
6-3.品質と安全の両立
通常、工事の品質と安全管理には時間や労力が必要で、他の作業とのバランスを取るのが難しい場面が多々あります。
しかし、DXを使えばこの2つの要素を一度に改善することが可能になります。
センシング技術やAI監視によって、事故の予兆を早く察知する仕組みを構築すれば、安全対策の負担を減らしながら高いレベルを維持できます。
また、クラウドで過去データを蓄積・分析すれば、施工ミスの傾向や、よくあるトラブルの予防にも役立ちます。
つまり、品質管理が簡単になり、安全対策も抜けのない状態が作れることで、全体的な現場の信頼性が向上し、発注元からの評価アップにもつながるのです。
7. DX導入を成功に導くためのポイント
DXは単なる「ITツールの導入」ではなく、業務全体の変革です。
そのため、「導入して終わり」ではなく、長期的に社内に定着させ、使い続ける工夫が必要です。
ここでは、特に中小企業がDXを導入・成功させるための3つのポイントを紹介します。
7-1.組織の意識改革と教育の重要性
最も重要なのは、社内全体がDXの目的を正しく理解し、「変わっていこう」という意識を持つことです。
よくある失敗に「経営層だけが盛り上がって、現場がついてこない」というケースがあります。
そのためには、現場の社員へ丁寧に説明を行い、「なぜ必要なのか」「何が変わるのか」を分かりやすく伝える必要があります。
加えて、操作に不慣れな社員に対しては、基本的なIT研修や、機器の使い方ガイドなどの支援が重要です。
このように、社員教育を定期的に行い、少しずつ社内にノウハウを蓄積していく取り組みが、最終的な成功につながっていきます。
7-2.スモールスタートでの導入事例
すべての業務を一度にデジタル化しようとすると、コストも手間もかかりますし、社内の混乱も避けられません。
そのため、「小さく始める」ことが成功への近道となります。
「現場写真の自動整理アプリを一つの現場で導入する」といった、効果がすぐに見えやすく、定量化できる取り組みから始めることをおすすめします。
その成果を社内で共有し、社員が「これは便利だ」と実感すれば、次第に他の業務への展開も進めやすくなります。
7-3.ベンダー選定とパートナー企業の協力
システムやアプリケーションを提供するベンダー(開発会社)との連携も、DX成功の大きな要素です。
特に中小企業の場合、自社内にIT部門がないケースも多いため、外部のパートナー企業と良好な関係を築くことが不可欠です。
導入に当たっては、「建設業に強いベンダー」や「中小企業の支援実績がある企業」を選ぶと良いでしょう。
実績豊富な企業であれば、現場の課題に合わせたアドバイスやカスタマイズも期待できます。
さらに、問い合わせ対応やアップデート対応の速さも重要なポイントなので、複数の会社に相談して比較検討することをおすすめします。
8. 今後の建設DXの展望と技術革新の方向性
建設業のDXは、ようやく本格的な普及が始まった段階です。
今後、技術進化とともに、さらに大きな変革が訪れると予想されます。
ここでは、近年注目されている先進技術や、日本と海外の取り組みを比較しながら、建設業界の未来を展望してみます。
8-1.BIM/CIMやAI・ロボットの発展
今後の注目技術の一つが、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)です。
これは、3次元のデジタルモデルを使って建物や土木構造を一元管理できる技術で、設計、施工、維持管理までの全体情報をつなぐものです。
さらに、AIを使って工事スケジュールの遅延リスクを予測したり、人手不足を補う自律型ロボットの活用も進んでいます。
こうした技術が浸透すれば、これまで困難だった精密作業も高精度かつ短時間で完了できるようになります。
8-2.サステナブル×DXへの取り組み
環境への配慮が求められる今、建設業界においても「持続可能な社会に貢献すること」が求められています。
その中で、エネルギー使用量を測定・分析したり、建設資材のロスを減らすためのデータ活用が進んでいます。
DXの活用により、カーボンフットプリント(二酸化炭素排出量の量)の削減や、環境負荷の少ない工法の選定にも役立てることが可能です。
8-3.海外との比較と日本の可能性
欧米の建設業界では、10年以上前からBIMやCIMの導入が進んでいますが、日本では技術の受け入れ遅れと人材不足により、遅れを取っています。
しかしながら、これまで紹介してきたように、国内でも優れたDX事例が増えつつあります。
中小企業でもモデルケースとなる事例が出てきており、日本ならではの「現場力と丁寧さ」を武器に、世界でも価値あるDXを展開していくことは十分に可能です。
建設業界におけるDXの推進は、人手不足や属人化といった慢性的な課題を解決し、現場の生産性・安全性・品質を同時に底上げする鍵となります。
中小企業であっても、スモールスタートや外部パートナーの活用によって、無理なく実現できる道は十分にあります。
持続可能な現場運営と企業競争力を確保するには、まず目の前の課題を見える化し、できるところから着実に変えていくことが重要です。
本記事が、建設DXに踏み出すための一助になれば幸いです。