データはただの数字の羅列でなく“お客様”そのものと捉え不動産業界のTOPを目指す

データはただの数字の羅列でなく“お客様”そのものと捉え不動産業界のTOPを目指す
戸建て関連事業、マンション事業、収益不動産事業、アメリカ不動産事業、金融事業など幅広く事業展開を行うオープンハウスグループ。2013年9月期の東証一部上場から10期連続で売上高、営業利益を更新しており、2023年9月期の業績も、売上高1兆1,300億円、営業利益1410億円と、いずれも過去最高を予想。更に、総合不動産会社日本一という高みへ。マーケティング部の川島佑太さんに、現在の取り組みや今後の展望をお聞きしました。

目次

株式会社オープンハウスグループ
マーケティング本部 
マーケティング部 
事業推進グループ
課長  
川島佑太氏

1990年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、2014年度に新卒でオープンハウス入社。営業職として戸建仲介営業を経験後、マーケティング部へ異動。自社独自のCRMツール改善を担当する。現在は、リードナーチャリング・マーケティングオートメーション・CRMといったCX業務をメインに行う。


オンラインとオフライン、2つのデータをつなぎリスト化


まずはオープンハウスのマーケティング部で川島さんが行っている事業内容について教えてください。

川島 私が担っているのは、戸建て事業。オープンハウスグループのポートフォリオで一番大きい部分をマーケティングという立場で見させてもらっています。メインは新規顧客獲得の集客です。それから、獲得後のお客様の引き上げやナーチャリングをしています。広告を出稿してウェブサイトでの会員登録が集客の最初の地点ではありますが、それだけでは物件のお問い合わせや見学予約のような熱量まで高まっていないお客様が多いんですよね。つまり、会員登録だけでは次のゴールに繋がりづらい。次のコンバージョンポイントにつながるように広告戦略を考えたり、サイト施策の実施、営業担当者とのコミュニケーションを密にやっています。。

それから、直接メールやLINEなどメッセージによるナーチャリングの施策も行っています。あとは獲得したお客様をどこの店舗に引き渡したら最適かも考えています。つまり、WEB上にどういう人を呼んできて、WEB上でどういうコミュニケーションを取って、現実世界ではどの店舗の担当にするのか、お客さまと営業担当者の両者のことを考えて細かく全般をコントールしています。私たちのKPIとしては、お金をかけて広告出稿や幅広い施策を実行して、それがどれくらい契約につながったのか。費用対効果を一番に見ています。

ユーザーが会員登録をするインセンティブはなんでしょうか。

川島 弊社の場合はご登録いただくと、より多くの物件を閲覧できるようになります。それが登録のフックになっています。“興味はあるな”くらいの方が多い印象ですね。誰しも、毎日住んでいる家に、多少なりとも不満があることも多いと思います。仮に不満はなくとも「1000円で家が買えます」といったら、多くの人は買うことを選択するでしょう。つまり、潜在的に“新しい家が欲しい”という欲求があるはずなんです。検討度合いは様々ですが、潜在的欲求に働きかけながら、営業がお客様のモチベーションを上げることは意識しています。

ウェブでの施策以外に、紙の販促もされているのでしょうか?

川島 紙はほとんど実施していません。デジタルの強みは効果計測できること。マーケティングでお金をかけている以上、リターンがどれくらいあったか見えにくいものには投資もしづらい。数字にシビアな会社なので。ただエリアによっては、まだまだチラシが有効なところもありますね。


自社で獲得した過去のデータ活用はされていますか?

川島 広告の役割としては、まず“見込み顧客をウェブサイトに連れてくる”ということ。じゃあその中でもどんな人を連れてくるのか。それこそ家に興味がある人・ない人でいったら、ある人を連れてきてくれたほうがいい。例えば、過去物件を購入いただいた方の類似や、もう少しテクニカルなデータを使ったリストも使ったりしています。あとは結果を見て、例えば広告をGoogleで出したとき、Yahooで出したとき、どれが一番契約につながったのか。特に成果が出たものがあれば、そこに費用を投下する。結果を見てどの媒体でどんな訴求軸での出稿に寄せるか細かく判断しています。

「類似リスト」というのは、どういったデータを使っているのですか?

川島 一例としては、最終的に契約に至った顧客と似たような行動履歴のある顧客のリストがありますね。このリストを作成するに当たっては、オンラインとオフラインの両方のデータを組み合わせています。

オンライン上のデータで取得できるのは、サイトの中でどのページをどれくらい閲覧していたか、どう回遊したのかといったことです。サイト経由でお申込みをいただく上で、重要なデータではありますが、不動産という性質上、サイトの中だけで購入が発生したり、お金が動くことはありません。

そこで、オフラインのデータと組み合わせて考えています。SFA上にある「この人接客しましたよ」「電話つながりましたよ」という営業活動に関する情報も使っています。

私たちの最終ゴール、つまり成約は、サイト上では完結しません。ウェブ上の回遊データだけでは費用対効果が計測できないため、オフラインの効果をくっつけている感じですね。

不動産となると商圏がある程度決まってくると思います。商圏分析はしているのでしょうか?

川島 はい。首都圏・名古屋・関西・福岡・群馬と、商圏によってニーズが異なります。

私たちのビジネスとして、基本的にオープンハウス・ディベロップメントが出している物件を販売する割合が多くなります。一般に出回っている物件というより、扱う物件が決まっている。となると、集客したいエリアに何世帯あるのか。物件はどこにあるのか。あとは営業所がどこにあるか。それを様々な切り軸でマッピングすれば、大体見えてきます。


one to oneに近づくマーケティングで結果を求める

物件サイトがお客様に合っているかは、どのように判断されているんでしょうか?

川島 お客様ごとに情報量の差、物件探しへの熱量、検討の背景、そして何に興味があるかは人それぞれ違うので難しい。ただ、コンバージョンをどう捉えるかがポイントだと思っています。私たちでいうところのコンバージョンは、会員登録、資料請求という反響部分。特に不動産という大きい買い物の場合、お客様の気持ちが動いた結果、ボタンを押すと思っているんですね。広告やサイトもそうですが、それまでの体験や当社が提供できることがお客様とニーズにマッチしたからコンバージョンしていただける。大枠としてはそう考えているので、コンバージョン率をお客様のニーズに合ったかどうかの判断基準にしています。

ただし、コンバージョン率が上がり、問い合わせも増えたけど、契約は増えていない、ということでは意味がない。すべて契約につながるように、フィードバックを返す感じですね。

ニーズが顕在化していない見込客に対しては、どのように確度を上げていますか?

川島 サイト内での会員登録前と後で決定的な違いは何かというと、そのユーザーのIDに紐づいて嗜好が分かるかどうかという点です。嗜好に合わせて仮説を立てられれば、それに沿った物件を紹介できますよね。one to oneに近い形でいうと、顧客のデータ活用がそれ。A/Bテストのような文脈でいうと、獲得後の顧客に対しては次のステップに進んでもらうのが一つのナーチャリング。会員登録までで動きが止まっている人を資料請求や、見学予約につなげています。

シナリオで誘導しているイメージでしょうか?

川島 シナリオもあるんですが、正直あまり理想通りにはいかないと感じています。結局は個別の対応が必要になってきてしまうケースがしばしば。スコアリングも極端に細かく実施しており、極端にone to oneに近づけているイメージです。セグメントというよりは、“この人だからこれだよね”とやってみている感じです。

個別のリードに対してアクション起こしていくほうがいいということですかね?

川島 そのほうが刺さったというか、その後の効率がよかったんです。もちろん住宅の購入を段階的に考えて行動してくれる人と、全然行動しない人がいるんですよね。ここに対して同じロジックを使ったとしても精度が違うので、意味をなさない。購入に対しての解像度が高まっている人にはone to oneの仕掛けをしますし、そうでなければまずはコンテンツをお送りして、そこをフックにこちら側が育て上げるイメージを持ってやっています。

ターゲティング通りのユーザーが流入されているのでしょうか?

川島 狙ってはいるのですが、データを突き合わせると、契約が取りやすそうなところと実際に取れているのでは、ズレがある。そこはチューニングしています。

例えば年収が高いから決まりやすいか、というとそうではないんです。余裕があるというのは、同時に選択肢があるということ。選択肢があれば、弊社で決める動機も選択肢の一つでしかない。一方、オープンハウスで買うこと以外の選択肢がなければ、決まりやすいかもしれないですよね。例えば世帯年収と契約率のグラフのピークの山がずれていることから推測し、アプローチしていく年収層を考えることもできますよね。とはいっても、世帯年収が1,000万円以上の顧客ばかり獲得しろといっても無理な話で、そこは期待値。数と契約率で考えたときに、どうしたら一番効率良く、費用対効果良く、マーケティング活動ができるのかを考えています。

“一度ご縁があったお客様”を大切に、お客様目線で考える

今後はどのようなマーケットに変化していくと捉えていますか?

川島 不動産の盛り上がりはコロナ期にグッと上がってからはやや落ち着いてきている印象です。今までと同じ件数の契約を毎年取ることが出来たとしても、会社も店舗も拡大するとなると、私たちにとって現状維持は後退なわけで、常に成長が絶対条件です。けれど人口は減る。仮に逆風の中だとしても、企業の成長を支えるのが私たちのミッションですから、できない理由探しはせず、どうしたら出来るかを考えています。今までであれば新規獲得をいかに多く取っていくことが最大のポイントでしたが、獲得したお客様が営業の手元からポロポロとこぼれているのも現状としてある。一度獲得したお客様を大事にしようと、いろいろと考えているところですね。

具体的な施策はありますか?

川島 一度実名化して、しばらく音沙汰なかったお客様が、再度“その気になった”というようなタイミングもあったりするんですね。何万人いるお客様の中で急にモチベーションが上がったタイミングを担当営業が目視で見分けるのは不可能。ただそのようなシグナルが出るようにウェブ上でしくみを整えておき、それを見逃さず営業に伝える。それはできると思っています。ロジックを組んでいてセグメントやマトリックスで切るとか、契約率がこれくらいのゾーンだなとか、いろいろやっています。それはテクニカルなことで、ツールでもなく自前でやっています。

データを活用すると言っても、単に効率化するというよりは、一人ひとりに合わせて地道にマーケティングをされている印象です。

川島 マーケティング部門は、直接お客様とご対面で接点を持つ機会がほとんどないんですよね。私たちがお客様を観察するには、データでしかない。ここをただの数字と考えてしまうと、多分うまくいかないでしょう。成約に至らない登録者の気持ちを考えると、データはものすごく重要。一人ひとりのお客様の回遊ログを見ていると“検討確度が高い人は、このような動きをするんだな”と見えてきますから。AIのロジックをかましてモデルをつくるということもしていますが、一方で一人ひとりを地道に眺めるってこともやっています。データの粒度は気をつけて見ていますね。まるっと一括りにしてデータを見ちゃうとone to oneにならないですし、one to oneで見すぎても大変。どっちかに寄ってもダメだと思うので、ハイブリットでやっています。


そうなると御社のマーケティングスキルもかなり上がりますね。

川島 一般的な特定領域のスキルだけでなく、「成果を出す」といったような汎用的なスキルは身につきますね。常に2ケタ成長が必須なので。私が当部署で働いている中でも、昔は獲得して営業に渡せば決めてくれるという意識があり、獲得重視でした。徐々にその後の資料請求とか、次のゴールもサイトの中でしっかり取っていこうという風潮に変えていきました。リテンション率を高めようと。それは2ケタ成長するためにですね。そこはデータがつながらないと、上手くできない。分業化が進んだ結果、企業側として業務は回っていても、その副作用として分業のつなぎ目ではお客様視点ではぶつ切りのコミュニケーションになっているケースはよく体験しますし、それを強いられるのはお客様側にとってはストレスでしかないですよね。分業化は企業側の都合でしかないのに。

不動産のマーケティングはシンプルなイメージがありましたが、顧客理解をかなり深い部分にまで置いているということが理解できました。

川島 家はやっぱり高い買い物ですからね。お客様のことしっかり考えなければ選んでいただけないですし、そこに見合うサービスを提供しなくてはいけない。そこを突き詰めたときに、コミュニケーションに一貫性がなければ当然不信感は高まりますよね。そこの努力はお客様に強いるのではなく、こちら側がお客様に合わせる努力が必要だと思います。

それと、マーケティングは経営と同じ目線で見ていくのがトレンドと認識していますが、御社のマーケティングにはそれを感じることができました。

川島 基本的には一回しか買わないような高価なものなので、一度どこかで減点があれば、他社さんに移ってしまうでしょう。一度目の接点でより魅力的に伝え、お客様を大事にすることが重要だと思います。

最後に、川島さんがマーケターとして大事にしていることを教えてください。

川島 コンバージョンを単なる数字ではなく、感情の変化と捉えなくてはいけません。お客さまの感情が盛り上がってボタンを押した。その理由を想像する。それがないと、独りよがりになってしまう気がします。そこを考え始めたら上手くいったという経験もあるんですよね。数字はただの羅列ではなく“お客様”そのものなんです。




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