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介護DXとは?課題と主なソリューション・成功のための進め方を徹底解説

介護DXとは?課題と主なソリューション・成功のための進め方を徹底解説
「介護DXの推進」を求められつつも、人手不足や日々の業務に追われ、具体的な一歩を踏み出せずにいる担当者は少なくありません。現場はケア業務に加え、膨大な記録作成や請求などの事務作業に疲弊しているのが実情です。 本記事では、介護DXの基礎知識から具体的な導入事例、業務負担を軽減するツール類を網羅的に解説します。また、導入のハードルを下げるための重要な鍵となる、厚生労働省による補助金や助成金制度についても詳しく紹介します。 この記事を読めば、自社の課題に適したソリューションの選び方や、導入に向けた具体的な手順が明確になるはずです。介護DXを「現場の時間を取り戻すための投資」として成功させるためのヒントをお伝えします。

目次


介護DXとは何か

介護DXという言葉を耳にする機会が増えていますが、その本質を正しく理解している方は意外と少ないかもしれません。

まずは介護DXの定義と、なぜ今この取り組みが重要視されているのかを明確にしていきましょう。

介護DXの定義と背景

介護DXとは、ICT機器・ソフトウェア・介護ロボット・AIなどのデジタル技術を活用し、介護現場の業務プロセスや働き方、組織全体を変革することでサービスの質と生産性を高める取り組みを指します。重要なのは、「単なるIT化」と「DX」は根本的に異なるという点です。

IT化が「紙の記録をパソコンに置き換える」といった個別業務のデジタル化を意味するのに対し、DXは業務のやり方や仕組みそのものを再設計し、現場全体を進化させる「経営変革」を目指します。

つまり、ツールを導入することがゴールではなく、そのツールを活用して組織全体がどう変わるかが問われているのです。

この背景には、日本社会が直面する深刻な構造的課題があります。急速な高齢化により要介護者は増加の一途をたどる一方、生産年齢人口は減少を続けています。

厚生労働省の推計によれば、2040年には約69万人もの介護人材が不足するとされており、現状の人海戦術に頼った介護では立ち行かなくなることが明らかになっています。

介護業界でDXが求められる理由

介護業界では、他業種と比較しても特にDX推進の必要性が高いといえます。それには、ならではの理由があります。

現場では、身体的負担の大きいケア業務に加え、手書きによる記録や複雑な請求業務が職員を圧迫し、離職を招く原因となっています。

また、口頭やメモによる情報共有はミスや伝達漏れのリスクが高く、利用者の安全を守るためにも、正確でスピーディーな情報共有の仕組みが求められています。

さらに、経営面でも課題があります。稼働率、職員稼働状況、加算取得状況などがリアルタイムで把握しづらく、データに基づく改善や投資判断が難しい状況です。結果として「感覚経営」になりがちで、収益改善の機会を逃している事業所も少なくありません。

介護DXで実現できること

介護DXが目指す最終ゴールは、業務効率化によって生まれた時間とリソースを「利用者ケアの質向上」へ還元することです。記録作成などの間接業務を削減し、利用者との会話やリハビリに充てる時間を増やすことで、満足度の高いケアが実現します。

また、経営の安定化にも寄与します。加算取得の最適化、データに基づく人員配置、請求ミスの削減などにより、収益構造を改善できます。

厚生労働省も介護DX推進施策として介護情報基盤の整備や生産性向上加算などを進めており、DXに取り組む事業所は制度面でも優遇される流れが加速しています。

そして何より、職員の働きやすさが向上します。身体的・精神的負担の軽減、残業時間の削減、スキルに依存しない標準化されたケアの実現により、離職防止と人材確保につながります。介護DXは、利用者・職員・経営者の「三方良し」を実現するための戦略的な取り組みなのです。

介護DXの導入事例と活用ツール

介護DXの重要性を理解したところで、実際に現場でどのようなツールが活用され、どのような成果を上げているのかを見ていきましょう。具体的な事例とツールを知ることで、自社での導入イメージが明確になります。

介護現場の具体的なDX導入事例

介護DXの導入効果は、多くの事業所で実証されています。ここでは、代表的な成功パターンをご紹介します。

記録ソフトとタブレット端末を組み合わせた事例では、記録時間が約40%削減されたケースが報告されています。

従来は記録のために事務所に戻る必要がありましたが、タブレットを使ってその場で入力できるようになったことで、移動時間と転記作業が大幅に削減されました。その結果、残業時間も減少し、浮いた時間をレクリエーションや個別ケアに充てることができるようになりました。

また、見守りセンサーの活用により、夜間の巡視回数を半減させつつ転倒事故を減らした事例も注目されています。定時巡視ではなく、「センサーが異常を検知した時だけ訪室する」というオペレーションへの転換により、職員の負担を減らしながら、リアルタイムな危険回避が可能になりました。

さらに、データ分析ダッシュボードを用いて経営改善に成功したケースもあります。加算の取りこぼし防止や、転倒多発時間帯への重点的な人員配置など、勘や経験に頼らない「データに基づく意思決定」が、限られた人員での最大効果を生み出しています。

介護DXで使われる主なツールの種類

介護DXの基盤となるのは、記録・請求・計画作成を一元管理する「介護記録ソフト」や、職員間の連携を高速化する「インカム・チャットツール」です。

これらは間接業務の時間を大幅に削減し、情報の抜け漏れや伝達ミスを防ぐためのインフラとして機能します。

身体的負担の軽減には、「見守りセンサー」や「介護ロボット」が効果を発揮します。ベッド上の動きやバイタルを検知して通知するセンサーは夜勤の精神的プレッシャーを和らげ、移乗支援ロボットは腰痛リスクを低減させます。

必要な時に必要な対応を行う「スマート見守り」の実現は、職員定着率の向上にも寄与します。

バックオフィス業務においては、「AI・生成AI」や「シフト管理システム」の活用が進んでいます。複雑なシフト作成の自動化や、AIによる記録文章の作成支援は、管理職やリーダー層の事務負担を劇的に減らし、本来注力すべきマネジメント業務への集中を可能にします。

介護DX導入ツールの比較表

各ツールの特徴と具体的な導入効果を一覧で整理しました。自社の課題に照らし合わせて、どのツールから導入を検討すべきかの参考にしてください。

ツール分類主な機能解決できる課題期待される効果
介護記録ソフト記録入力、請求計算、ケアプラン管理記録業務の負担、請求ミス記録時間30〜50%削減、返戻対応の減少
見守りセンサー離床検知、バイタル監視、転倒検知夜間巡視の負担、事故リスク巡視回数削減、転倒件数減少
介護ロボット移乗支援、歩行支援、入浴支援職員の身体的負担腰痛リスク軽減、人員配置の最適化
インカム・コミュニケーションツールリアルタイム連絡、情報共有情報伝達の遅延、連携不足対応スピード向上、抜け漏れ防止
シフト・勤怠管理シフト自動作成、勤怠集計シフト作成の負担、労務管理作成時間削減、労務リスク低減
AI・生成AI文章自動生成、ナレッジ検索記録作成の負担、スキル格差記録時間削減、品質の平準化
データ分析ダッシュボード稼働率可視化、傾向分析経営判断の困難さデータに基づく意思決定、収益改善

これらのツールは単独で導入するよりも、複数を連携させることでより大きな効果を発揮します。例えば、介護記録ソフトと見守りセンサーを連携させることで、センサーが検知した情報を自動的に記録に反映させることも可能です。

導入を検討する際は、既存システムとの連携性も重要な選定基準となります。

関連記事はこちら: 【事例あり】医療DXできること|導入システム、効果を詳しく解説

介護DX導入時の課題と解決策

介護DXのメリットは理解できても、実際に導入を進めようとすると様々な壁にぶつかることがあります。ここでは、多くの事業所が直面する課題と、それを乗り越えるための具体的な解決策を解説します。

介護現場が抱える課題とDXによる解決方法

介護現場が抱える課題は複合的で、一つのツールで全てが解決するわけではありません。課題ごとにどのようなDXアプローチが有効かを整理していきましょう。

人手不足・業務過多という課題に対しては、記録業務の効率化と見守り業務の省力化が有効です。記録ソフトとタブレットの導入により記録時間を削減し、見守りセンサーにより夜間巡視の負担を軽減することで、限られた人員でも質の高いケアを提供できる体制を構築できます。

重要なのは、削減した時間を利用者との直接的なケアに充てることで、職員のやりがい向上にもつなげるという発想です。

情報共有の非効率という課題には、クラウド型の介護記録ソフトとコミュニケーションツールの導入が効果的です。

リアルタイムで情報が共有されることで、申し送りの時間短縮だけでなく、「誰がどの利用者のどんな状態を把握しているか」が可視化され、ケアの抜け漏れを防止できます。

経営面の課題については、データ分析ダッシュボードの活用が解決策となります。稼働率、職員稼働状況、加算取得率、残業時間などをリアルタイムで可視化することで、感覚ではなくデータに基づく経営判断が可能になります。

加算の取りこぼしを発見して収益改善につなげた事例も多く報告されています。

介護DX導入時によくある障壁

介護DXを推進しようとする際、技術的な問題よりも組織的・人的な障壁に直面することが多いのが現実です。よくある障壁とその背景を理解しておきましょう。

現場職員のITリテラシーの差は、最も頻繁に挙げられる障壁です。特に年配の職員の中には、デジタル機器に苦手意識を持つ方も少なくありません。「今までのやり方で問題なくできている」という意識が強いと、新しいシステムへの抵抗感が生まれやすくなります。

経営層と現場の意識のギャップも大きな障壁です。経営層がコスト削減や効率化を強調するあまり、「DXは人を減らすためのもの」という誤解が現場に広がってしまうケースがあります。

信頼関係がない状態での強引な一斉導入は、現場の混乱とシステムの形骸化を招く可能性があります。

セキュリティへの不安も無視できない障壁です。利用者の個人情報を扱う介護現場では、情報漏えいへの懸念からクラウドサービスの導入に慎重になる傾向があります。しかし、適切なセキュリティ対策を講じたシステムを選定すれば、むしろ紙の記録よりも安全に情報を管理できる場合もあります。

課題を乗り越えるための具体的な対応策

組織の壁を突破するには、現場に「DXリーダー」を立てることが効果的です。デジタルに明るい職員を推進役に任命し、彼らが同僚をサポートすることでリテラシー格差を埋めつつ、「効率化はケアの質を高めるため」というビジョンを現場目線で浸透させていきます。

失敗しないための鉄則は「スモールスタート」による検証です。いきなり全施設で導入せず、特定のユニットで試験運用を行い、「残業時間が実際に減った」という成功体験と数値を実証してから全体へ展開することで、反対派の納得感を得やすくなります。

導入後の定着には、一度きりの説明会ではなく、継続的なフォロー体制が不可欠です。

一度の研修で終わりにせず、繰り返し使い方を確認できる機会を設けたり、マニュアルを動画化して視覚的に理解しやすくしたりする工夫が有効です。

関連記事はこちら: DXリスクとは?企業が直面する5つの課題と具体的な対策方法を詳しく解説

介護DXを導入する手順と支援制度

介護DXを成功させるためには、適切な手順で計画的に進めることが重要です。ここでは、具体的な導入ステップと、活用できる公的支援制度について解説します。

介護DX導入のステップ

導入は「現状把握・ビジョン設定」から始まります。現場職員へのヒアリングでボトルネックとなっている業務を特定し、「半年で記録時間を30%削減する」といった測定可能な数値目標(KPI)を設定します。経営層と現場が共通のゴールイメージを持つことで、組織全体の方向性を合わせます。

次は「ツール選定・パイロット導入」のフェーズです。現場での使いやすさやサポート体制を基準にツールを選び、まずは1つのユニットなど限定的な範囲で試験運用を行います。

小さく始めて効果を検証し、運用ルールをブラッシュアップしてから広げるのが、現場の抵抗感を抑えるための鉄則です。

最後は「全体展開・定着化」です。成功した運用モデルをマニュアル化して全社に展開し、定期的な振り返り会議でデータを活用しながら改善を続けます。DXリーダーの育成を通じて、デジタル活用が当たり前になる組織文化を醸成し、継続的なPDCAサイクルを回す体制を確立しましょう。

活用できる補助金・助成金の種類

介護DXの推進には初期投資が必要ですが、国や自治体による様々な支援制度を活用することで、負担を軽減できます。主な補助金・助成金について解説します。

介護ロボット導入支援事業は、地域医療介護総合確保基金を活用した補助制度で、見守りセンサーや移乗支援ロボットなどの導入費用を補助します。

補助率や上限額は都道府県によって異なりますが、導入費用の一部をカバーできる可能性があります。

ICT導入支援事業も同様に、介護記録ソフトやタブレット端末などのICT機器導入を支援する制度です。この補助金を活用することで、初期投資のハードルを下げてDXに着手できます。

生産性向上加算は、見守り機器を導入し一定の要件を満たした事業所が算定できる介護報酬上の加算です。初期投資だけでなく、継続的な収益改善にもつながるため、長期的な視点での資金回収を計画できます。

IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者のIT導入を支援する制度で、介護事業所も対象となる場合があります。介護記録ソフトや勤怠管理システムなどの導入に活用できる可能性があります。

厚生労働省は介護情報基盤の整備も進めており、利用者・市町村・介護事業所・医療機関で情報共有するプラットフォームの構築が計画されています。

科学的介護情報システム(LIFE)へのデータ提出・フィードバックを通じたケアの質向上も推進されており、DXに取り組む事業所が制度面で有利になる流れは今後も続くと予想されます。

補助金申請の流れと注意点

補助金活用で最も重要なのはスケジュール管理です。多くの制度は年度ごとの予算で動いており、申請期間が短く設定されているため、早めの情報収集が不可欠です。

導入したいシステムが補助対象要件を満たしているか、カタログや仕様書で事前に細かくチェックしておきましょう。

申請時には、導入計画書や効果予測などの書類作成が求められます。ステップ1で行った現状分析データを活用し、「導入によってどの業務がどれだけ効率化されるか」を具体的に記載することで、採択の可能性を高めることができます。

資金計画における最大の注意点は、原則として「後払い(事後精算)」であることです。一時的に全額を自己資金で支払う必要があるため、キャッシュフローの確認が必要です。また、導入後には実績報告や一定期間の継続利用義務が生じるため、計画的な運用が求められます。

関連記事はこちら: システム開発に使える補助金4選!採択事例や注意点、ポイントも解説

まとめ

本記事では、介護DXの定義から具体的な導入事例、活用ツール、導入時の課題と解決策、そして実践的な導入ステップと支援制度まで、包括的に解説してきました。

介護DXは、単なるIT化やツール導入とは異なり、業務プロセスや働き方、組織全体を変革する「経営変革」です。その本質的な目的は、デジタル技術によって生まれた時間とリソースを、利用者ケアの質向上に振り向けることにあります。

介護DXを成功させるためには、現状把握から始まり、明確なビジョン設定、適切なソリューション選定、パイロット導入による検証、そして全体展開と継続的な改善という段階的なアプローチが不可欠です。

また、現場職員の理解と協力を得るための丁寧なコミュニケーションと、DXリーダーの育成も重要な成功要因となります。

介護DXの推進にあたっては、自社だけで全てを進めようとするのではなく、専門的な知見を持つパートナーと協力することで、より確実に成果を上げることができます。

特に、介護業界の課題を深く理解し、技術面だけでなくビジネス面からも伴走してくれるパートナーを見つけることが、DX成功への近道となるでしょう。まずは自社の現状と課題を整理し、どのような変革を目指すのかを明確にすることから始めてみてください。

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