【事例あり】介護DXできること|導入システム、効果を詳しく解説
目次
「介護の現場でもDXが必要?」
「DXをすると何ができるようになる?」
そんな疑問を持っている人もいるでしょう。
「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」の略で、「デジタル技術によって、商品やビジネスのあり方自体を変えること」を指す言葉ですが、介護事業においては、
「ITツールやAI、ロボットなどを導入して介護業務を変革・改善することで、要介護者にはよりよい介護サービスを提供し、従事者には働きやすい職場を実現し、どちらも満足度・生活の質が向上すること」
と捉えればいいでしょう。
たとえば、以下のようなことが、介護DXの代表例です。
・介護ロボット、介護機器の導入
・介護ソフトによるペーパーレス化
・グループウェアによるコミュニケーションの効率化
これを行うことで、以下のようなメリットが得られます。
【介護をDX化するメリット】
・現場業務が効率化される
・離職率を下げ、人手不足の解消が期待できる
・よりよいサービスを提供できる
・「LIFE」などの制度に対応しやすい
一方で、課題や注意点もありますので、導入を検討する際には気をつけてください。
【介護をDX化する際の課題・注意点】
・ITやDXにくわしい人材が不足している
・現場のスタッフが対応できない
・導入コストがかかる
・費用対効果を把握しづらい
そこでこの記事では、介護DXについて知っておくべきことをまとめました。
◎介護事業におけるDXとは
◎「介護DXカオスマップ」からわかる介護DXの現状(導入システム一覧)
◎介護DXでできること
◎介護DXの事例
◎介護をDX化するメリット
◎DX化が向いている介護事業者とは?
◎厚生労働省による介護事業のDX・ICT化の取り組み
◎介護をDX化する際の課題・注意点
最後まで読めば、知りたいことがわかるでしょう。この記事で、あなたの事業所がDXに取り組めるよう願っています。
この記事は、デザインワン・ジャパン DX事業本部でDX支援に携わる泉川学が作成しました。
1.介護DXとは
介護業界におけるDXは、「介護DX」と呼ばれて政府も推進しています。
ではそもそも「介護DX」とはどんなものでしょうか?
まずはその意味と現状について知っておきましょう。
1-1.介護事業におけるDXとは?
「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」の略で、「デジタル技術によって、商品やビジネスのあり方自体を変えること」を指す言葉です。
単にデジタル技術を導入するだけでなく、それによって業務やサービス自体をよりよく改善し、成果を上げるまでを含めて「DX」と言っています。
介護事業においては、「ITツールやAI、ロボットなどを導入して介護業務を変革・改善することで、要介護者にはよりよい介護サービスを提供し、従事者には働きやすい職場を実現し、どちらも満足度・生活の質が向上すること」と捉えればいいでしょう。
たとえば、事業所に介護ソフトを導入して利用者情報やケアプランなどをデジタルで管理することで、
・利用者それぞれの状態を共有しやすくなり、きめ細かいパーソナルなサービスが提供できる
・事務作業などが自動化されるため、人手不足を補える
・同じく作業の自動化によって、あいた時間でよりよいサービスを計画、提供できる
といった効果が期待できます。
このように、「デジタル技術」によって要介護者も介護従事者もしあわせになれるのが「介護DX」なのです。
1-2.介護事業におけるDXの必要性と厚労省の取り組み
実は近年、介護DXの必要性に注目が集まり、厚生労働省でもDX推進に取り組んでいます。
それはなぜでしょうか?
1-2-1.デジタル技術の導入で人手不足を補うことができる
もっとも大きな理由は、介護業界における慢性的な人手不足です。
少子高齢化もあって、介護を要する高齢者は増える一方なのに対して、それを支える労働人口はどんどん減っていきます。
そんな中で、十分な人材を確保できずに困っている介護事業者も多いことでしょう。
この問題の解決策として期待されているのがDXです。
事務作業を効率化するためには専用の介護ソフトが各種開発されていますし、現場での介護業務には介護ロボットなども作られています。
介護業務の多くの分野で、デジタル化が実現できるようになってきました。
1-2-2.「LIFE(=科学的介護情報システム)」への対応もしやすい
また、厚生労働省が2021年から「LIFE(=科学的介護情報システム)」の運用を始めました。
各介護事業所がこのシステムにケアの計画や内容を入力すると、厚生労働省でその膨大なデータを集計・分析し、エビデンスのあるよりよい「科学的」な介護に活用できるようになります。
さらに、LIFEを利用することで、介護保険報酬の加算を受けることもできるため、事業所の経営にとっても重要な制度です。
ただ、LIFEにケア内容を1件ずつ入力するのは大変な手間がかかります。
その点、介護ソフトの中にはLIFEと連携していて、ソフトに入力した内容がLIFEに自動的に入力されるものもありますので、それを活用することでLIFEの利用が簡単になるでしょう。
このような各種制度に迅速かつ手軽に対応するためにも、DXが必要なのです。
1-2-3.厚生労働省も介護DXを推進している
介護事業にDXが必要であることは国でも注目されていて、厚生労働省がさまざまな取り組みを行っています。
たとえば、以下のようなことです。
・「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」を公開
・「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き」を公開
・DX・ICT化のための補助金を支給
・「介護事業所におけるICTの導入・普及セミナー」の動画をYouTubeで公開
これについては、のちほど「6.厚生労働省や自治体による介護事業のDX・ICT化の取り組み」の章でくわしく説明しますので、そちらもぜひ読んでください。
1-3.「介護DXカオスマップ」からわかる介護DXの現状(導入システム一覧)
では、現在のところ介護DXはどのような状況なのでしょうか?
これについては、医療介護福祉とICTに関する交流活動を行っている「つながる介護さっぽろ」が、「介護DXカオスマップ」を作成、公開してくれています。
最新版の「介護DXカオスマップ2023」を見てみましょう。
【介護DXカオスマップ2023】
非常に細かいので、くわしく見たい人は「つながる介護さっぽろ 公式ホームページ」からPDFでダウンロードしてください。
ここでは、掲載されている=すでにデジタル化できるシステムやツール、サービスが提供されている分野を挙げておきましょう。
・介護請求・記録システム:保険給付請求、ケアの記録、計画書の作成管理などができるシステム
・介護システム補助:介護システムを補助するシステム
・音声入力:音声をテキストに変換、入力できるシステム
・AI(人工知能):AIを活用するシステム
・ICT連携:各種のシステムや機器を連携させるためのシステム
・栄養管理:献立作成、カロリー計算、発注業務などを行うシステム
・排せつ管理:排泄ケア、排泄検知などができるシステム
・服薬管理:服薬介助、誤薬防止など薬剤管理ができるシステム
・見守り:要介護者の動きや様子をセンサーやカメラなどで見守るシステム
・ナースコール:施設内で利用できるナースコールシステム
・インカム:施設内でスタッフ同士が無線でやりとりできるシステム
・情報共有:事業所内のスタッフ、または外部事業所などと情報を共有、コミュニケーションできるシステム
・地域資源:その地域でのソーシャルワーク(=社会福祉支援)活動、医療・介護・福祉事業所などの情報を収集するシステム
・シフト作成:事業所スタッフのシフト表作成、常勤換算などができるシステム
・送迎管理:送迎車の配車管理、ルートの作成や管理などができるシステム
・会計:事業所の財務・会計業務を行うシステム
・勤怠管理:事業所スタッフの出退勤、労務、勤怠を管理するシステム
・人事管理:事業所スタッフの情報、労務、評価などを管理するシステム
・給与計算:事業所スタッフの給与計算、明細書発行などができるシステム
・経営・BIツール:さまざまなデータをもとに経営分析をするシステム
・売上支援:事業所の収益を上げるための機能を持ったシステム
・介護助手・スキルシェア:介護助手の人材マッチングやスキルシェアに関するシステム
・ICT支援・サポート:介護現場でICTを活用できるよう支援やサポートをするシステム、サービス
・セキュリティ:事業所が持つ情報資産の管理、セキュリティ対策、情報漏洩防止などを行うシステム
・自動稼働ロボット:清掃、消毒、食事の配膳などを自動で行うロボット技術
・リハビリIoT:リハビリ、機能訓練を行うためのシステム、ロボット技術
・コミュニケーションロボット:要介護者とのコミュニケーションのためのロボット技術
・電話・FAX:電話やFAXの送受信などをデジタルで行うシステム
・その他業務支援
このように、現在は介護の多種多様なシーンに対応したITシステムやツール、サービスが生まれています。
事業所ごとに必要なものを利用して、DXを推進していくといいでしょう。
2.介護DXでできること
介護ではさまざまな業務をDXできることがわかりました。
が、「もっと具体的に、何ができるのか知りたい」という人も多いでしょう。
現在介護の現場で実施されている代表的な例としては、以下のようなものが挙げられます。
・介護ロボット、介護機器の導入
・介護ソフトによるペーパーレス化
・グループウェアによるコミュニケーションの効率化
2-1.介護ロボット、介護機器の導入
ひとつは、介護ロボットや介護機器の導入です。
これにより、介護現場での作業自体を機械に任せ、介護従事者の身体的な負担を減らすことができます。
たとえば、以下のようなものがあります。
分野 | 機器の種類 | 概要 | 商品例 |
移乗介助 | 装着型 | ロボット技術を用いて介助者のパワーアシストを行う装着型の機器 | |
非装着型 | ロボット技術を用いて介助者による抱え上げ動作のパワーアシストを行う非装着型の機器 | ||
移動支援 | 屋外移動 | 高齢者等の外出をサポートし、荷物等を安全に運搬できるロボット技術を用いた歩行支援機器 | |
屋内移動 | 高齢者等の屋内移動や立ち座りをサポートし、特にトイレへの往復やトイレ内での姿勢保持を支援するロボット技術を用いた歩行支援機器 | ||
装着移動 | 高齢者等の外出等をサポートし、転倒予防や歩行等を補助するロボット技術を用いた装着型の移動支援機器 | (開発中) | |
排泄支援 | 排泄支援 | 排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置の調整可能なトイレ | |
排泄予測 | ロボット技術を用いて排泄を予測し、的確なタイミングでトイレへ誘導する機器 | ||
動作支援 | ロボット技術を用いてトイレ内での下衣の着脱等の排泄の一連の動作を支援する機器 | ||
見守り・コミュニケーション | 介護施設見守り | 介護施設において使用する、センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器およびプラットフォーム | |
在宅介護見守り | 在宅介護において使用する、転倒検知センサーや外部通信機能を備 えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム | (開発中) | |
コミュニケーション | 高齢者等とのコミュニケーションにロボット技術を用いた生活支援機器 | ||
⼊浴⽀援 | ⼊浴⽀援 | ロボット技術を用いて浴槽に出入りする際の一連の動作を支援する機器 | |
介護業務支援 | 介護業務支援 | ロボット技術を用いて、見守り、移動支援、排泄支援をはじめとする介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、それを基に、高齢者等の必要な支援に活用することを可能とする機器 |
出典:国立研究開発法人日本医療研究開発機構 介護ロボットポータルサイト
「AMED/ 経済産業省の開発補助支援を受けた機器・システム一覧(分野別)」より編集・作成
このようなロボットや機器を活用することで、介護現場での作業負担を軽減し、業務効率をアップすることができますし、過重労働による離職の防止にもつながるでしょう。
2-2.介護ソフトによるペーパーレス化
介護業務でもうひとつ負担が大きいのが、介護記録やケアプランの作成、入力といったデスクワークです。
利用者の介護をして疲れたあとに、記録をつけたり申し送り書に記入したりするのは時間も手間もかかります。
そこで、介護ソフトを導入することで、書類作成を電子化、効率化することが可能です。
さまざまな介護ソフトがありますが、主な機能としては以下のようなものがあります。
・利用者情報の管理
・アセスメントの作成と管理
・ケアプランの作成と管理
・介護記録の作成と管理
・利用者への請求書作成と管理
・売上や入金の管理
・介護保険請求と国保連伝送
・介護職員の勤怠管理、シフト管理
・介護職員の給与管理
・経営管理 など
たとえば介護記録は、タブレットやスマートフォンなど外部の端末からでも入力することができますので、訪問介護後に事務所に戻らなくても記録を残せます。
前述したように、LIFEと連携させられるソフトなら、同じ情報をこっちの書類とあっちのPCといったように何度も入力する必要はありません。
アカウントを知っている従業員であれば、誰でもどこからでも記録を確認できるので、情報共有にも便利です。
ペーパーレスになることで、各種の書類をファイリングして保存する手間と場所も不要になり、コストカットにもつながるでしょう。
【介護ソフトの例】
・「カイポケ」
・「ほのぼのNEXT」
・「ナーシングネットプラスワン」 など
2-3.グループウェアによるコミュニケーションの効率化
従業員間でのコミュニケーションや情報共有には、グループウェアも有効です。
グループウェアとは、複数人の間で円滑にコミュニケーションをはかったり、スケジュールや業務の進捗などの情報を共有したりできるシステムです。
主な機能としては以下のようなものが備わっています。
【コミュニケーションのための機能】
・メール
・チャット
・掲示板
・社内SNS
・在席確認
・WEB会議 など
【情報共有のための機能】
・データファイルの共有
・議事録作成
・アドレス帳
・レポート
・社内ポータルサイトの作成 など
【業務の効率化・管理のための機能】
・ワークフロー
・スケジュール管理
・プロジェクト管理
・ToDoリスト
・会議室予約 など
介護事業所では、スタッフは外に出がちですし、シフト制のところも多いためなかなか顔を揃えてコミュニケーションをとることが難しいでしょう。
その点グループウェアを導入すれば、離れた場所にいるスタッフとも密なコミュニケーションが可能です。
重要な情報はグループウェア上で全員に伝えれば、伝達漏れも防げますし、あとで何度でも確認できます。
全員のスケジュールも見える化されるため、事業所全体の動きも把握しやすくなるでしょう。
【グループウェアの例】
・「サイボウズ Office」
・「デスクネッツ ネオ」 など
3.介護DXの事例
介護DXで何ができるのか、イメージできたかと思います。
が、「もっと具体的な事例が知りたい」という人も多いでしょう。
そこで、介護DXを行なった企業や自治体の事例をいくつか紹介します。
3-1.茨城県大子町+介護ベンチャー6社+善光会:自治体と介護ベンチャーとの連携で介護事業所の生産性を向上
茨城県大子町では、 高齢者の割合が45%を超えていて、多くの介護事業所が人材不足に悩んでいます。
そこで、町と介護ベンチャー6社、さらに社会福祉法人の善光会が協力して、介護事業所の生産性向上に取り組んでいます。
まず、各事業所の課題を分析、その上で必要なソリューションの導入を支援するプロジェクトです。
さらに同町では、ひとり暮らしの高齢者が増加傾向であることから、見守りソリューションの実証にも取り組んでいます。
・テレビリモコンを用いた生活リズムモンタリング支援システム「かるケア」
・見守りロボット「タピア」
・遠隔みまもり看護用対話ロボット
を導入して、高齢者の見守りを行なっています。
出典:大子町ホームページ「田舎でIT介護!~高齢化率45%の町の挑戦~」
出典:経済産業省関東経済産業局「ヘルスケアイノベーション創出に向けて~“自治体×ベンチャー”等の連携による 超高齢社会の地域課題解決~」
3-2.特別養護老人ホーム:介護用見守センサー導入で巡視回数を減らし、生産性向上
埼玉県のある特別養護老人ホームでは、増設した新棟と旧棟との動線があまりよくなく、特に夜間の巡視などでは業務効率が低下するという課題を抱えていました。
今後はさらに利用者の要介護度が上がることが予想され、部屋を回る回数も増えるでしょう。
そこで、見守り体制の不足を補うため、介護用の見守りセンサー「AlgoSleep」を導入しました。
これは、ベッドマットレスの下に敷いて使用するタイプの、非接触式見守りセンサーです。
利用者の心拍数や呼吸数を、離れた場所からPCやスマートフォンからモニタリングすることができます。
また、利用者が起き上がったり、心拍数や呼吸数が設定した数値を上回ったり下回ったりすると、スマホにアラートが送られる機能や、睡眠解析機能なども備えています。
これを導入したことで、
・当直の職員だけでなく、自宅にいる看護職員も見守りできるようになった
・定期的な巡視の回数を大きく減らすことができ、生産性が向上した
という効果が出ているそうです。
出典:厚生労働省・公益財団法人テクノエイド協会「介護ロボット導入活用事例集 2021」より編集
3-3.特別養護老人ホーム:介護ロボットの活用で労災の発生件数がゼロに
同じく埼玉県の別の特別養護老人ホームでは、職員のほぼ半数が腰痛に悩まされていました。
中には腰痛による労災が原因で休職する人や退職する人が、2~3年に1件発生していたため、その対策として「HAL®腰タイプ介護・自立支援用」を導入することにしました。
これは「装着型サイボーグ」というもので、腰と大腿部に装着することで動作をサポートします。
装着して作業をすると、腰への負荷を最大で40%も減らすことができるため、介助のさまざまな場面で作業が楽になります。
このホームでは、導入に際してチームを作り、これを使った業務が定着しやすいように、使用記録をつけたり使用シーンを話し合ったりとさまざまな取り組みをしました。
その結果、職員の腰痛予防への意識が高まり、労災の発生件数ゼロを達成しています。
また、介護者の負担が減ることで、利用者側も不安や遠慮なく介護を受けられるようになったそうです。
出典:厚生労働省・公益財団法人テクノエイド協会「介護ロボット導入活用事例集 2021」より編集
HALの装着イメージ
出典:CYBERDYNE株式会社公式サイト「HAL®腰タイプ介護・自立支援用」ページ
4.介護をDX化するメリット
ここまでで、介護DXとはどんなものか、かなり具体的に理解できたかと思います。
ただ、「でも、そもそも介護業務をDXする必要はあるの? どんなメリットが得られるの?」と疑問に思う人もいるでしょう。
そこでこの章では、介護DXのメリットについて説明します。
それは主に以下の4点です。
・現場業務が効率化される
・離職率を下げ、人手不足の解消が期待できる
・よりよいサービスを提供できる
・「LIFE」などの制度に対応しやすい
4-1.現場業務が効率化される
まず、何度か触れたように、介護に関するさまざまな業務をデジタル技術で効率化することができます。
事務作業の多くは介護ソフトで自動化できますし、現場での力仕事さえもロボットや機器で負担を軽減することが可能です。
このような業務が効率化されることで、介護従事者は人間にしかできない業務に集中できるようになるでしょう。
たとえば、利用者がより満足できるようケアプランの内容を考えたり、介護に関する新たな情報や知識を身につけたりといった、頭と心を使う時間を増やせるはずです。
4-2.離職率を下げ、人手不足の解消が期待できる
DXによって業務が効率化されると、現場の介護従事者の負担が軽くなります。
そのため、
・忙しさや体力的な負担の大きさからの離職を防ぎ、離職率を下げることができる
・より少ない人数で業務を回すことができるようになる
という2つの効果が期待できるのもメリットです。
特に、介護業界では新しい人材の採用難に苦しんでいる事業者も多いでしょう。
求人を出してもなかなか人が集まらないとなると、いま働いているスタッフを大切にして、長く働けるようにする必要があります。
DXによってスタッフの業務負荷を減らし、残業も体力的な負担も少なくすることがで、長く働きやすい環境づくりが」できるというわけです。
4-3.よりよいサービスを提供できる
さらに、利用者目線からのメリットとして、よりよいサービスが提供できるようにもなるでしょう。
介護ソフトで利用者情報をデータ化すると、それをもとにケアプランを立てやすくなります。
その人がどんな状態なのか、どんな希望を持っているのか、これまでどんなケアをしてどんな反応だったかなどが見える化されるので、その人に合ったパーソナルなケアを考えることができるでしょう。
また、蓄積された過去のデータも、介護計画を作成する際に大いに参考になるはずです。
業務効率化で時間に余裕もできますので、利用者のことや新たなサービスのことなどを考える時間を持てるようになり、結果として顧客満足度の向上も期待できます。
4-4.「LIFE」などの制度に対応しやすい
「1-2-2.「LIFE(=科学的介護情報システム)」への対応もしやすい」ですでに説明しましたが、制度に対応しやすくなるのもDXのメリットです。
高齢化がとまらない日本の状況もあって、近々に介護に関する法律や制度の改正が続く予定になっています。
たとえば、2024年に介護保険法が改正され、
・利用者の負担割合が2割に増える
・介護事業者の財務諸表の公表が義務化される
・訪問介護と通所介護の複合型サービスが創設される
・介護職員の処遇改善加算は3種あるが、1本化される
などさまざまな変更が加えられる予定です。
それ以外にも、2024年から介護事業者すべてにBCP(災害時などに備えた業務継続計画)の策定が義務付けられるといったこともあります。
介護事業者がそれらの改正に紙の書類と手作業で対応するとなると、大変な時間と手間がかかるでしょう。
その点介護ソフトがあれば、新しい法律に合わせてアップデートすることで対応の手間はぐっと軽減することができます。
特に、クラウド型の介護ソフトなら、法律や制度が改正されるたびにベンダー側でアップデートしてくれて便利です。
事業所側が「アップデートを忘れて古い制度対応のまま書類を作ってしまった」といったミスも防げるでしょう。
5.DX化が向いている介護事業者とは?
介護DXのメリットはわかりました。
ただ、「うちの事業所は小さいので、DXは必要ないのでは?」「予算が少ししかとれないけれど、それでもDXしたほうがいい?」など、取り組むのに躊躇する人もあるでしょう。
そこで、DXが向いているのはどんな介護事業者か、その特徴をまとめましたので以下を見てください。
DXが向いている介護事業者とは |
・人手が不足している ・業務を効率化して生産性を高めたい ・新たなサービスや事業を生み出したい |
これに該当する場合は、ぜひDXを検討してみてください。
\介護のDXは『デザインワン・ジャパン』にご相談ください/
DXを推進しようと思っても、「何から始めればいいかわからない」「どんなシステムやツールが適しているか選べない」などと悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
デザインワン・ジャパンでは、アイディアの創出やビジネス設計から、開発・保守運用までDX推進に必要な全工程を一貫して支援する「DXソリューション」を提供しています。
事業開発ディレクター・コンサルタント・デザイナー・開発エンジニアなど各分野のスペシャリストがビジネスパートナーとしてDXを支援します。
ご相談・お見積りは無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
6.厚生労働省による介護事業のDX・ICT化の取り組み
さて、「1-2-3.厚生労働省も介護DXを推進している」で簡単に触れたように、厚生労働省も介護DXを積極的に推進しています。
公式ホームページの「介護現場におけるICTの利用促進」ページを見ると、さまざまな取り組みを行っているのがわかります。
そこでこの章では、以下のような国の取り組みについて説明しておきましょう。
・「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」を公開
・「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き」を公開
・DX・ICT化のための補助金を支給
・「介護事業所におけるICTの導入・普及セミナー」の動画をYouTubeで公開
6-1.「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」を公開
「2-2.介護ソフトによるペーパーレス化」で触れたように、現在さまざまな介護ソフトが出ています。
いざ選ぶとなると、「数が多くてどれがいいのか選べない」と迷ってしまう人も多いでしょう。
そこで厚生労働省は、「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」というパンフレットを作成、WEB上で公開しています。
中を見ると、
・「介護ソフト」とは何かの説明
・介護ソフトを活用した介護事業所の生産性向上の全体像
・介護ソフトの主な機能
・介護ソフトの各機能に適した機器の選定
・介護ソフトの先進機能の活用事例
・介護ソフト選定のポイント
・介護ソフト導入・変更のポイント
といったことについて、図をまじえてわかりやすく説明されています。
これを読むことで、「介護ソフトってよくわからない」「どれを選べばいいのか」と導入に躊躇している人も、自分の事業所に合ったものを選べるようになり、導入が進むでしょう。
ちなみにこのパンフレットでは、介護ソフト選びのポイントを以下のようにまとめています。
実際に導入を検討する際には、まず読んでみてください。
【介護ソフト選定のポイント】
出典:厚生労働省「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」
6-2.「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き」を公開
厚生労働省はもうひとつ、「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き」というパンフレットも作成しています。
現在公開されているのはVer.2で、110ページ以上もあるため「概要版」も用意されています。
DXの難しいところとして、「ソフトなどを導入したはいいが、うまく活用できなくて結局もとのやり方に戻ってしまった」といったケースがままあることが挙げられます。
このパンフレットでは、そのような失敗に終わらないためにはどうすればいいか、導入のノウハウやポイントをわかりやすく説明してくれています。
内容は、
・本手引きの目的
・ICT機器・ソフトウェアの導入上の留意事項と事例紹介
・導入するICT機器・ソフトウェアの比較の方法について
・導入するICT機器・ソフトウェアのセキュリティ上の課題と対策について
・電子文書を前提にした実地指導の事例紹介
・介護サービス事業所における業務の生産性・効率性の向上に向けた今後の方向性
などです。
これによると、実際の導入事例を踏まえたポイントは以下のようなものだそうです。
出典:厚生労働省「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き」
実際に導入した介護事業所のケースを集めて分析しているので、導入の際には非常に役に立つでしょう。
6-3.DX・ICT化のための補助金を支給
さらに、地域医療介護総合確保基金をもとにして、介護ソフトやタブレット端末の導入を支援するため補助金の支給もしています。
詳細を以下にまとめましたので見てみてください。
地域医療介護総合確保基金を利用したICT導入支援事業 | |
目的 | ICTを活用した介護サービス事業所の業務効率化を通じて、職員の負担軽減を図る。 |
実施主体 | 都道府県 |
補助対象 | ・介護ソフト:記録、情報共有、請求業務で転記が不要であるもの、 ケアプラン連携標準仕様、を実装しているもの (標準仕様の対象サービス種別の場合。 各仕様への対応に伴うアップデートも含む) ・情報端末:タブレット端末、スマートフォン端末、インカムなど ・通信環境機器等:Wi-Fiルーターなど ・その他:運用経費(クラウド利用料、サポート費、研修費、他事業所からの照会対応経費、バックオフィスソフト(勤怠管理、シフト管理等)など) |
補助要件 | ・LIFEによる情報収集・フィードバックに協力 ・他事業所からの照会に対応 ・導入計画の作成、導入効果報告(2年間) ・IPAが実施する「SECURITY ACTION」の「★一つ星」または「★★二つ星」のいずれかを宣言 など |
補助上限額など | 【事業所規模(職員数)に応じて設定】 ・1~10人:100万円 ・11~20人:160万円 ・21~30人:200万円 ・31人~:260万円 【補助割合】 ・一定の要件を満たす場合は、3/4を下限に都道府県の裁量により設定 ・それ以外の場合は、1/2を下限に都道府県の裁量により設定 |
出典:厚生労働省「ICT導入支援事業の概要」より抜粋・編集
「介護ソフトを導入したいが、予算がとれない」という事業所は、ぜひこの補助金の利用を検討してみてください。
6-4.「介護事業所におけるICTの導入・普及セミナー」の動画をYouTubeで公開
また、厚生労働省では令和3年度(2021年度)に「介護事業所におけるICTの導入・普及セミナー」を実施しました。
そのときの動画が厚生労働省YouTubeチャンネルで公開されています。
内容は、以下のとおりです。
・介護現場でのICT活用 ~課題解決のヒントとアイディア~/中部学院大学 看護リハビリテーション学部教授 井村保氏
・介護分野におけるICT導入の必要性・関連事業のご紹介/厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課
・都道府県によるICT導入支援事業のご紹介
・ ICT導入・活用事例のご紹介
・ケアプランデータの連携に向けたこれまでの動向及び最新動向のご紹介/株式会社三菱総合研究所
・ICTを活用した情報共有・連携事例のご紹介
・介護分野におけるICT化・情報化の展望と課題/関西学院大学 人間福祉学部 社会起業学科教授 生田正幸氏
いずれも10分弱から長くても30分前後の動画ですので、導入を検討する事業者はぜひ一度視聴してみてください。
7.介護をDX化する際の課題・注意点
ここまで読んで、「メリットも多いし、国もサポートしてくれるならうちの事業所もDXに取り組もう」と決意した人もいるかと思います。
ただ、実際に介護DXを始めるに当たっては、乗り越えなければならない課題や注意点もありますので、最後にそれを説明しておきましょう。
主な課題と注意点は以下です。
・ITやDXにくわしい人材が不足している
・現場のスタッフが対応できない
・導入コストがかかる
・費用対効果を把握しづらい
7-1.ITやDXにくわしい人材が不足している
第一の問題は、ITやDXに精通した専門人材が不足していることです。
そもそも日本では、IT人材は慢性的に不足しています。
もし介護事業所で、「DXを推進するので、新たにくわしい人を採用しよう」と思ったとしても、なかなか見つからない可能性があるのです。
その場合は、既存のスタッフの中から担当者を決めて、くわしくなってもらいましょう。
介護DXに関するセミナーや、介護ソフトや介護機器などのレクチャーを受けた上で、最初はシンプルな機能の使いやすいものから導入してみてください。
介護ソフトの中には、「30日間無料」などのトライアル期間を設けているものもありますので、そういうものを使いながら勉強し、使いこなせそうなら本格導入する、といったこともできるでしょう。
7-2.現場のスタッフが対応できない
前項とも関係しますが、介護の現場にはデジタルにくわしくない、むしろ苦手だというスタッフもいるでしょう。
そうなると、せっかくDXしても対応できない人が出てきてしまいます。
その場合は、DXの意義や目的、システムの使い方などを根気よく説明して理解を得るしかないでしょう。
前述しましたが、DXは単にデジタル技術を導入するだけではありません。
それによって介護の仕事をしやすく改善し、利用者にはよりよい介護サービスを、介護従事者には働きやすさを提供することが目的です。
もしスタッフが「かえって仕事がしにくくなった」と感じるのなら、そのDXはうまくいっているとは言い難いでしょう。
そのようなことがないよう、初心者でも使いやすいシステムを選んだり、使い方をわかりやすいマニュアルにまとめたりといったあゆみよりも必要です。
7-3.導入コストがかかる
介護DXを推進するには、導入コストなどの初期費用がかかります。
小規模な事業所であれば、「そんな予算はとれない」というところも多いでしょう。
中には無料の介護ソフトもありますが、有料ソフトに比べて機能は少ないですし、導入に際してのサポートも手厚いとは言えません。
また、ソフトの費用は抑えられても、PCやタブレットなど周辺機器の購入が必要な場合もあります。
そんな場合は、「6-3.DX・ICT化のための補助金を支給」で説明した厚生労働省の補助金などを活用しましょう。
それ以外にも自治体で利用できる補助金がないか、役所で相談してみてください。
7-4.費用対効果を把握しづらい
もうひとつの問題点、注意点は、そもそもDXとは費用対効果を把握しにくいものだということです。
まず、導入してから運用が軌道に乗るまで時間がかかり、すぐに効果を実感できないことも多いでしょう。
また、「介護の質が向上した」「顧客の満足度が上がった」「スタッフが働きやすくなった」などの改善は、売上などと違って数字としてあらわしづらいものです。
そのため、費用対効果がどの程度得られているのかがわからず、定着する前に「効果がない」と諦めてしまうことも考えられます。
これについては、まず導入時に「介護DXは成果が上がるまで時間がかかること」「費用対効果は数字にしづらいこと」を理解して、長いスパンで取り組む覚悟を決めてください。
その上で、「3.介護DXの事例」で挙げたような実際の成功事例を参考に、自分の事業所の現状と照らし合わせて「どの程度効果が出ているか」を把握するというのもひとつの手です。
8.まとめ
いかがでしたか?
介護のDXについてよくわかったかと思います。
ではあらためて、記事の要点をまとめましょう。
◎介護事業におけるDXとは、「ITツールやAI、ロボットなどを導入して介護業務を変革・改善することで、要介護者にはよりよい介護サービスを提供し、従事者には働きやすい職場を実現し、どちらも満足度・生活の質が向上すること」
◎介護DXでできることは、
・介護ロボット、介護機器の導入
・介護ソフトによるペーパーレス化
・グループウェアによるコミュニケーションの効率化
◎介護をDX化するメリットは、
・現場業務が効率化される
・離職率を下げ、人手不足の解消が期待できる
・よりよいサービスを提供できる
・「LIFE」などの制度に対応しやすい
◎介護をDX化する際の課題・注意点は、
・ITやDXにくわしい人材が不足している
・現場のスタッフが対応できない
・導入コストがかかる
・費用対効果を把握しづらい
この記事で、あなたの事業所が適切なDXに取り組めるよう願っています。