物流DXとは具体的に何をやる?倉庫・配送の事例や推進の流れを解説
目次
物流業界において、DXは真の革命をもたらし始めています。
その一方で、
「自社は物流業界に身を置いているが、DXに乗り遅れたと感じる」
といった企業もあるでしょう。
“物流DXの波は、ちょうど始まったところ” といえます。今から物流DXに取り組むのでは、遅いということは、ありません。むしろ、最適なタイミングです。
本文中でも触れていますが、2021〜2024年度の国土交通省の計画に、物流DXが盛り込まれているためです。
しかしながら、今回の物流DXの波に乗り遅れれば、競争上の不利益を被るリスクがあります。
この記事では、物流DXについて、基礎からわかりやすく解説します。
一通りお読みいただくと、
「なぜ波がきているのか」「具体的に、何をすることなのか」
といった初歩的な疑問から実践の注意点までキャッチアップできます。
未来を考えれば、物流DXは避けては通れない道です。本記事を、DXへの取り組みの一歩を踏み出すヒントとしていただければと思います。
この記事は、デザインワン・ジャパン DX事業本部でDX支援に携わる泉川学が作成しました。
1. 物流DXとは何か?基本の知識
まず、物流DXの基本的な事項から、見ていきましょう。
1-1. DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
そもそもDXとは何かといえば、「デジタル技術によってビジネスモデルを革新すること」といえます。
ただデジタル化するだけでなく、ビジネスの構造そのものやプロセス、オペレーションのあり方を、根本的に変化させることが、DXの概念です。
【DXの主要な要素】
・デジタル技術の活用:生産性の向上や新サービスの創出に貢献する技術の導入 ・ビジネスモデルの変革:市場のニーズに合わせた新たなビジネス構造への移行 ・業務プロセスの最適化:効率化を目指した業務フローの再設計 ・企業文化の変革:デジタル化を支持し、推進するための組織文化や思考の転換 |
※より詳しくは「【必見】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは。意味・目的をわかりやすく解説」にて、ご確認ください。
1-2. 物流DXとは
上記の定義を踏まえつつ、物流DXとは何かといえば、
「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」
と定義されています。
【参考:物流DXについて】
出典:国土交通省「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)概要」
既存のオペレーション改善・働き方改革の実現や、物流システムの規格化などを通じた物流産業のビジネスモデルそのものを革新することが、物流DXです。
具体的には、以下が挙げられています。
【物流分野の機械化】
・幹線輸送の自動化 ・機械化 ・ラストワンマイル配送の効率化 ・庫内作業の自動化・機械化 |
【物流のデジタル化】
・手続きの電子化(運送状やその収受の電子化、特車通行手続の迅速化など) による業務の効率化 ・点呼や配車管理のデジタル化による業務の効率化 ・荷物とトラック・倉庫のマッチングシステムの活用による物流リソースの活用の最大化 ・トラック予約システム導入による手待ち時間の削減 ・SIP物流(物流・商流データ基盤)やサイバーポートの構築により、サプライチェーン上の様々なデータを蓄積・共有・活用し、物流を効率化 ・AIを活用したオペレーションの効率化(「ヒトを支援するAIターミナル」の各種取組や、AIを活用した配送業務支援など) |
1-3. 物流DXの変遷と現状
物流業界は、DXを原動力とする変革期を迎えているといっても、過言ではありません。
従来、商品の輸送・倉庫保管・配送といった物流のプロセスは、収益性の問題から、新技術に投資する余地が限られていました。
それが、コロナ禍による世界的な影響により、業界全体としてDXを急速に加速させる必要性に迫られました。
出典:「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(令和2年7月17日閣議決定)【概要】」
なかでも物流業界にとって影響が大きかったのは、サプライチェーンの一部断絶や物資不足の課題です。
根本的な見直しを含め、よりよい物流のあり方を、世界全体で模索するきっかけとなりました。
1-4. 国土交通省の物流DXに関する取り組み
このような背景を受けて、政府も物流DXに対する取り組みを強化しています。
「総合物流施策大綱(2021-2025)」において、
(1)サプライチェーン全体の徹底した最適化
(2)労働力不足対策と物流構造改革の推進
(3)強靭で持続可能な物流ネットワークの構築
を掲げています。
以下は国土交通省資料からの抜粋です。
出典:国土交通省「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)概要」
新型コロナ流行による社会の劇的な変化を、
〈これまで進捗してこなかった、物流のデジタル化や構造改革を加速度的に促進させる好機〉
として、取り組み強化のスタンスが打ち出されました。
物流業界に身を置く企業にとっては、この物流DX(2021年〜2025年)の流れに、しっかり乗っていくことが重要であるといえます。
2. 物流DXの具体例
物流DXは、デジタル技術を活用して物流業務を効率化し、革新する多様な取り組みを指します。以下では、その具体例を紹介します。
2-1. 物流業務におけるDXの全体像(導入状況)
「物流DX」と一口にいっても、その内容は多岐にわたります。
全体像をつかむ一助として、国土交通省「物流DX導入事例集」に掲載されている事例のマッピングをご紹介します。
上図では、物流業界を「倉庫(青丸)」と「配送(赤丸)」の2つに分けて、整理しています。
そのうえで、DXの種類を、縦軸に「自動化・機械化」、横軸に「デジタル化」としてマッピングしています。
以下では、「配送」「倉庫」の具体的な事例を、それぞれ3つずつ、ご紹介しましょう。
2-2. 倉庫のDX事例
まず「倉庫」のDX事例です。
2-2-1. クラウド型在庫管理システム(Johnstone Supply)
米国の冷暖房機卸売業者であるJohnstone Supplyは、約450店の卸販売店に対応するために、配送センターを複数拠点、拡大しました。
しかしながら、配送センター間で在庫店数などのデータの整合性がとれず、作業増大・人員増加の課題を抱えていました。
この課題を解決したのが、クラウド型在庫管理システムです。
Infor WMS(Infor社のサービス)を導入した結果、〈在庫精度が99.9%まで改善〉したとのことです。
2-2-2. 荷下ろしロボット(坂塲商店)
日用品の卸総合商社である坂塲商店では、毎日1万ケースの商品を、パレット上から仕分け機につながるコンベヤーに投入する作業を、すべて手作業で実施していました。
高さのある積荷や重い商品もあるため、労働環境の改善が必要でした。
この課題を解決したのが、荷下ろしロボットです。
荷下ろし工程を完全自動化をする知能ロボットである「MujinRobot デパレタイザー」を導入し、〈1時間あたり平均400〜450ケース〉を安定的に荷下ろしできるようになりました。
2-2-3. ピッキング業務の自動化(トランコム)
物流センター構築運営サービスを提供するトランコムでは、倉庫事業に関わる労働力不足という課題を抱えていました。
長時間労働や重筋作業の改善を喫緊の課題として取り組みを進めたのが、倉庫内での保管・ケースピッキング自動化システムです。
上部空間の有効活用や、既設倉庫への拡張性、停電時には人で対応が可能な設計などを実現し、〈3分の1のコストで大幅な省人化〉を可能としています。
2-3. 配送のDX事例
次に「配送」のDX事例です。
2-3-1. AI点呼ロボット(菱木運送)
千葉県で運送業を営む菱木運送では、人手不足により労働時間が増加するという問題に直面していました。
ドライバーの勤務状態や社員個々の業務負荷を把握できておらず、働き方改革と安全対策の両面から、強化が必要な局面にありました。
これらの課題を解決したのが「AI点呼ロボット」の導入です。
導入された「Tenko de unibo」は、本人確認・アルコールチェック・免許証チェック・体調管理(血圧・体温)・指示伝達といった点呼業務を行うロボットです。
点呼ロボットの導入により、〈ドライバーや運行管理者の負担を軽減〉でき、ロボットを介した円滑なコミュニケーションにも寄与しています。
2-3-2. GPSによる車両の動態管理(Hacobu)
サービス提供者であるHacobuは、運行状況を簡単にデータで可視化したいという課題を抱えていました。
委託先の運送会社から運行実績を入手する必要がありましたが、ダイヤ検証に手間と時間がかかっており、運送会社に頼らず自社で簡単に運行実績が確認できる方法を求めていました。
この課題を解消したのが「GPSによる車両の動態管理」です。
GPS端末を車両に装着するだけで、車両管理を効率化します。
豊田自動織機の事例では、〈毎月のダイヤ検証にかかる時間が、12時間から6時間に半減〉したといいます。
さらに、全体を把握して作業時間のダイヤを短縮できるようになり、残業時間の低減も実現しました。
2-3-3. 過疎地域でのドローン配送(山梨県小菅村 他)
山梨県小菅村では、住民は買い物に村から片道約40分かけて市街地のスーパーへ行かなければならない状況にありました。
一方、物流各社にとっては、非効率な輸送により採算が取りづらい過疎地域への配送効率化が課題としてありました。
そこで、小菅村・セイノーホールディングス・エアロネクスト・ココネットが連携してスタートさせたのが、「ドローンを活用した買物・配送代行サービス」です。
「物流の効率化」と「地域住民の生活の質」の両方の向上を図る、新たな物流の仕組みとして、注目されています。
成果としては、
〈有償サービスのため利用者を確保できるかに懸念があったが、始めてみると家まで配達される点が買い物困難者にとって喜ばれている〉
とのことです。
以上、ここでは6つの事例をピックアップしてご紹介しました。
国土交通省の「物流DX導入事例集」では、本記事ではご紹介しきれなかった計23社の事例が掲載されています。ほかの事例もご覧になりたい方は、あわせてご覧ください。
3. 物流DXの進め方
続けて、「自社でも物流DXを進めたい」という方に向けて、物流DXの進め方を4つのステップに分けて解説します。
1. 現状の課題を明確化する 2. パートナー企業を選定する 3. 戦略を立案し実行計画を策定する 4. システムや体制を構築して取り組みを実行していく |
3-1. 現状の課題を明確化する
1つめのステップは「現状の課題を明確化する」です。
物流DXを始める前に、まずは自社の物流プロセスにおける課題を明確にすることが必要です。
たとえば、配送遅延の原因を分析したり、在庫管理の効率化が必要かを検討します。
データ収集や従業員へのヒアリング・アンケート調査などを通じて、詳密に調査して課題を洗い出しましょう。
【物流プロセスにおける具体的な課題の例】
・配送効率の低下:ルートの最適化が不十分であるため、配送効率が落ち、コストが増加します。リアルタイムでの交通状況の把握や、配送ルートの動的な調整が求められます。 ・在庫管理の複雑化:多様化する商品ラインナップにより、在庫管理が複雑化しています。正確な在庫データのリアルタイム把握が不可欠です。 ・出荷ミスの増加:注文と出荷のミスマッチが発生し、顧客満足度の低下につながります。注文データと出荷データの一元管理が求められます。 ・労働環境の改善:長時間労働や重労働が常態化していれば、作業員の負担軽減が課題です。自動化やアシスト技術の導入による労働環境の改善が必要です。 ・安全性の向上:物流センターや配送過程での事故やトラブルを未然に防ぐため、安全対策の強化が求められます。たとえば、センサー技術を利用した安全管理システムの導入が考えられます。 |
3-2. パートナー企業を選定する
2つめのステップは「パートナー企業を選定する」です。
物流DXを推進する際、パートナー企業との協力は不可欠です。自社でシステム開発を行えない企業にとって、適切なパートナーの選定はDXの成功を左右します。
パートナー選びに失敗すると、DXプロジェクト自体がつまずく可能性が高まります。
【パートナー企業の選定基準】
・企画から運用までの一貫性:自社でシステムの企画から運用までを実施しているかどうか。 ・リリース後のサポート力:リリース後の運用を見据えた提案ができるかどうか。 ・開発力とイノベーション:最新技術を取り入れた開発が可能かどうか。 ・コストと効率のバランス:コストパフォーマンスに優れ、効率的な運用が見込めるか。 ・セキュリティと信頼性:データの安全性を保ち、信頼できるセキュリティ対策を有しているか。 |
システム開発はリリース後が本番であり、継続的な運用と改善が求められます。長期的な視点でのパートナーシップが重要です。
具体的な選択肢については、以下の記事もあわせてご覧ください。
・【プロ厳選】本当におすすめできるシステム開発会社5選とその選び方を紹介! ・失敗しないアプリ開発会社の選び方 チェックすべき7つのポイントを紹介 ・システム運用を外注するには? メリットと外注先選定時の注意点を解説 |
3-3. 戦略を立案し実行計画を策定する
3つめのステップは「戦略を立案し実行計画を策定する」です。
パートナー企業と緊密に協力し、物流DXのための戦略を立案して実行計画を策定します。
どのようなテクノロジーを導入し、どのプロセスを、どのような優先順位で改善するかを決めていきましょう。
【実行計画策定の要素】
・目標の明確化:具体的な成果を定め、それを達成するための目標を設定します。 ・テクノロジーの選定:取り組むべき課題を特定し、そのためのテクノロジーを選定します。 ・プロセス改善:現行の物流プロセスを分析し、改善が必要な領域を特定します。 ・タイムラインの設定:目標達成に向けた具体的なスケジュールを策定します。 ・リスク管理:計画におけるリスクを予測し、対策を講じます。 |
3-4. システムや体制を構築して取り組みを実行していく
4つめのステップは「システムや体制を構築して取り組みを実行していく」です。
計画した戦略を具現化するための基盤を整え、それを実行に移す準備を行います。
【構築と実行のための要素】
・システム構築:戦略に沿った在庫管理システムを開発し、導入します。 ・研修プログラムの開発:スタッフがデジタル化に対応できるよう、必要なスキルを身につけるための研修プログラムを策定します。 ・体制の確立:効果的な実行のために、組織内の適切な体制を確立します。必要に応じて、人材採用を実施します。 ・改善プロセスの導入:実行中に生じる問題に対応し、継続的な改善を行うプロセスを設計します。 ・評価基準の設定:実行した取り組みの成果を測定するための評価基準を設定します。 |
システムと体制の構築は、単に技術を導入するだけではなく、それを支える人材とプロセスが整っていることが不可欠です。
社内への説明会やチーム体制の確立、研修プログラムの作成なども含めて、取り組みを進めていきましょう。
4. 物流DXに取り組む際の注意点
最後に、物流DXを進めるにあたり、事前に注意しておきたいポイントをお伝えします。
1. パートナー企業選びを間違うとすべてが失敗する 2. 持続可能な運用モデルに配慮する 3. 着手できる部分から行動していく |
4-1. パートナー企業選びを間違うとすべてが失敗する
1つめの注意点は「パートナー企業選びを間違うとすべてが失敗する」です。
先ほども述べたことですが、パートナー企業は慎重に選ぶことが大切です。システム導入の失敗、コストの増大、さらには業務の停滞を招くリスクがあります。
物流DXのパートナー選びにお悩みの場合には、弊社に一度ご相談ください。こちらのお問い合わせページより無料相談を受け付けています。
4-2. 持続可能な運用モデルに配慮する
2つめの注意点は「持続可能な運用モデルに配慮する」です。
物流DXの実施は、ただ技術を導入するだけでは完結しません。持続可能な運用モデルを構築することが、長期的な成功への鍵です。
初期投資の大きさに目を奪われがちですが、運用コストの削減や業務効率の向上を見据えた投資が、将来的な収益性を決定します。
【持続可能な運用モデルの構築】
・初期投資とROI:投資収益率を精査し、長期的なリターンを確保します。 ・環境への配慮:エコフレンドリーなシステムを選び、環境保護に貢献します。 ・運用コストの削減:効率的なシステムにより、継続的なコスト削減を目指します。 ・業務効率の向上:自動化と最適化により、業務の迅速化を図ります。 ・将来的な拡張性:将来の拡張や変更に柔軟に対応できるよう設計します。 |
「持続可能」の観点では、環境への影響も考慮する必要があります。紙の使用を減らす電子データ管理や、CO2排出量を削減する運送方法の見直しは、地球環境への責任を果たす上で不可欠です。
加えて、将来的な変化に対応できる柔軟性も、持続可能な運用モデルには求められます。
新たな技術の導入や業務プロセスの変更が、迅速かつスムーズに行えるように、将来の運用を見据えた設計を最初からしておくことが重要です。
4-3. 着手できる部分から行動していく
3つめの注意点は「着手できる部分から行動していく」です。
デジタルトランスフォーメーション(変革)となると、ハードルが高いと感じる企業もあるかと思います。
しかしながら、まずは着手可能な部分から始めることが大切です。
経済産業省の資料によれば、DXの構造は、デジタルトランスフォーメーション・デジタライゼーション・デジタイゼーションの3つの異なる段階に分解できます。
今すぐに大きな投資は難しいという企業でも、アナログデータのデジタル化や、業務プロセスのデジタル化など、できることから取り組みを進めていきましょう。
5. まとめ
本記事では「物流DX」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
・ 物流DXとは、物流業界においてデジタル技術を活用してビジネスモデルを革新すること ・政府も含めて業界全体での物流DXへの取り組みが進んでいる |
物流DX事例として、以下の6つをご紹介しました。
1. クラウド型在庫管理システム(Johnstone Supply) 2. 荷下ろしロボット(坂塲商店) 3. ピッキング業務の自動化(トランコム) 4. AI点呼ロボット(菱木運送) 5. GPSによる車両の動態管理(Hacobu) 6. 過疎地域でのドローン配送(山梨県小菅村 他) |
物流DXの進め方としては、次の4つのステップで取り組んでいきましょう。
1. 現状の課題を明確化する 2. パートナー企業を選定する 3. 戦略を立案し実行計画を策定する 4. システムや体制を構築して取り組みを実行していく |
物流DXに取り組む際には、以下のポイントにご注意ください。
1. パートナー企業選びを間違うとすべてが失敗する 2. 持続可能な運用モデルに配慮する 3. 着手できる部分から行動していく |
物流業界におけるDXは、企業にとって大きなチャンスであり、同時にチャレンジでもあります。
新しい技術と人間が協働することで、物流DXはその真の価値を発揮します。
物流業界が直面する課題を解決し、成長を実現するための一歩を踏み出していきましょう。