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現場から始まる建設業の変革:DXの成功事例と導入ステップ

現場から始まる建設業の変革:DXの成功事例と導入ステップ
デジタルトランスフォーメーション(DX)が建設業界にも革新をもたらす中、多くの現場では依然としてアナログ業務や人材不足といった課題が山積しています。 本記事は、システム・アプリ開発を行っているデザインワン・ジャパンDX事業本部の事業責任者・泉川学監修のもと、建設業DXの基礎知識から技術、活用事例、支援制度までを体系的に解説します。 建設業の未来を見据える方に役立つ内容となっていますので、ぜひご一読ください。

目次


1. 建設業界の現状と課題

建設業界は日本経済を支える重要な産業である一方、慢性的な人手不足や効率化の遅れといった深刻な課題に直面しています。
技術の進化により解決策はあるものの、実際に現場での導入が進まず、長年に渡る業務体制が足かせとなっている状況です。
ここでは、現場で感じる三大課題―労働力不足、安全性、アナログ業務―を整理していきます。


1-1.労働力不足と高齢化の進行

日本全体で少子高齢化が進むなか、建設業でも労働者の約35%が55歳以上という現実があります。
若手の入職が伸び悩み、世代交代がうまく進まないため、現場ではベテランへの依存状態が続いています。
これは、熟練技術の継承が困難になり、生産性の将来的な低下が懸念されています。
加えて、地方では職人の数自体が激減しており、工期の遅延や品質のばらつきが社会問題となってきています。


1-2.長時間労働と安全管理の課題

限られた人員で複数の工事を抱える企業が多く、現場ではしばしば長時間労働が常態化しています。
労働時間が長くなればそれだけ事故のリスクも高まり、現場の安全性確保が難しくなる悪循環に陥りがちです。
また、作業日報や報告書作成などの事務作業がアナログ方式のまま、作業現場での情報共有がスムーズに進まないことも、労働環境の悪化要因となっています。


1-3.非効率な業務プロセスとアナログ作業の現状

図面の変更がFAXや紙資料でやり取りされる、進捗確認が電話や口頭での報告に頼るといったアナログな工程が残されている現状では、ヒューマンエラーの温床となり、手戻りが頻発します。
また、確認者ごとに基準が異なり「その人がいなければ進められない」といった属人化も見られます。長年同じ方法に慣れた現場にとって、「業務のやり方を変える」こと自体が高いハードルとなってきました。


2. 建設業DXとは何か?

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、単なるIT活用ではなく、デジタル技術を活用して業務の仕組みや組織そのものを抜本的に変革していくことを意味します。
建設業界においても、業務効率化や安全性向上だけでなく、新しい価値を創出するためにDXが注目されています。


2-1.DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義

DXは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略で、企業が最新のデジタル技術を取り入れて、ビジネスの形や働き方そのものを変えていく取り組みのことを指します。
ただのIT化ではなく、“何を変えて、どうメリットを生むのか”まで求められるため、経営層と現場が一体になった変革が不可欠です。


2-2.建設業DXの目的と導入背景

主な目的は、①労働生産性の向上、②安全性の確保、③若手の働きやすい現場づくりの3点です。
その背景には人材不足や働き方改革への対応に加え、建設投資の減少、中小建設業の業績悪化など経営課題の複雑化が挙げられます。
また、建設キャリアアップシステム(CCUS)など、国の制度改革もDX推進のきっかけになっています。


2-3.他業界とのDX比較

製造業ではIoTやロボティクスの導入が進み、物流業ではAIによる需要予測、医療業では遠隔診療が普及するなど、業種によってDXの形は異なります。
建設業では「現場」があるため、紙資料や口頭指示といった従来の仕事法が根強く、DXが進みにくい土壌があるものの、逆に多くの変革余地が残されている業界といえます。


3. 建設業DXを実現する主要技術

建設業でのDXを実現するためには、最新のデジタル技術の活用が欠かせません。
ここでは、今注目されている4つの技術 ― BIM(ビム)、IoT(アイオーティー)デバイス、ドローン・3Dスキャン、AI(人工知能)・機械学習 ― を紹介し、それぞれが現場にもたらす価値について具体的に解説します。


3-1.BIM(Building Information Modeling)

BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)は、建物の形だけでなく構造や設備、工事の順序なども含めた三次元(3D)の情報モデルを作成する技術です。
従来の図面は「2D」で、人によって解釈がバラつくこともありましたが、BIMを使えば関係者間で設計意図を共有しやすくなることが可能になります。
設計変更があった際にも瞬時に反映されるため、ミスや手戻りを大幅に削減することができます。


3-2.IoTデバイスとセンサー技術

IoT(インターネット・オブ・シングス)とは、モノにセンサーや通信機能を搭載し、インターネットを通じて情報を収集・管理する技術です。
重機の稼働時間を測定するセンサーを取り付けることで、機械の使いすぎや作業者の無理な労働を把握できます。
また、安全ベストやヘルメットにセンサーを装着し、作業員の位置情報や挙動を監視することで事故の予防にもつながります。


3-3.ドローン・3Dスキャン活用

高所や広範囲を人が直接確認するには時間と危険が伴いますが、ドローン(小型無人飛行機)を使えば、空撮や測量を短時間で安全に行うことができます。
さらに3Dスキャンと組み合わせることで、地形や進捗の変化を高精度で記録できるため、図面とのずれを早期に発見し、手戻りを未然に防ぐことが可能になります。


3-4.AI・機械学習による施工品質の向上

AI(エーアイ、人工知能)や機械学習(人間の学習をまねてコンピューターが改善する仕組み)を導入することで、過去の施工データや現場の事例をもとに最適な作業計画を自動で提案できるようになります。
天候データや過去の工事履歴を組み合わせて、コンクリートの乾燥時間を予測したり、安全リスクが高まる時間帯を事前に提示したりする活用法が研究・実用化されています。


4. 業務別に見るDX化のアプローチ

建設会社の現場では「設計」「施工」「工程管理」「現場安全」「原価管理」など、業務の種類ごとに異なる課題が存在します。
ここでは各業務におけるDXの取り組み方を紹介し、自社の状況に応じた改善のヒントを導きます。


4-1.設計・施工段階でのデジタル化

前述のBIMやCAD(キャド:設計用コンピューターソフト)を使った図面作成により、関係者間での情報共有がスピーディーになります。
設備配置の設計変更が発生した場合、BIMを通じて図面とモデルが自動で連動するため、効率的に次の工程へ進むことができます。これにより、多重での打ち合わせや現場への再指示が減り、施工ミスの削減にもつながります。


4-2.工程管理・進捗管理の高度化

進捗確認をスマートフォンやタブレットでリアルタイムに報告・閲覧できるようにすることで、事務作業の短縮と現場職員の負担軽減が実現します。
また、クラウド(ネット上の保存場所)上で工程表や資材状況を可視化することで、本社と現場の情報格差をなくすことができます。
システムの導入次第では、遅延の兆候を自動検出し、早期対応が可能になるメリットもあります。


4-3.現場作業員のサポートと安全性強化

作業員一人ひとりの健康や動作状況をセンサーで24時間把握することで、体調異変の予兆を検知したり、重機との接近をアラートで知らせたりするシステムが増えています。
特に夏場や寒冷地では体調管理が重要であり、DXの力で“安全安心な職場づくり”が可能になります。
スマートグラスによる現場マニュアルの可視化、音声入力による作業記録など、「誰でもミスなくできる環境」の創出にも注目です。


4-4.原価・予算管理の自動化と最適化

工事ごとの予算管理や人件費、資材コストなどの入力・計算を自動で行えるソフトウェアが増えています。
従来はエクセルで手作業していた負担が軽減され、「見える化(数値として把握すること)」と「即時対応」が可能になります。月次や日次で収支報告を出せるようにしておくことで、赤字リスクを早期に察知することができ、上層部への報告も円滑に進みます。


5. 建設業DXの成功事例

建設業におけるDXは、導入が遅れていると言われる一方で、すでに大きな成果を出している企業も存在します。
成功事例から学ぶことで、自社での取り組みに活かせるヒントを得ることができます。
ここでは、国内のゼネコン、中小企業、さらには海外での興味深い取り組みなど、さまざまなスケールでの成功例を紹介します。


5-1.国内ゼネコンによる導入実績

大手建設企業では、すでにBIMやAIを全面的に採用し、設計から施工、維持管理までを一貫して統合するシステムを構築している事例があります。
ある大手ゼネコンでは、BIMとIoTを融合させて施工中の振動や温度、ひずみなどのリアルタイムデータを収集・分析し、構造上の問題を早期に察知する体制を整えています。
これにより、従来では経験と感覚に頼っていた部分が数値化され、再現性の高い施工が可能になりました。


5-2.中小企業が実現した業務改善モデル

中堅や中小規模の建設会社でも、段階的にDXを導入することにより、大幅な業務改善を達成した事例があります。
社員数50名ほどの企業が、クラウド型の進捗管理ツールを導入した結果、工程の見える化が進み、会議の時間が半減。
日報もスマホでその場から写真付きで共有できるようになり、管理者の移動時間が大幅に削減されました。
このようにスモールスタートで成果を積み上げるアプローチが、成功の鍵となっています。


5-3.海外の先進的DX導入事例

海外、特にシンガポールや北欧諸国では、国主導で建設現場のデジタル化が進められています。

都市全体の設計段階でBIMが義務付けられている地域もあり、建物だけでなくインフラや交通設備も含めて統合管理が可能になっているケースもあります。

中には、3Dプリンターを使って建物の構造を自動生成するプロジェクトも進行中で、施工コストと時間を大幅に削減できる可能性が示唆されています。


6. DX導入のステップと人材育成

DXは技術の導入だけで完了するものではなく、企業全体の文化や業務構造をどう変えるかが問われます。
そのためには適切な導入手順と、DXを担える人材の育成が必要です。
ここでは、DX導入における現実的なステップと、それに不可欠な体制作りについて紹介します。


6-1.導入のための準備と社内改革

まずは現場の課題を「見える化」し、経営層がDXの目的を明確に定めるところから始めましょう。
そして、初期は“全社導入”ではなく“モデル現場”でのテスト運用からスタートすることで、失敗リスクを小さくすることができます。
また、システムを導入するにあたっては、会議体の刷新や業務フローの見直しも欠かせません。「うちの会社じゃ無理だ」と諦めず、小さな成功を積み重ねる姿勢が改革を進める推進力となります。


6-2.DX推進チームの構築

DX導入には、技術だけでなく「それを動かす組織」が必要です。
現場を熟知した職員と、ITに詳しい社外メンバー、経営層をつなぐ“DX推進チーム”を社内に作ることが推奨されます。
このチームは、ツールの選定や評価、現場との調整役を担うため、現場知識とITリテラシー(ITを正しく使う力)の両方が求められます。
また、週一回でもいいので、定期的に報告・見直しの場を設け、プロジェクトが孤立化しないようにすることが大切です。


6-3.IT/DX人材の育成と外部パートナーとの連携

多くの建設企業ではIT人材が不足しており、“デジタルに強い若手”を意識的に育てる姿勢が重要になります。
社内教育だけに頼らず、外部ベンダーや専門会社と協業して、ノウハウを得ながら徐々に社内に蓄積していく形も効果的です。
特に中小企業では、クラウドサービスやサブスク型(定額制)のソリューションを活用し、まずは試してみる文化を作ることが鍵となります。


7. 支援制度と国の取り組み

DX推進を後押しするために、国や行政も多くの施策を提供しています。
これらの制度を活用することで、資金や人材、情報面でのハードルを低くすることができます。


7-1.国交省が進める「i-Construction」

「i-Construction(アイ・コンストラクション)」は、国土交通省が掲げる建設業の生産性革命プロジェクトです。
ICT(情報通信技術)の全面活用を推進し、測量から設計、施工、検査までを一貫してデジタル化することで、これまでの仕事のあり方を根本から見直す動きです。
関連ガイドラインやモデル事業が用意されており、中小企業でも取りかかりやすい設計になっています。


7-2.各種補助金・税制優遇制度

中小企業庁や経済産業省では、IT導入補助金や事業再構築補助金など、DX関連事業を支援する制度を数多く用意しています。
また、DX推進に使うITツールに対しての減税措置や、スマート施工設備導入に関する条件付き助成金もあり、最大で導入費用の50%程度が支援されるケースもあります。
制度活用には事前相談・申請手続きが必要ですが、地元商工会や専門士業のサポートを頼ることが可能です。


7-3.地方行政とデジタル化推進ネットワーク

都市部に限らず、地域単位で建設業界のデジタル化を支援する「デジタル化推進センター」や「自治体による情報共有ネットワーク」が広がりを見せています。
これにより、地域内の建設会社同士が横のつながりを持ち、共同でセミナー開催やデータ利活用の標準化の検討が行われています。
個社での取り組みが難しい場合でも、地域ぐるみでDXに取り組める環境が整ってきています。


8. DXによって変わる建設業界の未来

建設業DXの推進は、これまでの働き方や仕組みを大きく変え、未来の業界に新たな価値をもたらしています。
未来を見据えたとき、どんな変化が期待できるのか、生産性、働き方、環境対策といった観点から、建設業の未来像を描きます。


8-1.生産性向上と働き方改革の実現

デジタル技術を取り入れることで、設計から施工、管理までのミスや重複作業が減り、業務効率が大幅に高まります。
これにより、生産性が向上し、少ない人数で多くの仕事をこなせるようになります。
さらに、ICTやクラウドの活用により、現場業務と管理業務の境界がなくなりつつあり、「働く場所やスタイルを選べる時代」が到来しています。
これにより、長時間労働の是正や残業削減が現実のものになりつつあります。


8-2.若手就業者の増加と業界イメージの刷新

これまで「3K(きつい、汚い、危険)」と呼ばれてきた建設業ですが、DX導入により業務がスマートになり、現代的な職場として注目されるようになっています。
若者にとって、そのような変化は大きな魅力となるため、新たな人材の獲得につながる可能性があります。
現場でタブレットやドローンを活用するスタイルは、ITスキルを持つ若い世代にとっても親和性が高く、今後の人材不足対策としても期待が持てます。


8-3.環境配慮型建設とサステナブルな未来

DXは環境負荷の軽減にも貢献します。
ICT施工により不要な移動や無駄な工事を抑えられ、CO2排出量を削減可能です。
また、資材使用量やエネルギー消費量をリアルタイムで把握することで、効率のよい現場運営ができ、結果的に「地球にも優しい現場づくり」に近づきます。
建物のライフサイクルまで管理できるDXツールの活用により、サステナブル(持続可能)な社会の実現にも建設業が貢献できるようになるでしょう。


9. よくある課題とトラブル事例

DXの効果は明らかですが、導入の過程で多くの企業が悩みやつまずきを経験しています。
ここでは、実際に起こりやすいトラブル事例を取り上げ、事前に備えるべきポイントと解決のヒントを解説します。


9-1.システム導入でつまずくケース

「導入=成果」と考え、準備や研修を怠ると、せっかくの新システムが「使えない」「わかりづらい」と現場に受け入れられないことがあります。
また、通信環境が整っていない現場では、ツールの動作が不安定となり、期待するほどの効果が出ないケースも見られます。
事前に小規模なテスト導入やトレーニング期間を設けることが、定着のカギとなります。


9-2.社内抵抗と文化変革の壁

「今までのやり方で問題なかった」「新しいことは面倒」という意識は、業界に限らず変革を妨げる大きな壁です。
現場のベテラン層がデジタルに抵抗感を示すこともあります。
そのためには、いきなり大きく変えるのではなく、小さなメリットや成果を“見せる”ことで意識改革を誘発し、丁寧な説明やサポートが求められます。
最初のステップでは、「試してみよう」と思ってもらう環境づくりが必要です。


9-3.セキュリティ・データ管理の課題と対応策

DX導入に伴い、クラウド上での情報管理や遠隔操作が当たり前になる一方で、サイバー攻撃や情報漏えいのリスクも高まります。
中小企業では特にセキュリティ対策が不十分なことが多いため、基本的対策を怠らないことが重要です。
ウィルス対策ソフトの導入だけでなく、アクセス管理の厳格化や従業員へのITリテラシー教育など、段階的なセキュリティ政策を整備していくことが求められます。


10. 今後の展望と共創への取り組み

建設業界が今後さらなる成長を遂げるためには、企業単位での取り組みに加え、業界・地域全体での協力関係を深める“共創”的な視点が重要となってきます。
最後に、他企業・地域との連携による未来志向のDX戦略をご紹介します。


10-1.パートナー企業との協業モデル

施工会社と設計事務所、資材業者、ITベンダーなどとの連携を深めることで、より高度な一貫管理体制が実現可能となります。
異なる会社が同じプラットフォームでBIMデータを共有することで、設計と施工、発注業務のタイムロスを削減し、コストダウンにもつながります。
単独では難しい技術導入を、得意な連携先と組むことで可能にする「共創関係」が、これからの建設DXには不可欠です。


10-2.プラットフォーム構築と情報共有化

業務フローや技術情報をオープンにし、企業の枠を越えた情報共有を進める「標準化」の動きが加速しています。
日本でも民間主導で建設情報統合プラットフォームの構築が始まっており、ビッグデータを業界全体で活かす仕組みが目指されています。
これにより、施工の最適化だけでなく、災害時の早期復旧支援や公共インフラ整備にも効果が期待されます。


10-3.会員・地域との共成長戦略

地域密着型企業にとっては、地域の特性を活かしたDXが重要です。
自治体や地域団体と一緒に現場課題を共有し、ローカルのニーズに合ったシステムや働き方改革を進めることで、地域全体の価値向上にもつながります。
特に災害が発生しやすい地域では、被災時の迅速な対応においてもデジタル化が力を発揮します。

建設業におけるDXを進めるには、現場の課題に向き合い、業務と組織の両面から変革に取り組むことが重要です。

本記事が、貴社の持続可能な成長と未来を見据えたDX推進の一助になれば幸いです。




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