AWS ALBとは?仕組みから機能・導入手順・代表ユースケースまで完全解説

目次
1. AWS ALBとは?
ALB(Application Load Balancer:アプリケーションロードバランサー)は、AWS(Amazon Web Services)が提供するフルマネージド型のロードバランサーです。
その名前のとおり、アプリケーション層(OSI参照モデルでいう第7層、通称レイヤー7)で動作し、Web通信(HTTPやHTTPS)を対象に負荷を分散します。以前からAWSにはELB(Elastic Load Balancing)というサービスがあり、それには従来型のCLB(Classic Load Balancer)と、後発のALB・NLB(Network Load Balancer)があります。本項ではALBの基本的な役割を紹介し、CLBや他のロードバランサとの違いを明らかにしながら、ALBがどのような問題を解決するのかに焦点をあてます。
1-1 ALBの概要と役割
ALBは、Web アプリケーショントラフィックを効率的にさばくためのサービスです。特にHTTP/HTTPS通信に特化しており、アクセス要求(リクエスト)を受け取って、それを事前に定義されたルールに従ってターゲット(例えばEC2インスタンスなど)に振り分け(ルーティング)します。ALBが中継地点として機能することで、Webアプリケーションの応答速度向上や、個々のサーバにかかる負荷の分散が可能になります。また、ALBにはSSL終端(HTTPSの終着点となって暗号化を解除する処理)や、Web Application Firewall (WAF) と連携できるなど、Webサービスのセキュリティとパフォーマンスの両立に貢献する機能が備わっています。
1-2 従来のELBやCLBとの違い
CLB(Classic Load Balancer)は、レイヤー4(トランスポート層)からレイヤー7(アプリケーション層)までの基本的なロードバランシング機能を提供していましたが、柔軟さや拡張性には限界がありました。一方、ALBはレイヤー7で動作することから、リクエスト内容に基づいたきめ細かなルーティングが可能です。URLのパスやクエリ文字列、HTTPヘッダーの内容によって動的な振り分けが行えます。加えて、Lambda関数をターゲットにすることにも対応しており、サーバレスアーキテクチャとの親和性が高い点も重要な違いです。また、リスナーごとにルールを柔軟に設定できるため、変更や拡張対応のしやすさもALBの利点のひとつです。
1-3 ALBの位置づけ(アプリケーション層での負荷分散)
クラウドやWebアプリの構成において、ALBはアプリケーション層の入口として配置されます。これは、HTTPSやHTTPといったWebプロトコルの内容を解釈しながら処理を分配するためです。例えば、ユーザーがアクセスするURLのパターンに応じて異なるマイクロサービスに処理を分けたり、負荷状況に応じてサーバを自動で振り分けたりすることで可用性と分散性を高められます。この役割によって、ALBはシステムのフロントエンドに必須の存在となり、変化の激しいアプリケーション提供環境に柔軟に対応できるようになります。
2. ALBの主な特徴
ALBには、クラウドネイティブな設計思想にマッチしたいくつかの特徴があります。HTTPやHTTPSを前提とするアプリケーションが多様化し、それぞれに異なるルーティング制御が必要となった現代において、ALBが提供する細かい制御機能や高い柔軟性は多くのエンジニアにとって魅力的です。ここでは、レイヤー7対応、ルーティング制御、SSL終端機能など具体的な特長を紹介します。
2-1 レイヤー7 ロードバランシングの対応
ALBの主な特徴は、その名のとおりレイヤー7に特化している点です。これはユーザーが送ってくるHTTPリクエストの中身を詳細に解析した上で、ターゲット先を変えられることを意味します。例えば、URLに「/api」が含まれていればバックエンドAに、「/admin」が含まれていればバックエンドBにルーティングする、といった精密な振り分けが可能です。このような振る舞いは、セキュリティを高めたり、サービス単位でアーキテクチャを分離したりするために非常に有用です。
2-2 URLパスやホストベースでのルーティング
ALBはURLのパス(例:/login、/productsなど)や、ホスト名(例:www.example.comなど)ごとに異なる宛先に処理を分けるホストベースルーティングに対応しています。この仕組みにより、1つのALBの配下に複数サービスを設けるマルチテナント構成が簡単になります。中規模システムでもサービスの粒度を細かくして、別々にスケールやリリースが行えるようになるため、開発や運用の自由度が格段に向上します。
2-3 TLS(HTTPS)終端とリスナールールのフレキシビリティ
ALBはHTTPSの通信を受け止めてサーバ側へはHTTPで流す「TLS終端」に対応しています。これにより、証明書の管理もALBで集約することができ、ターゲット側の構成をシンプルに保てます。さらに、受信ポートごとに「リスナー」と呼ばれるエンドポイントを設定し、それぞれに細かいルール(リスナールール)を設定できます。これにより、ルーティング先を状況やリクエスト内容に応じて変更できる柔軟性が確保されます。
3. ALBのアーキテクチャと構成要素
ALBを適切に設計・利用するには、基本的な動作原理や構成要素の関係性の理解が欠かせません。ここでは、ALBの中核を成すリスナー、ターゲットグループ、IPやインスタンスの違いなどについて説明します。構成の理解はそのまま、エラー回避や効率的なリソース活用に直結します。
3-1 リスナーとターゲットグループの関係
リスナーとは、ALBが外部からの通信を受け付ける入り口で、ポート番号やプロトコル(HTTPやHTTPS)を指定します。受け取ったリクエストはルールに従って、ターゲットグループに送信されます。ターゲットグループは、複数のバックエンド(EC2やLambda関数など)をまとめた単位で構成され、リクエストの振り分け先になります。この役割分担により、構成の拡張や運用の自動化もしやすくなっています。
3-2 ロードバランサーの動作概要
ALBはDNSを通して名前解決され、ユーザーからのHTTP/HTTPSリクエストをハンドリングします。受信したリクエストはリスナーで検知され、ルールによって適切なターゲットへ送られます。ターゲットの応答がなければヘルスチェック結果に応じて他の正常なターゲットへフォールバックされます。この流れは完全にマネージドで、スケーラブルかつ可用性の高い通信が保証されています。
3-3 IPベースターゲットとインスタンスターゲットの違い
ターゲットグループに登録できるエンティティには、EC2のようなインスタンスだけでなく、IPアドレスベースのターゲットもあります。IPベースターゲットは、AWS外や別のVPC(仮想ネットワーク)に設置されたアプリケーションでもターゲットにできる利点があります。これによって、柔軟なネットワーク設定や、オンプレミスとのハイブリッド構成も可能になります。
4. ALBの利用シーンとユースケース
ALBは多様なWebサービスの設計と構築において中心的な役割を担います。とくにモダンアーキテクチャやマイクロサービス構成、サーバーレスへの対応など、システム全体の柔軟性と効率を向上できる点がメリットです。ここでは、ALBが活用される具体的な3つのシーンを通じて、その有用性を捉えていきましょう。
4-1 複数のマイクロサービスのルーティング
マイクロサービスとは、大きなアプリケーションを機能単位で分割し、それぞれが独立して開発・運用できるようにした設計方法です。ALBでは、リクエストのURLパスやホスト名によって、それぞれのマイクロサービスに適切なルーティングを行うことができます。例えば、「/user」に来たリクエストはユーザー認証サービスへ、「/product」に来たリクエストは商品管理サービスへ振り分けるような構成が可能です。これにより、サービス単位でスケール(拡張)させたり、メンテナンスを個別に行う柔軟性が得られます。
4-2 Webアプリケーションのスケーラビリティの向上
ALBは、処理リクエストに応じたバックエンドのスケーリングに対応可能です。例えば、需要が一時的に増えた場合、自動スケーリング機能と連動してバックエンドのEC2インスタンスを動的に増減させることができます。これにより、サーバー負荷によるレスポンス遅延を最小限に抑えながら、維持費を最適化できます。また、ALB自体も高可用性を確保しており、冗長化構成が標準で提供されるため、システム全体の耐障害性も高まります。
4-3 AWS Lambda関数との統合利用
従来のロードバランサーはEC2インスタンスのような仮想マシンを前提としていましたが、ALBはLambda関数というサーバレスコンピューティングリソースをターゲットに設定することができます。これにより、バックエンドにサーバなしで処理を記述できる「イベント駆動」の構成が可能になり、瞬間的なアクセス増加にも柔軟に対応できます。また、Lambda関数は秒単位の課金であるため、利用頻度が限定的なAPIや非同期処理の実行環境として非常に効率的です。
5. ALBのメリット5選
ALBには、柔軟なアーキテクチャ設計を実現するための複数のメリットがあります。スケーラビリティ、セキュリティ、コスト効率など多くの観点からシステム全体に好影響をもたらすため、新しいインフラ構成においてはALBの採用を前提とすることも多くなりました。以下では、その代表的なメリットを5つ取り上げます。
5-1 高いスケーラビリティと可用性
ALBは、AWSのインフラ上にネイティブに構築されており、自動的に負荷分散の処理能力をスケーリングします。リクエストが急増しても高トラフィックをさばけるように、物理的な台数や性能の設定を意識せずに済みます。また、複数のアベイラビリティゾーンにまたがって構成されるため、障害が発生しても別のゾーンがバックアップとして機能する可用性の高さも特長です。
5-2 セキュリティ機能との連携(WAF、HTTPSなど)
ALBは、AWS WAF(Web Application Firewall)とネイティブに統合されており、アプリケーション層の脅威(SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなど)からWebサービスを守ることができます。また、HTTPSに対応しており、TLS(Transport Layer Security)によって通信内容を暗号化できるため、ユーザーのデータを安全に取り扱うことができます。証明書管理はAWS Certificate Manager(ACM)と連携して行うことで、より簡略かつ安全な運用が可能になります。
5-3 リクエストルールの細かい制御
ALBでは、リクエスト条件に応じて高度なルーティングを設定可能です。例えば、HTTPヘッダーの値やクエリパラメータに応じて送信先を変更したり、リクエストに該当しないものに対して403エラー(アクセス拒否)を返すなど、精密なフロー設計ができます。この細かさにより、1つのロードバランサで複数の役割を同時に果たせる構成も実現できます。
5-4 オートスケーリングとの連携性
ALBは、Auto Scaling(自動拡張)とスムーズに組み合わせることができます。Auto Scaling Groupに所属するEC2インスタンスは、自動的にALBのターゲットグループに登録・削除されるため、手作業による構成ミスを防ぐことができます。これにより、アクセスの変動に応じてシステム構成が動的に変化し、高効率かつ安定した運用が可能です。
5-5 コスト最適化につながる柔軟な設計
ALBでは、必要な数のリスナーやターゲットグループの構成を柔軟に決定できるため、不要なリソースの維持コストを抑えることができます。また、リクエスト数に応じた課金モデルであるため、一定トラフィック以下のシステムでは従来よりも運用コストを低くすることが可能です。
6. ALBの導入ステップ
ALBの活用を始めるには、AWSマネジメントコンソールやAWS CLI(コマンドラインツール)から簡単に設定を始めることができます。ここでは、ALBの基本的な構成方法と準備ステップを解説し、導入に必要なプロセスを段階的に整理します。
6-1 前提条件と設定準備
まず、ALBを構築するためにはVPCの設定が整っている必要があります。VPC内に公開用のサブネットが最低2つ以上必要で、それらが異なるアベイラビリティゾーンに属している必要があります。また、SSL対応をする場合にはACMで証明書を取得しておきましょう。ターゲット(EC2、Lambda、IPアドレス)も事前に構築されていると、スムーズにロードバランサへ登録できます。
6-2 ロードバランサーの作成手順
AWSマネジメントコンソールから「EC2」サービスに移動し、メニューから「ロードバランサーを作成」→「Application Load Balancer」を選択します。名前、スキーム(インターネット向けか内部向けか)、ネットワーク構成を指定し、VPCとサブネットの設定を行います。
6-3 リスナーとルールの設定
リスナーはALBがリクエストを受信するための設定です。例えばHTTPS(ポート443)を選んだ場合は、証明書の指定もここで必要です。リスナーには「ルール」を追加することで、どのようなリクエストをどのターゲットグループにルーティングするか決定できます。条件分岐は視覚的なルールビルダーで直感的に設定可能です。
6-4 ターゲットグループの登録方法
最後に、ターゲットグループを作成してバックエンドリソースを登録します。ターゲットの種類(EC2やIP、Lambdaなど)を選び、インスタンスやIPアドレス、関数を追加します。ここでヘルスチェックのURLやインターバルを設定することで、ALBは異常なターゲットを検知しルーティングから外してくれます。
7. ALBの監視と管理
ALBは「使って終わり」ではなく、運用中のヘルスチェックやログ分析による監視・管理が不可欠です。AWSではCloudWatchやアクセスログといった標準機能を活用することで、ALBの状態やリクエストの挙動をリアルタイムに把握できます。これにより、障害の早期検出や予兆監視、セキュリティリスクの回避策など、システムの品質を維持するための重要な運用管理が可能です。
7-1 CloudWatchメトリクスでの監視
Amazon CloudWatchはAWSリソースの状態を可視化するためのサービスです。ALBの場合、「リクエスト数」「HTTPステータスコード別数値(2XX、4XX、5XXなど)」「ターゲットのレスポンスタイム」「ヘルスチェック失敗回数」など、主要な指標をダッシュボードとして表示できます。これにより、負荷状況や障害の兆候をグラフで直感的に理解でき、トラブル発生前のリスク排除にも役立ちます。
7-2 アクセスログの設定と確認ポイント
ALBのアクセスログとは、誰がいつどんなリクエストを行ったかの履歴を記録する機能で、S3バケットへの保存が可能です。アクセスログの活用によって、不正アクセスの可視化や、高負荷となっているURLパスの特定、意図しない使われ方をされているAPIの検出などが行えます。ログ出力を有効にし、定期的な見直しを行うことで、安定したシステム運用に貢献します。
7-3 ヘルスチェックの重要性と設定方法
ヘルスチェックとは、ALBがターゲットの状態を定期的に確認し、正常に応答するターゲットだけにリクエストを送る仕組みです。これにより、不安定なバックエンドがユーザーリクエストを処理するのを防ぎます。チェックするパス、応答コード、インターバル(間隔)、しきい値(何回連続で失敗すると異常判定されるか)などを適切に設定することで、より堅牢なサービス構成が可能になります。
8. よくあるトラブルと対処法
ALBは高い信頼性をもつサービスですが、設定内容やアーキテクチャに誤りがあると、期待した動作をしないことがあります。ここでは、インフラエンジニアがよく直面する3つの代表的なトラブルとその対応方法をご紹介します。
8-1 ターゲットがunhealthyになる原因
ALBの管理画面で「unhealthy(正常でない)」と表示される主な原因は、ターゲットの応答がヘルスチェックの設定条件に合わない場合です。HTTP 200以外を返したり、レスポンス時間が長すぎるケースで不健康と判断されます。まずは、ターゲットのアプリケーションが正しく動作しているか、ALBのヘルスチェックパスへ適切なレスポンスを返しているかを確認してください。また、セキュリティグループやネットワークACLが通信をブロックしていないかもチェックが必要です。
8-2 リクエストルーティングが期待通りに動作しない場合
ALBのリクエストルールでは条件が複雑になるほどミスが発生しやすくなります。URLパスにマッチしない、優先順位が想定と異なる、という理由で期待しないターゲットにルーティングされることがあります。トラブルシューティングの際は、ルールを1件ずつ検証し、ルールの順序や条件分岐に間違いがないか見直しましょう。無効なワイルドカード記述やホスト名の入力ミスもよくある原因です。
8-3 HTTPS接続が失敗する場合のチェック項目
HTTPS通信がエラーになる場合、原因の多くは証明書の設定ミスや、リスナー設定の不足、あるいはクライアントとの通信プロトコル不一致です。証明書はACMで発行・登録し、有効期限やドメイン一致を確認しましょう。リスナーがポート443で設定され、ターゲットグループに正しく関連付けられていなければ通信できません。CloudWatch のログや、ブラウザの開発者ツールでエラー内容を確認するのが第一歩です。
9. ALBと他AWSサービスとの連携
ALBはAWSサービスと密接に連携することで、その真価を発揮します。ここでは、セキュリティ、ドメイン管理、コンテンツ配信といった運用において、ALBと連携すると効果的な3つのサービスを紹介します。
9-1 AWS WAFとの統合
AWS WAF(Web Application Firewall)は、悪意のあるアクセスを防ぐセキュリティ機能です。ALBと統合することで、リクエストを受ける段階で不正アクセスをブロックできます。SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティングといった攻撃をルールベースで防止でき、ALBに追加負荷をかけず安心のセキュリティ対策を実現できます。
9-2 Amazon Route 53との名前解決連携
Route 53はAWSが提供するDNS(ドメインネームシステム)サービスです。ALBと組み合わせることで、自社のURL(例:www.example.com)とALBのDNS名を統合できます。これにより、ユーザーは覚えやすいURLにアクセスし、裏側ではALBがスケーラブルなルーティング処理を行うという、表と裏のバランスが取れた設計が可能です。また、ヘルスチェックを利用して別リージョンへのフェイルオーバー構成も構築できます。
9-3 CloudFrontとの組み合わせによる最適化
CloudFront(クラウドフロント)は、AWSのCDN(コンテンツ配信)サービスです。ALBとCloudFrontを組み合わせることで、静的なコンテンツはCloudFrontで高速配信し、動的コンテンツはALB経由でWebサーバに届ける、という最適な分担が行えます。また、CloudFront自体もオリジンドメインにALBを設定することで、全体構成の管理性も向上します。
10. まとめと今後の展望
この記事では、AWSのApplication Load Balancer(ALB)の基本から応用活用まで、体系的に解説してきました。ALBはレイヤー7に特化した設計により、柔軟なルーティング機能や高い可用性を備え、インフラエンジニアにとっては信頼性と拡張性を両立する選択肢となっています。将来的には、コンテナ基盤(ECSやEKS)やサーバレスAPI、エッジコンピューティングとのさらなる統合も進むと想定され、インフラ構築におけるキーコンポーネントとしての役割がますます高まるでしょう。今後ALBを導入・改善する際は、ここで紹介した手順やベストプラクティスを参考にしながら、自社に最適な構成を見出していくことが鍵となります。