中規模都市こそチャンス!DXと官民連携で描く地域の未来戦略ガイド

目次
1. DXによる地方創生とは
近年、日本では地方の課題解決と活性化が急務となっています。
人口減少や高齢化、地域経済の停滞など、全国多くの地方自治体が似たような悩みを抱えています。
こうした課題に対し、有力な解決策として注目されているのが「DX=デジタルトランスフォーメーション」の活用です。
ここでは、DXという言葉の意味や地方創生との結びつき、なぜ今その組み合わせが重要視されているのかを紐解いていきます。
1-1.地方創生の定義と背景
地方創生とは、東京一極集中を是正し、地域の活力や経済を回復させる政策全般を指します。
その目的は、地方に住む人々が安心して暮らせる社会をつくることにあります。
背景には、少子化と高齢化の進行、そして若者の都市部流出があり、どの自治体でも住民減少と産業の衰退が課題化しています。
特に中小規模の都市では企業誘致や雇用創出の難しさが続き、持続可能な地域を構築するための新たな方向性が求められています。
1-2.DX(デジタルトランスフォーメーション)との関係性
DXとは、デジタル技術を使って業務の在り方を根本的に変える考え方です。
単にアナログ作業をデジタルに置き換えるだけではなく、住民サービスや産業の構造改革を実現するための仕組みそのものです。
地方においては、AI(人工知能)やIoT(モノがネットにつながる仕組み)、クラウドといったデジタル技術を使うことで、少人数でも市民対応が可能になったり、広範囲な調査と分析で政策立案をスピーディに行うことが可能になります。
1-3.なぜ今「地方×DX」が注目されているのか
少子高齢化がピークを迎えつつあり、これまで通りの施策だけでは間に合わない状況にあります。
そのため、少ない人数や予算でもインパクトの出せるDXは期待されているのです。
また、新型コロナウイルスの影響でテレワークなど遠隔での仕事の普及により、「都会に住まなくても良い」という考え方が広がりました。
この変化は、地方にとって再注目されるチャンスとなっています。
デジタル技術で生活の質を上げ、人や企業を引き寄せることが地方再生のカギとなっているのです。
すでに一部の自治体ではDXを活用した魅力づくりが進み、他地域との差別化が始まっています。
これからの時代は、「選ばれる地域」と「取り残される地域」の二極化が加速する可能性があり、先手を打つことが今後の命運を分けるポイントとなるでしょう。
2. 政府の支援策と政策動向
地方自治体が単独でDXを推進するには限界があります。
ですが国も地方創生を重要課題と捉えており、政策や補助金などでさまざまな支援を行っています。
ここでは、国の長期ビジョンや省庁によるDX関連事業、自治体財源に関わる施策などについて解説します。
2-1.地方創生に関する国の長期ビジョン
政府は2014年に「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」を策定しました。
その中で掲げられているのは、地方でも安心して暮らせる社会、そして地域が自立的かつ持続的に発展できる仕組みづくりです。
このビジョンに基づき、5年ごとに見直しが行われ、例えば2021年版では「DXによる地域課題解決・地方の魅力向上」が明示されました。
国がDXと地方創生の融合に本格的に乗り出した証といえるでしょう。
2-2.総務省・内閣官房のDX関連事業
地方自治体のデジタル化を支援するために、総務省や内閣官房では多くの事業を用意しています。
「自治体DX推進計画」や「スマートシティモデル事業」などがあり、実証実験や職員研修などを積極的に支援しています。
また、「地域情報プラットフォーム整備支援事業」などでは、住民記録や税、健康など多様な情報を円滑に管理できる仕組みの整備を推進。
こうした事業は、申請すれば補助金も受けられ、地元の技術系企業と連携したプロジェクトにもつながります。
2-3.地方交付税の見直しと財政支援
DXの導入には費用もかかりますが、国はその面でも支援を強めています。
特に注目されているのが、「デジタル関連需要への配慮」という形で地方交付税の算定に工夫がされている点です。
デジタル人材の確保やICT(情報通信技術)導入に取り組む自治体が優遇される仕組みによって、自治体にとってのDX実行のハードルは以前より下がっています。
3. DXがもたらす地域社会への変化
DXが地方に実装されることで、どのような変化が住民の日常や地域全体にもたらされるのでしょうか。
ただ業務が効率化されるだけでなく、住民の生活の質向上、若者の定住促進、十分な医療・教育の提供など、波及効果はさまざまです。
ここでは実際の変化の内容とその意味を分かりやすく紹介していきます。
3-1.行政手続きのデジタル化と住民サービスの簡素化
多くの人が面倒に感じている行政の申請や届出。
これをオンラインで完結できるようにすることで、窓口の混雑緩和や市民側・職員側の時間削減が見込めます。
例として、婚姻届、保育の申請、各種税金のオンライン納付などが挙げられます。
また、高齢の方が利用しやすい画面や音声読み上げなどを備えたソフト導入も進められています。
すべての住民に寄り添う、包摂的なサービス実現の手段です。
3-2.テレワーク普及による移住・定住促進
コロナ以降、地方移住への関心が高まっています。
テレワークの普及によって「働く場所の選択肢が増えた」ことで、都会に住む理由が減ってきています。
一方で自治体側としても移住希望者を受け入れる体制の整備が求められています。
たとえば、空き家の情報を掲載するポータルサイト、引っ越し後の各種手続きをオンラインで受け付ける仕組みづくりもその一部です。
「田舎でも便利で豊かな暮らしができる」という実感が、移住定着のカギです。
3-3.教育・医療など地域生活インフラの革新
遠隔教育で都市部の質の高い教育を地方にも届けられるようになります。
また、地域内に医師が不足していても、遠隔診療(オンラインでの診察)で初期相談や経過観察が可能となります。
学校ではタブレットによる授業、オンラインでの進路指導。
介護施設ではバイタルセンサーによる健康管理や、体調異変の自動通知。
これらの仕組みは、地域の安心と自立を助けるための"デジタルの力"です。
4. 民間企業と自治体の連携事例
DXの効果を広げるために重要なのがパートナーシップの構築です。
特に技術やノウハウを持つ民間企業と連携することで、自治体の制約を乗り越える事例が多数あります。
本章では、テック系企業と自治体の連携事例を中心に、成功に至った要因を詳しく紹介します。
4-1.テックファースト×岩見沢市:らくらく地方創生DXの取り組み
北海道岩見沢市は「らくらく地方創生DXプロジェクト」に取り組み、タブレット活用とクラウド管理による行政業務の効率化を進めました。
業務日報や住民サービスの問い合わせなどをペーパーレスで行い、庁内の意思疎通が格段にスムーズになりました。
民間のIT企業『テックファースト』が提供した低コスト・直感的な操作性をもつツールは、ITに不慣れな職員にも好評でした。
導入後は月単位で進捗確認を行い、ユーザー視点での改善も継続しており、柔軟な開発体制と連携力が効果につながったとされています。
4-2.その他成功事例(例:つくば市、福岡市、豊岡市など)
茨城県つくば市では、AIを活用したゴミ収集ルートの最適化や、防災アプリによる災害対応力の強化に取り組んでいます。
福岡市では、スタートアップ企業との協業で、交通×DXの社会実装を推進し、バスのリアルタイム運行管理システムを構築。
兵庫県豊岡市では、ドローン(無人飛行機)による山間部の配送・見回りツールが地域医療や日常品流通の課題を解決しています。
これらの例では、地元大学や地域団体による協力体制も大きな支援となりました。
4-3.官民連携のポイントと継続性確保の工夫
連携を成功させるには、初期の段階で「目的の共有」と「役割分担の明確化」が必要です。
また、単年度で終わらず持続可能な体制を築くためには、KPI(重要成果指標)の設定と定期的な検証が重要です。
さらに、職員だけでなく住民も巻き込んだ説明会やモニター制度の導入も、定着を助ける工夫として評価されています。
パートナー企業側にとっても地域と連携することで、実証フィールドの確保や新たな市場開拓、CSR(企業の社会的責任)の実現といったメリットがあります。
官民双方が“共創のメリット”を明確に持ち、対等なパートナーシップを築くことが、短期的な成果だけでなく、地域の未来に向けた持続的な価値創出につながります。
また、住民を巻き込んだワークショップやデータのオープン化といった“参加型”の仕組みも、定着と信頼構築を後押しする要素となります。
5. DX推進における課題とボトルネック
DXには大きな可能性がありますが、導入には現実的な課題も存在します。
特に自治体の場合は、民間企業と比べて人材や予算面の制約が多く、順調に進まないケースも少なくありません。
ここでは、実際に多くの自治体が直面しているボトルネックと、その克服のヒントを紹介します。
5-1.デジタル人材の不足と確保策
技術を扱う専門人材が少ないというのが多くの自治体に共通した悩みです。
統計によれば、自治体職員の中でITスキルを専門的に持つ職員はごく一部に限られています。
そのため、外部からの専門家活用や、民間企業との連携研修、職員向けのリスキリング(スキルの再構築)がカギになります。
近年では、企業の副業として自治体支援に取り組む「プロボノ」人材の活用も広まりつつあり、柔軟な採用戦略が必要です。
5-2.高齢者・IT弱者に配慮したツール設計
デジタル化の進行は、便利で効率的な反面、年配の方などIT操作に不慣れな人にとってはハードルが高くなりがちです。
自治体のDXにおいては、この「デジタル・ディバイド(情報格差)」を埋めるための工夫が欠かせません。
音声案内対応や、わかりやすいアイコンを使った操作画面の構築、市民向けの使い方講習会など、ユーザーを意識した設計が効果的です。
デジタル化が真に地域住民に届くための「思いやりある設計」が問われています。
5-3.プラットフォーム整備・セキュリティ対策
複数のシステムを横断的に扱うには、情報を統合管理できる「共通プラットフォーム」の整備が必要です。
しかしながら、各部局ごとに別々のシステムを導入していた結果、データが散在してしまい管理が難しくなっている自治体もあります。
この解決には、全庁統一のプラットフォーム導入が有効です。
また、サイバー攻撃や個人情報漏洩のリスク対策として、暗号化技術やアクセス管理の厳格化も必須です。
住民の信頼を獲得しつつ、セキュリティと利便性のバランスを取ることが大切です。
6. DXが実現する持続可能なまちづくり
単なる業務効率化にとどまらず、DXは街全体のあり方を変える力を持っています。
重要なのは、デジタルによる「効率化」だけでなく、「地域の価値」をどう高めるかという視点です。
地域文化の継承、環境資源の保護、コミュニティのつながりといった“地域らしさ”を支える要素こそが、デジタル技術と融合することで新しい魅力を発揮します。
エネルギー、産業構造、ライフスタイルにまで影響を及ぼすDXは、持続可能な地域社会づくりに直結します。
ここでは、未来につながる「新しいまちづくり」のビジョンとその現実的な一歩を紹介します。
6-1.人口減少地域における新たな経済循環
地方では若年層の減少により、従来の商業や労働力モデルが通用しなくなっています。
しかし電子商取引(EC)を活用した特産品の販売、SNSを通じた広報活動、リモート観光といった取り組みにより、新たな常連顧客・支援者を全国から獲得できる可能性があります。
また、地域の空き家をデジタルでマッチングし移住支援とあわせて活用すれば、経済と住環境の循環を作り出すことができます。
6-2.カーボンニュートラルとIT活用の相乗効果
カーボンニュートラルとは、出す二酸化炭素の量を実質ゼロにする考え方で、国策としても位置付けられています。
地方でも、再生可能エネルギーの活用や省エネ施設の設計、エネルギー管理システムの導入が進められています。
ITと組み合わせることで「見える化」が進み、どの家庭や施設がどう電力を使っているかを把握し、改善へとつなげることができます。
環境とDXの融合は次世代に継承する都市計画のモデルになります。
6-3.スマートシティとの融合と未来像
スマートシティとは、ITを使ったインフラ運営で快適で安全な暮らしを目指す都市です。
地方でもセンサーを使った道路管理、混雑予測、データに基づいた交通整備、介護サービスの通知システムなどが導入されています。
将来的にはドローンによる定期巡回、AIによる公共交通の再構築なども期待されています。
これらは行政・住民・企業のコラボレーションによって実現される「新しい生活の形」の一歩といえるでしょう。
7. らくらく地方創生DXサービスの特徴と導入効果
地方自治体のDX導入を支援する「らくらく地方創生DX」というサービスが注目を集めています。
特に中規模都市や人口減少地域からの評価が高く、成功事例が着実に増えています。
ここではそのサービスの魅力と、導入した自治体の声を紹介します。
7-1.サービス概要と開発の背景
「らくらく地方創生DX」は、ITに詳しくない職員でも簡単に使えるUI(ユーザーインタフェース=操作画面)を特徴とし、庁内業務から住民対応まで幅広くカバーするクラウド型のツールです。
開発の背景には、現場の自治体職員から上がった「知識がなくても使えるDXツールが欲しい」という声がありました。
その要望に応える形で複雑な設定を排除し、シンプルかつ柔軟なカスタマイズ機能が搭載されました。
7-2.導入前後の変化:自治体職員・住民の声
導入前は「職員の手間が多く、近日中に人手が足りなくなるのではないか」という不安の声が多く聞かれました。
しかし、「らくらく地方創生DX」を利用することで、申請業務や内部共有がデジタル化され、ペーパーレスと情報の迅速共有が実現。
住民からは「窓口に行かなくても手続きできて助かる」「画面がわかりやすい」などの意見が増え、サービス向上にも寄与しています。
7-3.今後の機能拡張と全国展開計画
今後は、防災アプリと連動した避難支援機能、高齢者向けの見守りサービス、子育て支援の予約システムなど、生活をサポートする機能追加が予定されています。
また、「地域コミュニティ活性化」に向けたSNS風掲示板や地元イベントとの連携企画も開発中です。
道府県ごとのニーズに合わせた多言語対応・条例対応も進められており、全国100自治体以上への導入を目指しています。
8. 今後の展望とまとめ
DXだけが地方創生の答えではありません。
しかし、これまで打つ手がなかった地域課題に新たな風を吹き込めるのは確かです。
最後にこれから地方自治体が目指すべき方向性と実行する上で大切な視点を見ていきます。
8-1.DXによる地域共創の可能性
地域の課題に「市民発」のアイデアやIT企業の技術が加わることで、今までにない解決策が生まれます。
オープンデータの活用やワークショップ形式の政策形成など、参加型の市政運営により共感や納得感が生まれやすくなります。
行政と民間の距離感を縮めることで、地域全体への浸透も深まります。
8-2.成功に必要なマインドセットとパートナーシップ
最初から完璧な体制で挑む必要はありません。
スタート段階ではトライアル(試験運用)やモデル事業から始め、段階的に拡大していく「小さく始めて、大きく育てる」アプローチが有効です。
その際、失敗を恐れず柔軟に対応するマインドセットと、自治体だけでなく民間企業・大学・地域の声を巻き込んだ連携関係が成功のカギとなります。
8-3.住み続けたくなる街づくりに向けて
最終的なゴールは「便利さ」だけではなく、「暮らしたい街にする」ことです。
子育て世代、ご高齢の方、若い働き手など、全ての層にとって安心・便利・誇りに思える街にするために、DXはあくまでも手段です。
これからの地方自治体には、住民視点を第一に考えたDX活用が求められています。
地域の持続可能性を高めるには、自治体・企業・住民が一体となったDXの推進が重要です。
地方創生は単なる人口対策ではなく、「誰もが住み続けたくなる街」をつくるための挑戦です。
本記事が、地域におけるDX導入や共創型まちづくりの一助になれば幸いです。