DXとIT化の違いとは?定義・事例・進め方をわかりやすく解説

目次
1. DXとは何か?
近年、企業経営において欠かせないキーワードとなった「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。
単なるITツールの導入だけでなく、企業の存在そのものに関わる「変革」を意味しています。
ここでは、DXの定義や推進の背景、そして企業がDXを実施する本当の目的についてわかりやすく解説します。
1-1.デジタルトランスフォーメーションの定義
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、「デジタル技術を活用して、ビジネスそのものを根本から変えること」を指します。
もともとは2004年にスウェーデンの教授が情報社会における人々の生活の変化を表すために使い始めた言葉です。
現在では企業経営の文脈で広く使われており、顧客体験の見直し、新たな市場戦略の立案、業績改善などあらゆる変革が含まれています。
「ITツールを導入すること」と混同されがちですが、DXは単なる効率化ではなく、企業の在り方や提供価値を根本的に作り替えることを目指しています。
商品を売る会社から「サービスを通した体験を提供する会社」に変わるのもDXの一環です。
1-2.世界や日本でのDX推進の背景
世界各国でDXが重要視されるようになったのは、以下のような背景からです。
まず第一に、インターネットやスマートフォンの普及により、消費者の行動が大きく変わったことが挙げられます。
簡単に他社のサービスと比較検討できる現代では、従来通りの製品やサービスでは顧客の心をつかむのが難しくなってきました。
また日本では、高齢化や労働人口の減少という社会課題も影響しています。
限られた人材で成果を出すためには、業務の自動化や柔軟な働き方が不可欠であり、これを実現するためにDXが注目されているのです。
経済産業省は、2025年までにDXが進まなければ多くの企業が時代に取り残され「2025年の崖」に直面すると警鐘を鳴らしています。
つまり、DXの推進は「未来に生き残るための企業改革」とも言えるのです。
1-3.企業がDXを進める目的とは
企業がDXを進める一番の目的は、「変化に強く、持続可能な組織になること」です。
時代の流れや顧客のニーズが目まぐるしく変わる中、これまでの成功体験や仕組みが通用しなくなっています。
そこで、ビジネスのやり方を見直し、最新のデジタル技術を活用して、柔軟で変化に対応できる組織へと生まれ変わる必要があるのです。
また、企業はDXを通じて、新しい価値を創出し、他社との差別化を図ることができます。
データを分析して個別のニーズに合わせたサービスを提供したり、遠隔地からでも質の高いサポートを実現したりと、デジタルの力で付加価値を高めることが可能です。
2. IT化とは何か?
デジタル技術を活用する取り組みとして、長年の歴史を持つ「IT化」。
DXと混同されがちですが、実は目的や範囲が異なります。
ここでは、IT化の定義や過去の取り組み事例、そしてDXとの関連性について解説します。
2-1.IT化の定義と具体例
IT化とは、「既存業務の効率化や省力化を目的に、情報通信技術(IT)を導入・活用すること」を意味します。
手作業で行っていた在庫管理をパソコンのソフトで行ったり、紙の書類をデータ化して共有したりすることが代表的な事例です。
他にも、営業日報や請求書などの作成を自動化する「業務処理システム」を導入したり、社内チャットやWeb会議ツールなどを活用した「コミュニケーションのデジタル化」などがあります。
ここでの目的は主に「時間を短縮すること」「ミスを減らすこと」「効率を上げること」にあります。
2-2.過去のIT導入とその成果
過去数十年にわたり、多くの企業がIT化に取り組んできました。
1990年代から2000年代にかけては、ワープロや表計算ソフトの普及が進み、事務作業のスピードが大幅に向上しました。
また、2000年代以降には業務全般を支援する「ERP(統合業務管理システム)」が導入されるようになり、経理、在庫、販売分析などを一元管理できるようになりました。
IT化によって、業務の標準化や人的ミスの削減が実現され、生産性が向上した事例は数多く存在します。
しかし、IT化はあくまで「今ある業務の効率化」が目的です。
そのため、基本的な業務の枠組みを超えて大きな変革を遂げるには限界があります。
ここがDXとの大きな違いとなる部分です。
2-3.IT化と業務自動化の違い
よく似ている言葉に「業務自動化(BPA:Business Process Automation)」があります。
これは、繰り返しの処理をソフトウェアに任せて自動的に行うことを意味します。
毎月発生する請求書の作成や、顧客情報のデータ入力といった作業をRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といったツールで自動化することで、業務コストの削減につながります。
ただし、業務自動化もIT化と同じく、「今の業務フローをそのまま残した上での効率化」であり、「業務そのものの再設計」や「組織全体の刷新」まで踏み込まない点でDXとは異なります。
現場での作業や作業手順の改善という観点では重要な取り組みですが、会社の競争力を強化する視点では、それだけでは不十分なのです。
3. DXとIT化の根本的な違い
DXもIT化も、どちらもデジタル技術を活用する戦略である点では近しいですが、目的や範囲、取り組み方には明確な違いがあります。
この章では、その「根本的な違い」を3つの視点から見ていきましょう。
3-1.目的の違い(改善 vs. 変革)
IT化の目的は「業務の効率を良くすること」、すなわち「改善」です。
メールのやり取りをチャットツールに変えることで、情報のやり取りをスムーズにしたり、勤怠管理をアプリで代替し管理ミスを防いだりといった、今ある業務を便利にする取り組みが中心です。
一方、DXの目的は「企業のビジネスそのものを変えること」、つまり「変革」です。
これまで物を売っていた会社が、デジタル上で顧客の行動を分析し、サブスクリプション(月額制)のサービスへと転換するような、大きな方向転換を含みます。
このように、「改善」と「変革」という点からも、DXとIT化は明確に異なります。
3-2.対象範囲の違い(業務単位 vs. 組織全体)
IT化の対象は、一つひとつの業務単位にとどまることが一般的です。
例えば「経理部門で使っている書類の電子化」や「営業部門での顧客管理の効率化」といった限定的な範囲でのツール導入が多いです。
ところがDXは、「会社全体」または「ビジネスモデルそのもの」を対象として改革を進めます。
組織の枠を超えて、部門同士のデータをつなげ、顧客との接点すら作り直していくのがDXです。
つまり、スケール(規模)が圧倒的に異なるのです。
だからこそ、推進にはトップ層のリーダーシップも求められるのです。
3-3.アプローチの違い(補助的導入 vs. 戦略的変革)
以下に、DXとIT化の主な違いを一覧でまとめました。
比較項目 | IT化 | DX |
目的 | 業務効率化・改善 | ビジネス確変・新価値創造 |
対象範囲 | 業務単位(部分最適) | 組織全体・ビジネス全体 (全社最適) |
主導者 | 現場主導が中心 | 経営層主導が不可欠 |
アプローチ | 現在の業務を補完 | 将来の姿を描き逆算的に設計 |
ゴール | 作業効率の向上 | 顧客体験・ビジネスモデルの変革 |
IT化では、現場の課題を把握して、必要なツールを導入することで課題解決を目指します。
導入の意思決定も現場で行われることが多く、部分的で段階的な進め方が一般的です。
一方、DXは経営戦略の一部です。
新しい付加価値の創出や市場の獲得を前提にして、企業の未来像を描くアプローチです。
「何を目指すべきか」というビジョンから逆算し、デジタル技術をいかに使って企業を進化させるかが重要なのです。
4. 実例で見る、DXとIT化の違い
理論だけでは理解しづらいDXとIT化の違いも、具体的な業界事例を見れば明確になります。
ここでは、小売業・製造業・サービス業という異なる業界における事例を紹介し、両者の違いをつかみやすく説明します。DXとIT化を正しく区別できるようになることで、今後の戦略立案に役立つ視点を得られるでしょう。
4-1.小売業における比較例
IT化の例としては、「レジ周辺のPOSシステム導入」があります。これにより、販売データを自動で管理し、在庫数も瞬時に把握できるようになります。以前の手書き伝票や人的ミスを軽減し、業務の効率を高めました。
一方、DXの例としては「ECサイトに顧客の購買履歴とAI(人工知能)によるレコメンド機能」を組み合わせて、個人ごとに異なる商品提案を行っている取り組みです。さらに、リアル店舗との連携で、「Webで見た商品を店頭でスムーズに購入」できる仕組みも整備しています。
このように、IT化は業務を管理しやすくする取り組みであるのに対し、DXは「顧客体験そのものを向上させる」ための変革であることがわかります。
4-2.製造業における比較例
IT化としては、「生産ラインの管理にセンサーやバーコードを導入し、部品在庫や部品交換の履歴をリアルタイムに把握」する仕組みが導入されました。
これにより、工数管理や在庫コストの適正化が図られました。
一方、DXになると「IoT(モノのインターネット)で取得したデータをクラウド上で収集・分析し、人工知能が最適な生産スケジュールを導き出す」という形で、生産全体をリアルタイムに最適化していきます。
また、製品自体にもセンサーを組み込み、顧客の利用状況をデータ収集し、製品開発や新ビジネスに活用する企業も登場しています。
このように、IT化では業務の一部を最適化するのに対し、DXではプロセス全体や製品の在り方までを再設計し、新たな価値創出に取り組みます。
現場の管理を効率化するIT化に対し、価値そのものを再設計するのがDXです。
4-3.サービス業における比較例
病院やクリニックなどでは、IT化として「予約管理システム」を導入して、患者の予約手続きや問診票の入力をオンライン化する取り組みが進められています。これにより、受付業務の効率化や紙の削減が実現されました。
一方、DXの取り組みとしては、「検査データや診察記録をAIで分析し、将来的な疾病リスクの早期発見につなげる医療プラットフォームの構築」があります。医師が高負荷な判断を自動化できるだけでなく、予防医療という新しいサービスモデルの展開にもつながっています。
効率化にとどまらず、価値提供そのものを再設計することで、顧客の体験や社会への貢献度も高まるのがDXの醍醐味です。
5. なぜ今、IT化だけでは不十分なのか
多くの企業がすでにIT化を長年進めてきました。
しかし、経済や社会の変化が加速する中、IT化だけでは乗り越えられない壁が存在します。ここでは今、企業がDXへと進まなければならない理由を3つの視点で考察します。
5-1.持続的成長に必要な変革
IT化は短期的な課題対策には有効です。
しかし、企業が中長期で競争力を維持・拡大しようと考えると、業務の効率化だけでは不十分です。
市場環境や社会の構造が急激に変化している今、企業は「変化に適応できる仕組み」を持たなければなりません。
そのために必要なのが、企業文化・ビジネスモデル・顧客接点すべてを見直し、再構築していくDXなのです。
5-2.顧客ニーズの多様化と競争激化
顧客のニーズは年々多様化しています。
かつてのように均一な商品を大量生産して売る時代から、個々の好みや状況に合わせたサービスを細やかに提供する時代へと変わっています。
この変化に応じるためには、データを収集し、分析し、その結果を元に「一人ひとりに合った体験を設計する能力」が求められます。
これを実現するのがDXであり、IT化だけでは顧客の期待に応えるには限界があります。
5-3.高度化するデジタル活用への対応力が求められる理由
現在のデジタル技術は、単なるツールを超えています。
AI・IoT・クラウド・5G(第5世代通信)など、あらゆる分野で高度な技術が登場し、それを使いこなすことで、新しいビジネスの価値を創ることが可能です。
これら先進技術を取り入れた「次世代型企業」になるためには、単なるITツールの導入では不十分です。
構造そのものを見直すDXこそが、デジタルの真価を引き出せる取り組みになります。
6. IT化はDXにどう位置づけられるべきか
IT化とDXは対立するものではなく、むしろDXを実現するための「基盤」となる存在です。
この章では、DXを成功させる上でどのようにIT化の取り組みを位置づけ、活用していけばよいかを考察していきます。
6-1.DXの土台としてのIT化
IT化はDXの第一歩です。
なぜなら、業務フローがデジタルでつながっていない状態で、全社的なデジタル変革を推進するのは不可能だからです。
取引先とのやりとりが紙ベースだったり、社内のデータがバラバラに管理されていたりすると、どれだけ高度な分析ツールを入れても十分な効果は得られません。
まずは、業務ごとに点在しているアナログなプロセスを少しずつデジタル化し、情報の流れを「見える化」する必要があります。
このように、DXに踏み出すためには、IT化による基礎的な土壌作りが不可欠なのです。
6-2.ステップとしての段階的導入
DXは一朝一夕で実現できるものではありません。
むしろ段階的なステップを踏みながら、少しずつ組織の変革を進めることが重要です。
第一段階では、業務ごとの課題を洗い出して、ITツールを導入し効率化します。
第二段階では、部門間のデータをつなぎ、ビジネスプロセスを再設計する「業務改革」に着手します。
そして最終段階では、デジタルによって新しい事業やサービスを創出し、企業全体のビジネスモデルを変革していきます。
このようなステップを意識すれば、IT化からDXへと自然な流れで移行できるのです。
6-3.IT人材と技術がDXの成否を左右する理由
DXを推進する上で不可欠なのが、信頼できるITスキルを持った人材と、適切な技術選択です。
特に中堅企業においては、現場のIT人材の負荷が大きく、DXに取り組みたくても手が回らないという課題も多く聞かれます。
この課題を克服するためには、社内人材の育成はもちろん、社外のパートナーとの連携も重要です。
クラウド環境を活用し、最新の技術をスピーディーに導入することで、柔軟性や拡張性を持ったDXの土台が整えられます。
IT人材と技術の戦略的な活用が、DX推進の成否を大きく左右するポイントなのです。
7. DXを成功させるためのステップ
DXを単なる流行で終わらせず、企業の持続成長や競争力強化につなげていくためには、計画的なステップと組織的な体制が必要です。
ここでは、DXを成功させる3つの重要ステップを紹介します。
7-1.ビジョンの策定とトップダウンの推進
まず必要なのが「DXでどんな未来を実現したいのか」というビジョンの明確化です。
このビジョンがなければ、現場は何のために変革を行うのかわからず、部分最適や一時的な改善にとどまってしまいます。
そして、そのビジョンを全社に浸透させるためには、経営層のリーダーシップが不可欠です。
特に中堅企業では、日々の業務に追われて変革に時間やエネルギーを割きにくいため、経営層自らがリードしていく体制が求められます。
7-2.部門間連携による施策の具体化
DXの本質は「部門横断的な変革」にあります。
ただし、現実には部門ごとの縦割りの壁が存在するため、それぞれが違う方向を向いてしまうケースもあります。
この課題を解決するためには、部門横断のプロジェクトチームや、共通の指標(KPI)に基づく協働体制をつくることが有効です。
情報共有の手段を統一したり、定期的な連携会議を開くことでも、相互理解が深まります。
DXを組織全体の変革とするためには、部門間の連携がカギを握っています。
7-3.社内文化と人材育成の変革
いくらツールや仕組みを整えても、そこで働く人の意識や働き方が変わらなければ、DXの効果は限定的です。
したがって、社員一人ひとりが「自分ごと」として変革を受け止める社内文化が不可欠です。
まずは、小さな成功体験を共有したり、学習機会を提供することで、「変化に前向きな風土づくり」から始めましょう。
同時に、ITスキルやデータ活用能力を高める人材育成の仕組みも設けると効果的です。
最終的には、社員が自ら課題を発見し、工夫しながら改善に向き合える「主体的な人材」が増えることが、真のDX成功につながるのです。
8. DX推進におけるNTT東日本の役割
DXを進めようとしても、現場の人手不足やノウハウ不足でつまずく企業は少なくありません。
ここでは、特に中堅・中小企業の支援に積極的なNTT東日本が果たしている役割について紹介します。
8-1.エンジニア不足への対応とリソース提供
企業内でのIT人材の育成は重要ですが、即時に対応できるだけの人材を社内で確保するのは困難です。
NTT東日本では、専門知識を持つエンジニアと連携し、クラウド・ネットワーク・セキュリティといった多様な課題に対応できる体制を整えています。
必要な支援を「必要なときにスモールスタート」で受けられるため、自社のリソースに不安がある企業でも、安心してDXプロジェクトを進めることが可能になります。
8-2.クラウド移行支援と保守サポート
DX推進には、社内システムのクラウド化が不可欠です。
ハードウェアの管理負担を減らし、拠点を越えた情報共有や全社展開を可能にするだけでなく、災害対応や拡張性にも優れています。
NTT東日本では、クラウド環境への移行支援から、運用後の保守・サポートまでワンストップで支援を提供しています。
煩雑な導入準備や運用作業の多くを外部委託できるため、現場の負担も大きく軽減できるのです。
8-3.無料相談と導入事例の紹介
DXの1歩を踏み出せない理由には、「何から始めたらいいかわからない」という声も少なくありません。
NTT東日本では「無料相談窓口」を設置しており、自社に合った最適なDXの進め方について、具体的な事例や支援実績を紹介しながら伴走しています。
業界や事業規模を問わず、全国の多様な業種の中堅・中小企業への支援が可能となっており、DXに不安を抱える企業にとって力強いパートナーとなっています。
9. まとめ:企業にとって重要な選択とは
DXとIT化は、どちらも企業の成長にとって欠かせないデジタル活用の手法です。
ただし、その目的やアプローチには大きな違いがあり、自社の状況に応じたバランスの取れた選択が求められます。
9-1.DX/IT化のバランスと戦略的判断
まずは、IT化による業務効率化を土台にしながら、自社の未来像を描き戦略的にDXへと移行していくステップが重要です。
むやみに最新技術に飛びつくのではなく、自社の強み・弱みを冷静に分析した上で必要な変革を選び取りましょう。
9-2.中長期の企業競争力強化に向けて
DXは短期的な投資回収を目的にするのではなく、中期的・長期的な競争力強化を視野に入れる必要があります。
特にコロナ禍以降、社会的にもデジタル対応が前提とされるシーンが増えており、その流れに適応できなければ企業の生存すら危うくなる時代です。
9-3.社内外のパートナーとともに進める変革
DXは、決して一部の部署や担当者だけで達成できるものではありません。
組織内の連携はもちろん、外部の専門家・支援企業とのパートナーシップも活用しながら、継続的な変革を進めることが成果につながります。
DXとIT化の違いを正しく理解し、自社に合った戦略を描くには、両者の目的とスケールを見極めることが重要です。
企業がデジタル時代を生き抜き、飛躍するためには、変化を柔軟に受け入れ、新たな価値創造に挑み続ける姿勢が求められます。
IT化を基盤にしながら段階的にDXを進めることが、持続可能な変革のカギを握ります。
本記事が、デジタル変革の第一歩となれば幸いです。