AWSのAZとは何か?シングルAZからマルチAZ構成まで徹底比較と導入判断
 
          目次
1. AWSとアベイラビリティゾーンの基本理解
AWS(Amazon Web Services)は、クラウドインフラとして世界中で広く利用されていますが、その信頼性と拡張性の中核を担うのが「アベイラビリティゾーン(AZ)」という仕組みです。
ここでは、AZの役割や考え方について、AWSの全体像との関連から丁寧に解説していきます。
1-1 AWSとは何か
AWSとは、Amazonが提供するクラウドプラットフォームで、サーバー、ストレージ、データベース、ネットワークなど、企業のITインフラをクラウドで提供するサービス群の集合体です。
オンプレミス(自社で所有・運用するサーバー)とは異なり、必要な分だけリソースを使い、料金も利用量に応じて支払う「従量課金制」が特徴です。
そのため、コストの最適化や柔軟なシステム設計が可能になります。
AWSはインターネット経由でアクセス可能で、世界中に設置されたデータセンター群を使ってサービスを提供しています。
これにより、場所に縛られず、高速で安全なシステム設計が可能となるのです。
1-2 リージョンとアベイラビリティゾーン(AZ)の違い
AWSのインフラは「リージョン」と「アベイラビリティゾーン(AZ)」という2つの概念で構築されています。
リージョンは地理的な拠点を指し、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界各地に分布しています。
例えば「東京リージョン」は日本国内の利用者向けのAWSデータセンターがある場所です。
一方アベイラビリティゾーンとは、1つのリージョン内に存在する複数の独立したデータセンターのことです。
例えば、東京リージョンには複数のAZが存在しており、1つのAZに障害が発生しても他のAZが稼働を維持できるように構成されています。
つまり、AZはシステムの「故障に強い」構造を支える単位なのです。
1-3 AZが重要視される理由
AZは、システムの可用性を高めるために不可欠です。
可用性とは、システムが停止することなく正常に稼働し続けられる能力のことです。
1つのAZだけで運用していると、そのAZにトラブルが発生した際、システム全体が停止してしまうリスクがあります。
それに対し、複数のAZにまたがって同じシステム構成を取る「マルチAZ構成」にすることで、障害が起きた場合でもサービスの継続が可能になります。
これは、銀行や医療など24時間止められないサービスを提供する企業にとって、極めて大きな価値を持ちます。
また、セキュリティ面でもAZの分離は効果的で、1つの障害が他に波及しにくい仕組みとなっています。
2. AZの構造と仕組み
AZはただの地理的な枠組みではなく、物理的、ネットワーク的な側面で非常に洗練された設計をされています。
ここでは、AZの内部構造や、AZ間の通信の仕組みについて解説します。
2-1 AZ内部の物理的構成
1つのAZは、実際には複数の建物(データセンター)で構成されており、それぞれが独自の電源、冷却システム、ネットワークを持っています。
これにより、自然災害や火災などが起きても、被害の拡大を防ぐことができます。
データセンター内には、大量の物理サーバーやストレージ機器が並んでおり、仮想化技術により、ユーザーにEC2インスタンスやRDSなどのサービスとして提供されます。
また、AZ内部では、セキュリティが非常に厳重で、認証された技術者しか入れない場所や24時間体制の監視などが敷かれています。
このような物理的な備えにより、安定したサービス運用が可能になります。
2-2 AZ間の通信とネットワーク接続
同じリージョン内にあるAZ間は、高速で専用のネットワーク回線により結ばれています。
AWSの内部ネットワークは光ファイバーによる低遅延・高帯域ネットワークで、ユーザーにはほとんど遅延を感じさせません。
この高速なAZ間接続によって、マルチAZ構成にしたときに、システム全体の同期速度(リアルタイムのデータ反映など)を保つことができます。
そのため、ミッションクリティカルと呼ばれる「絶対に停止できない業務システム」にも対応可能です。
2-3 レイテンシとAZの地理的距離の関係
「レイテンシ」とは、通信にかかる時間、つまり遅延時間のことです。
異なるAZ間のレイテンシは低く抑えられており、AWSは一般的に1〜2ミリ秒程度の遅延を目指しています。
そのため、距離的には数キロ〜数十キロ離れていても、ユーザーにとってはほぼリアルタイムに近い通信が可能です。
また、地理的にある程度離れていることで、地震や停電などの災害が同時に起きる確率を下げており、安全性と通信性能の両立が図られています。
3. シングルAZ構成
システムをAWSに移行する場合、すべてのサービスでマルチAZ構成を採用するとは限りません。
限られたコストの中で必要な可用性を満たすために「シングルAZ構成」の選択肢も検討すべきです。
ここでは、その具体例と長所・短所、適した用途について解説します。
3-1 シングルAZの利用例
シングルAZ構成は、1つのアベイラビリティゾーンにだけシステムを配置する構成です。
この方式は、小規模な開発環境や検証環境、社内用途の非クリティカルシステム(業務に大きな影響を与えないシステム)に多く採用されています。
例えば、開発チームがソフトウェアを日常的にテストするための環境をAWS上に構築するとき、マルチAZにするほどの耐久性は求められません。
また、業務時間外のサーバーバックアップや、夜間限定で実行するバッチ処理システムでも同様に、シングルAZで十分な場合があります。
3-2 メリットとデメリット
シングルAZ構成の最大のメリットは、コストです。
リソースを複数のAZに分けて配置する必要がないため、運用費用や転送コスト、構成がシンプルになることでの管理工数が削減されます。
一方、デメリットは可用性の低さです。
一つのAZにハードウェア障害や停電、ネットワークトラブルが発生した場合、即座にシステムが停止してしまうリスクがあります。
また、保守作業やソフトウェア更新がAZ単位で発生することもあるため、急なサービス中断の可能性もあります。
3-3 いつシングルAZが適しているか
シングルAZ構成を選ぶ判断材料としては、次のような点をひとつひとつ確認すると良いでしょう:
- 障害時に数時間程度のダウンが許容されるか
- コストの優先度が非常に高いか
- 短期間のみ使用する一時的なシステムか
- 本番環境でなく、開発やテスト目的か
これらの条件に一つでも当てはまる場合は、無理にマルチAZにする必要はありません。
システムの重要度とリスクを天秤にかけて判断することが大切です。
4. マルチAZ構成
マルチAZ構成はAWSにおける高可用性(HA:High Availability)の基本とも言える重要な考え方です。
ビジネスにとって止められないシステムや、災害に強いインフラを構築したい場合には、欠かせない選択肢となります。
4-1 マルチAZの基本概念
マルチAZ構成では、1つのリージョンに存在する2つ以上のAZにまたがってシステムを配置します。
例えば、Webサーバーを2つのAZに並行して設置し、1つのAZに障害が発生したらもう一方が業務を継続する仕組みなどがこれに該当します。
データベースにおいても、AWS RDSでは「マルチAZ配置」を選ぶと、自動的にスタンバイインスタンス(待機用サーバ)が別のAZに作成されます。
主系にトラブルがあっても自動的に切り替わる「フェイルオーバー」という機能により、長時間のシステム停止を防げます。
4-2 マルチAZと高可用性(HA)の取り組み
高可用性とは、予期しない障害時にもできるだけ長くサービスを使い続けられる能力を意味します。
マルチAZにすることで、以下の点でHAが実現されます:
- 障害発生時に即時切り替えが可能
- メンテナンス時間の影響を最小限に抑える
- 一部AZ障害でも事業継続が可能
また、EC2(仮想サーバ)をAuto Scaling(自動スケーリング)と組み合わせて、異なるAZに分散して配置すれば、通信の負荷も分散でき、パフォーマンスも向上します。
4-3 マルチAZ構成時の注意点
メリットの多いマルチAZですが、その設計にはいくつか注意が必要です:
- AZをまたぐトラフィックは通信コストが発生します(AZ間転送コスト)
- AZ間の構成の差異により、不整合が起きてしまう場合がある(構成ミス)
- リージョン全体の障害には対応できない(AZではなくリージョンが落ちる可能性)
そのため、マルチAZを導入する際には、構成の対称性(できるだけ同じ構成にする)を意識し、Infrastructure as Code(IaC:構成をコードで記述)を取り入れると良いでしょう。
TerraformやAWS CloudFormationなどがその手段として適しています。
5. リージョン拡張の最新動向(2022年以降)
AWSでは毎年のように新しいリージョンやAZが追加されており、グローバルなサービス体制を進化させ続けています。
ここでは、最新のインフラ動向とAWSの戦略的な方向性について解説します。
5-1 新設されたリージョンとAZ(オーストラリア、カナダ、イスラエル等)
2022年以降、AWSは新たに以下のリージョンを開設しました:
- オーストラリア(メルボルン)
- カナダ(カルガリー)
- イスラエル(テルアビブ)
これらの追加により、現地の法規制やデータガバナンスに配慮しながら、高速で信頼性のあるインフラ提供が可能となっています。
特に金融や政府機関では、データを国境を越えて転送できない制約があるため、リージョンの多様化は非常に重要です。
5-2 グローバルインフラ全体の拡大傾向
2024年時点で、AWSは以下のインフラ規模を持っています:
- 33リージョン
- 105のAZ
- 地域ごとのローカルゾーン(エッジキャッシュ)
この規模感は、Microsoft AzureやGoogle Cloudを上回るとも評価され、AWSのグローバル戦略の強みとなっています。
また、「ローカルゾーン」や「アウトポスト」など、新しい展開形態によって、ユーザーのより近くに計算リソースを届ける技術も拡大中です。
5-3 今後の展望とAWSの戦略的動き
今後、AWSはさらなるリージョン・AZの拡張とともに、サステナビリティ(持続可能性)やカーボンニュートラルな運用への対応を進めています。
また、ローカルゾーン活用により、5G・エッジコンピューティングなど新しいユースケースが拡大していくことが予測されます。
このような動きは、エンタープライズ企業だけでなく、中堅企業や地方自治体などにとっても、新しいクラウド活用の可能性を広げるものとなります。
6. マルチAZ対応サービス一覧と特徴
AWSでは多くのサービスがマルチAZ構成に対応しており、それぞれのサービスで実現される可用性や冗長性の仕組みは異なります。
ここでは、代表的なマルチAZ対応サービスの実装例と、AZに依存しないサービスとの違いを紹介します。
6-1 EC2インスタンスのマルチAZ対応方法
EC2(Elastic Compute Cloud)は、AWSの仮想サーバーサービスです。
マルチAZ対応を行うには、Auto Scaling グループと ELB(Elastic Load Balancing)などを活用します。
Auto Scaling グループとは、一定の条件をもとにサーバーの数を自動で増減させる仕組みです。
これを複数のAZにまたがって構成することで、片方のAZが停止してももう一方が自動でインスタンスを補完する形となります。
また、ELBを使えばユーザーからのアクセスは自動的に正常なAZ側のサーバーへ振り分けられるため、障害時もシステムが継続して機能します。
6-2 RDSやElastiCacheなどのマルチAZ活用例
RDS(Relational Database Service)では、マルチAZ構成をオプションで選ぶだけで、AWSが自動的にスタンバイインスタンスを別のAZに配置します。
プライマリ(主)インスタンスが停止した際には、自動でスタンバイに切り替えるフェイルオーバー処理が実行され、ダウンタイムを最小限に抑えます。
ElastiCacheも、メモリキャッシュ方式(RedisやMemcached)で使われるサービスですが、マルチAZ配置によって高可用性型の構成が可能です。
これらのサービスは、マルチAZ構成をあらかじめ選択しておくことで、数クリックの設定変更だけで高度な冗長構成が手に入るのが特徴です。
6-3 S3、Route 53などAZ非依存型サービスとの違い
一部のサービスは、もともとAZの概念に依存せず、自動的に複数AZにまたがって冗長化されています。
代表的なのが S3(オブジェクトストレージ)や Route 53(DNSサービス)です。
S3は、オブジェクトを保存する際、自動的に3つ以上のAZに複製を行い、高い耐久性と可用性を実現しています(耐久性99.999999999%)。
Route 53 も、可用性の高いインフラ上で稼働しており、障害を感じさせない迅速なDNS応答が特徴です。
このようなサービスは、ユーザー側で特別な構成を意識せずとも、安全性が保たれているという違いがあります。
7. 可用性と災害対策(DR: Disaster Recovery)におけるAZの役割
可用性を確保し、災害時にも業務を継続させるためには、AZを意識した災害対策(DR)設計が重要です。
DRとは災害発生後にできるだけ早くサービスを復旧させる仕組みのことです。
7-1 マルチAZによる冗長化
冗長化とは、システムにバックアップや代替構成を持たせることで、障害に強い体制を構築することです。
AZを分けてサーバーやデータベースを配置することで、片方の施設に災害が発生しても、残りのAZがシステムを維持できます。
このように冗長化された設計にすることで「耐障害性」(フォールトトレランス)も高まります。
RPO(目標復旧時点)やRTO(目標復旧時間)と呼ばれる観点からも、マルチAZ構成はDRの実現に大きな役割を果たします。
7-2 障害の種類とAZ単位での切り分け
AWS上で想定される障害には、以下のようなものがあります:
- ハードウェア故障(ディスク、メモリの物理障害)
- ネットワーク障害(一時的な通信断)
- 電源障害や自然災害などによるAZ停止
これらが発生したとき、シングルAZで運用していればそのAZ内の全リソースが影響を受けてしまいます。
AZ単位での構成の切り分けにより、影響を最小限に抑えることが可能になります。
7-3 DR設計時のベストプラクティス
DR設計においては、次のようなベストプラクティスが有効です:
- バックアップは別AZまたは別リージョンに保管
- フェイルオーバーは自動化し、RTOを数分以内に
- 定期的なテストによってDRシナリオを検証
さらに、AWSが提供する「AWS Backup」「AWS Elastic Disaster Recovery」などの専用サービスの活用も、効率的な災害対策に繋がります。
8. 費用と設計判断におけるAZの考慮点
システム設計では、「費用」と「可用性」のバランスが非常に重要です。
ここでは、実際のコスト計算や設計上の判断指針について見ていきます。
8-1 マルチAZ利用時のコスト構成
マルチAZ構成を採用すると、以下のようなコストが加算される場合があります:
- AZ間通信(リージョン内だが異なるAZ間のデータ転送)
- 冗長サーバー分のインスタンス利用料
- 各AZにまたいだロードバランサーやストレージ構成
例えば、RDSのマルチAZ構成では、スタンバイインスタンスにも費用が発生します[ただしリードレプリカ利用時と比較してはるかにシンプルです]。
8-2 可用性 vs コストのトレードオフ
可用性を最大限に高めれば費用も増加するため、ビジネス要件に応じて「どこまで求めるのか」を明確にすることが大切です。
例えば、1日中稼働するECサイトと、夜間にしか動かさない社内システムでは、求める可用性が異なります。
重要なのは、システムの停止がどれだけの損害・影響を与えるかという「金額換算」をし、それに見合うインフラ設計を行うことです。
これは経営層への提案資料作成時にも有効です。
8-3 小規模システムでAZ戦略をどうするか
中小企業やスタートアップ、開発フェーズのプロジェクトにおいては「いきなり全部マルチAZ」は過剰かもしれません。
その場合は、段階的にマルチAZ化を進めるのも戦略の一つです。
例えば初期段階では本番環境のみマルチAZとし、開発・テスト環境はシングルAZで維持する、また金曜日の夜間などに定期バックアップを別AZへ保存するだけでも大きなメリットがあります。
9. ベストプラクティスと実例紹介
最後に、さまざまな業種でのマルチAZ活用事例と、注意すべき設計ミスを紹介します。
9-1 代表的な業界活用事例(金融、医療、教育など)
【金融業界】では、24時間365日稼働が求められるバンキングシステムにおいて、マルチAZ構成での稼働は当たり前になっています。
【医療機関】では、患者データや画像の保管にS3とRDSを組み合わせ、耐久性と復旧性を兼ね備えた仕組みを実装しています。
【教育現場】でもオンライン授業の急激な普及により、EC2とEFSのマルチAZ構成が活用され、不具合・遅延に備えた設計が実施されています。
9-2 よくある設計ミスとその対策
- 異なるAZにインスタンスを置いたが、ELB設定を忘れていた
→ ELBを挟まないとAZの冗長性は担保されない
- AZごとの構成差により挙動が一致せずエラー発生
→ IaC(Infrastructure as Code)でのテンプレート化が有効
9-3 AWS Well-Architected Frameworkとの関連
AWSが公式に示す「Well-Architected Framework」では、可用性や信頼性に関するベストプラクティスが示されています。
マルチAZ構成は、その中でも「信頼性の柱(Reliability Pillar)」に位置付けられ、定期的な構成レビューが推奨されています。
10. まとめと今後の学習ステップ
この記事では、AWSにおけるアベイラビリティゾーンの基本から、高可用性の設計、サービスごとの利用法、費用対効果、実例に至るまで包括的に解説しました。
10-1 AZの役割の振り返り
AZは、AWSの信頼性と柔軟性を支える土台です。
設計の段階からこの概念を理解しておくことで、適切にリスクを分散し、高品質なサービスが設計できます。
10-2 AWSインフラ理解を深めるためのおすすめリソース
- AWS公式ホワイトペーパー「高可用性設計」
- AWS Well-Architected Tool
- re:Inventセッション(年1開催の技術カンファレンス)
10-3 次に学ぶべきサービス(VPC、Transit Gatewayなど)
インフラ全体最適化を視野に入れるなら、VPC(仮想ネットワーク)、Transit Gateway(VPC間ハブ)など、ネットワーク系サービスも理解が求められます。
それらを併用すれば、セキュアかつ柔軟なマルチAZ設計が可能になるでしょう。
 
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