実務でわかる!AWS API GatewayによるサーバーレスAPI管理の完全ガイド

目次
1. AWS API Gatewayとは何か
マイクロサービス化やサーバーレスアーキテクチャの需要が高まる中で、APIを効率的に管理・公開する仕組みとして「AWS API Gateway(エーユーエス・エーピーアイ・ゲートウェイ)」が注目されています。
このサービスは、フルマネージド型(AWSがすべての運用を自動化してくれる)のAPI管理ツールであり、既存のAWS環境との親和性が高く、トラフィック制御、認証、監視など多くの機能を標準で備えています。
1-1 API Gatewayの基本的な役割
API Gatewayは、アプリケーションと外部システムとの間でAPIリクエストを受け取り、対応するバックエンド(例:Lambda、EC2、HTTPエンドポイントなど)に振り分ける交通整理の役割を果たします。
それに加え、認証やスロットリング(リクエスト制限)、レスポンス変換といった中間処理を担うこともできます。これにより、開発者はバックエンドのロジックに集中しつつ、APIの保護や管理も効率的に実施できます。
1-2 REST APIとHTTP APIの違い
AWS API Gatewayには主に「REST API」と「HTTP API」という2つの種類があります。REST APIは従来型で高機能ですが設定がやや複雑です。一方、HTTP APIは軽量で設定が簡単なため、迅速な開発に向いています。
例えば、OAuth認証やCORS、トラフィックのルーティングといった高度な制御が必要な場合はREST API、コストとパフォーマンスを重視する軽量な用途ではHTTP APIが適しています。
用途によって選び分けましょう。
1-3 他のAWSサービスとの関係性
API Gatewayは単体で利用するのではなく、AWSの他のサービスと連携してその効果を最大限に発揮します。代表的な組み合わせは以下の通りです。
・AWS Lambda:REST APIやHTTP API経由でサーバーレス関数を実行
・Amazon Cognito:認証基盤としてユーザーID管理を統合
・CloudWatch:モニタリングとログ取得による監視体制の確立
このように API GatewayはAWSエコシステムの中心に位置づけられるサービスです。
2. API Gatewayの構成要素
API Gatewayの設計・設定を行う上で重要となるのが全体構成に対する理解です。ここでは、リソース・メソッド・ステージ・エンドポイントなどの基本的なパーツについて解説します。
2-1 リソースとメソッド
リソースとは、APIで定義されるURLパスの構造を指し、例えば「/users」「/orders」などが該当します。そして各リソースには「GET(取得)」「POST(追加)」などのHTTPメソッドを割り当てます。
つまり、APIは「/users」に対して「GET」で呼び出すと全ユーザーを返すような動作が定義できます。リソースとメソッドはAPIの基本構成として、設計段階で整理すべき重要な要素です。
2-2 ステージとデプロイ
ステージとは、APIの開発段階や環境(開発・検証・本番)ごとにAPIのバージョンを分けて管理する仕組みです。APIは作成後に「デプロイ」という操作を行って初めて公開されます。
例えば「dev」「staging」「prod」などのステージ名を使って、開発用と本番用のAPIを安心して分離・運用することが可能になります。
2-3 エンドポイントタイプ(Edge、Regional、Private)
エンドポイントタイプは、APIの公開範囲とスピードに影響します。
・Edge:Amazon CloudFront(配信ネットワーク)と統合され、プライベートネットワーク外からでも高速かつグローバルにアクセス可能
・Regional:一部リージョンに限定して公開される。国内ユーザーに最適
・Private:VPC(仮想プライベートクラウド)内だけで限定利用されるもの
ユースケースに応じて、目的に適したエンドポイントを選択しましょう。
3. APIの作成と設定方法
API Gatewayを導入する際に最初に行うのがAPIの作成と設定です。AWSでは直感的に操作できるマネジメントコンソールや、OpenAPIという標準形式による自動化が活用できます。ここからは構築に関する実践的な手順を見ていきましょう。
3-1 マネジメントコンソールでの作成手順
AWSマネジメントコンソールは、ブラウザベースの操作画面であり、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)という視覚的にわかりやすい方法で構築可能です。
手順としては「APIを作成」→「リソースを追加」→「メソッドを定義」→「Lambdaなどのバックエンドを指定」し、「ステージ」へデプロイする流れになります。
開発者にとってコードを書くことなく設定できる点は大きな魅力です。
3-2 Swagger/OpenAPIからのインポート
Swagger(新名称:OpenAPI)は、APIの仕様を記述するための標準フォーマットです。API Gatewayではこの仕様に基づいたYAMLまたはJSON形式の設定ファイルをアップロードすることで、API構造を一括生成できます。
このインポート機能を使うことで、複数エンジニア間で仕様を共有したり、Git管理と連携してインフラもコードのように管理(これを「IaC:Infrastructure as Code」といいます)することが可能です。
3-3 バージョン管理とステージング
一度公開したAPIでも後から機能追加や修正が生じます。そのときに重要となるのがステージの仕組みです。
ステージごとにURLが異なるため、「/dev」「/prod」などの環境を使い分けて、変更の影響範囲を限定しながら開発と運用を並行できます。併せてGitなどのコード管理ツールを活用することで、APIの状態を記録・再現することも可能です。
4. 認証と認可の仕組み
APIを公開すると、当然ながら悪用や不正アクセスのリスクが生まれます。そのため、信頼できるユーザーのみがAPIを利用できる「認証」と、ユーザーができる操作に制限をかける「認可」の仕組みが必要です。
4-1 IAMによるアクセス制御
AWSにはIAM(アイエーエム:Identity and Access Management)という、ユーザーや権限を細かく管理するサービスがあります。
API GatewayではIAMで定義された権限に基づいて、ユーザーやロールごとに「このAPIだけ使える」といった設定が可能です。
IAM認証はAWSアカウント内のユーザー向けで、社内SEが内部開発のAPIに制限を設けたい場合などによく用いられます。
4-2 CognitoとAPI Gatewayの統合
一般ユーザー向けのAPIに対しては、Cognito(コグニート)を使うのが効果的です。
CognitoはAWS独自のID管理サービスで、GoogleやFacebookアカウントを使ったログイン連携や、メールアドレス認証などが簡単に導入できます。
このユーザー認証情報とAPI Gatewayを統合すると、ユーザーごとにアクセスを制限したり、個別の利用状況を追跡することが可能になります。
4-3 Lambdaオーソライザーの設定
より柔軟な認証を行いたい場合には、Lambda(ラムダ)関数を使ったオーソライザーが有効です。
オーソライザーとは、ユーザーのトークン(認証情報)を確認し、リクエストを受け付けるかどうかを判断する仕組みです。
独自ロジックや既存の社内システムと連携させた認証処理も、Lambdaオーソライザーで実装可能です。
5. Lambda関数との連携
AWS Lambdaは、サーバーを用意せずにコードを実行できるサーバーレスコンピューティングサービスです。API GatewayはこのLambdaと非常に相性がよく、組み合わせによって多くの処理を自動化・効率化できます。
5-1 Lambda Proxy統合とは
Lambda Proxy統合は、API Gatewayからのすべてのリクエスト情報をJSON形式で1つのイベントオブジェクトとしてLambdaに渡す形式です。
リクエストの種類やヘッダー、クエリパラメーターなどをすべて一括して取得できるため、バックエンド側で自由なロジック設計が可能です。唯一の制約は、Lambda自体がこれら情報を正しく解析する必要があることです。
5-2 リクエストマッピングテンプレートの使い方
リクエストマッピングテンプレートは、API Gatewayで受け取ったデータを任意の形式に変換してLambdaや他のシステムに渡すためのテンプレートです。
「Velocity Template Language(VTL)」というAWS独自の記述言語を使い、リクエスト中のフィールドだけを抜き出したり、カスタム構造に整形して送信できます。
この機能は、API入力とLambda処理の中間にフィルターや変換を入れたい場合に便利です。
5-3 エラーハンドリングとレスポンス変換
API Gatewayでは、Lambdaから返ってきた結果をもとにHTTPステータスコード(200成功、400エラーなど)やレスポンス本文をカスタマイズできます。
例えばLambdaでエラーが発生した場合でも、「APIとしては422(Unprocessable Entity)」のように意味あるレスポンスを返せるよう調整が可能です。
また、一般ユーザー向けには分かりやすいメッセージに変換するなど、ユーザー体験向上にもつながります。
6. セキュリティとレート制限
パブリックにAPIを公開するということは、それだけでセキュリティリスクを抱えることに繋がります。
許可されたユーザーのみにアクセスを制限したり、異常なアクセスを防ぐしくみがAPI Gatewayでは用意されています。
ここではアクセス制御に加え、不正利用を防ぐための機能を解説します。
6-1 APIキーと使用プランの設定
APIキーとは、アクセスするユーザーが事前に発行されたキー情報を使ってAPIを呼び出す仕組みです。
API Gatewayではこのキーと「使用プラン」を組み合わせることで、どのユーザーがどれだけの頻度・量でアクセス可能かを詳細に管理できます。
例えば、無料ユーザーは1日100回まで、有償ユーザーは無制限など、難しいコーディング無しに細かい運用が可能です。
6-2 スロットリングとクォータの設計
スロットリングとは「瞬間的なアクセスの制限」、クォータは「一定期間における上限制限」のことです。これらを設計することで、特定のユーザーや攻撃的なアクセスによってAPIが過負荷になるのを防げます。
スロットリングでは「1秒あたり最大10回まで」といった制限を設け、クォータでは「1日5,000回まで」などと設定可能です。
不正アクセスやバグによる暴走を防ぐためには、このしくみが非常に有効です。
6-3 WAFとの連携によるセキュリティ強化
AWS WAF(ダブリューエーエフ:Web Application Firewall)は、Webベースの攻撃(悪意あるボット、SQLインジェクションなど)をブロックするサービスです。
API Gatewayと連携させることで、IP制限や地理的ブロック、カスタムルールを設定でき、より踏み込んだセキュリティ対策が可能になります。
単純なAPIキーやIAM認証ではカバーできない範囲をWAFで補えるのが大きなメリットです。
7. モニタリングとデバッグ
構築したAPIが問題なく動いているかどうかを確認し、障害や遅延が起きた際に原因を追跡するには、適切なモニタリングとログ分析が不可欠です。AWSではCloudWatchという統合監視サービスを中心に、強力な可視化手段が提供されています。
7-1 CloudWatch Logsでのトラブルシューティング
CloudWatch Logsは、API GatewayやLambdaから出力されたログ情報を蓄積・検索できるツールです。
APIのリクエスト・レスポンス内容、レスポンスタイム(処理時間)、認証エラーの有無などを時系列で一覧表示できます。
トラブル発生時には、原因切り分けと修正に非常に役立つ情報源となります。
7-2 メトリクスとアラームの利用
CloudWatchメトリクスにより、APIの呼び出し回数、平均レスポンスタイム、エラー発生率などがグラフ表示されます。
さらに、しきい値を超えたときに自動で通知するアラームを設定すれば、担当者の迅速な対応が実現できます。
例えば「5分間で5XXエラーが10回を超えたら通知」といった条件が定義できます。
7-3 HTTP ステータスコードとログ管理のベストプラクティス
HTTPステータスコード(200・400・500など)は、APIの処理結果を示す重要な手がかりです。
APIGatewayでどのようなコードが返されたかをCloudWatchで記録し、分析対象として活用します。
また、システムログとユーザー行動ログ(例えば「注文完了」「認証失敗」など)を分類して出力することで、運用時の可視性が格段に向上します。
8. カスタムドメインとCI/CD統合
本番運用においては、デフォルトのAPI Gatewayドメインではなく、自社ドメインを使いたい場面や、自動化された継続的デプロイ(CI/CD)との連携が重要になります。ここでは実用的な運用のための仕組みを紹介します。
8-1 カスタムドメイン名の設定方法
API Gatewayでは独自のドメイン名(例えば「api.mycompany.co.jp」)を設定できます。
これにより、ブランディングの統一や信頼性向上につながるほか、ユーザーがAPIにアクセスする際の利便性も高まります。
Route 53でのDNS設定やAPI Gateway側でのドメイン登録が必要になりますが、導入自体は比較的シンプルです。
8-2 SSL/TLS証明書の設定(ACM連携)
APIへの通信は原則HTTPS(暗号化通信)とすることが今や常識です。AWSではACM(AWS Certificate Manager)を使って、無償かつ簡単にSSL証明書を取得できます。
API Gatewayと連携すれば、自動で有効な証明書が適用され、更新作業も不要になります。
セキュリティ、検索エンジン最適化(SEO)どちらにも重要なポイントです。
8-3 CodePipeline / SAMによる自動デプロイ
コード変更→テスト→ステージング→本番環境反映の流れを自動化できるのがCI/CDです。AWSではCodePipelineやCodeBuild、SAM(Serverless Application Model:サーバーレス構成記述標準)を使って、APIやLambdaの自動デプロイが実現できます。
この一連の流れが整うことで人的ミスが減り、開発スピードも向上します。
9. API Gatewayのベストプラクティスと制限
API Gatewayは非常に強力なサービスですが、パフォーマンスや設計の観点から知っておくべきベストプラクティスと制限もあります。特にテックリードの立場では、運用性を意識した構成が求められます。
9-1 パフォーマンスの最適化
API Gatewayでは、不要なルールやリクエスト変換、過度なマッピングがあるとレスポンスタイムが悪化する恐れがあります。
また、HTTP APIを使うことでレスポンス速度やコストを大幅に削減できる例もあります。
処理頻度やシステム構造に応じて、使い分けを意識することが大切です。
9-2 よくあるエラーと回避策
代表的なエラーには「429 Too Many Requests(リクエスト過多)」「403 Unauthorized(不正認証)」などがあります。
これらはレート制限や認証まわりの設計が不適切な場合に起こりがちです。
ドキュメントを詳細に記載し、自動テストを整備することで未然に防ぐことができます。
9-3 本番用APIと開発用APIの設計分離
開発環境と本番環境をひとつのAPI内で共有してしまうと、誤操作やテストによって本番に影響が出るリスクがあります。
ステージ機能を活用し、別々の環境URLと設定を使うことで、安全かつ効率的な開発体制を維持しましょう。
10. よくあるユースケースとサンプル構成
最後に、実際の現場でよく使われるシナリオを3つ紹介します。それぞれAWS API Gatewayの強みを活かした設計がポイントです。
10-1 マイクロサービスとAPI Gateway
モノリシック(単一構造)なシステムからの分離として、サービス単位でAPIを切り出すのがマイクロサービスです。
このとき、すべてのエントリーポイントをAPI Gatewayに集約し、サービスごとのLambdaやECSタスクにルーティングする設計が一般的です。
10-2 モバイルアプリのAPIバックエンド
スマートフォンアプリやIoT機器のバックエンドとして、API Gateway+Lambdaの構成が効果的です。
スケーラブルで管理の手間も少なく、ユーザー認証(Cognito)やレート制限などセキュリティ対策も簡単に取り込めます。
10-3 Webhook受信APIの構成
外部サービスからの通知(Webhook)を受け取る場合も、API Gatewayが活用できます。
受信内容をLambdaで処理することで、スケーラブルかつ高度なロジックを即座に適用できます。セキュリティとしてはIP制限や署名チェックがあると安心です。
11. まとめ
AWS API Gatewayは、APIの公開・管理・セキュリティを一元的に担うフルマネージドサービスで、LambdaやCognitoなど他のAWSサービスと組み合わせることで柔軟なアーキテクチャを構築できます。
REST APIとHTTP APIを用途によって使い分けられ、開発スピード・パフォーマンス・コストの最適化が可能です。
認証・レート制限・WAFとの統合などにより、企業レベルのセキュリティ対策を標準機能で実現できます。
CloudWatchによる監視、カスタムドメイン、CI/CDとの連携で本番運用もスムーズに自動化できる点も強みです。
今後は生成AIやIoT、マイクロサービスのさらなる普及により、API Gatewayがシステム全体の中核的なゲートウェイとして重要性を増すと考えられます。
特にイベント駆動型の分散システムとの連携強化や、開発効率向上のための自動化・ノーコード化が進むことが期待されます。