インタビューインタビュー

AIが描くDXの未来 後編 DX企業に必要な人材は、正面から勉強する人

AIが描くDXの未来 後編 DX企業に必要な人材は、正面から勉強する人
明治大学の研究室Web Science Laboratory(WSL)で、人工知能研究を基盤としたWeb上のビッグデータを利用し企業との共同研究プロジェクトを複数進行する高木友博氏。前編では、現在のAI技術と未来についてお話ししていただきました。後編では、これまで数多くの学生や企業のトップクラスの人たちと交流してきた経験から、今後組織で活躍するDX人材についてお話をお聞きしました。AIをDXに活用することを通じて、日本企業が抱える問題点や課題も浮き彫りに。高木氏自身の人生におけるモットーなども垣間見ることができました。

目次

明治大学
理工学部 情報科学科 教授
高木友博氏

1954年石川県金沢市生まれ。1979年東京工業大学大学院総合理工学研究科システム科学専攻修士課程修了。1983年同博士後期課程修了し、カリフォルニア大学バークレー校コンピュータサイエンス学科客員研究員に。1984年インターフィールズシステムズ、1988年松下電器産業に入社。1998年から明治大学理工学部情報科学科助教授、2000年同教授に。計算型人工知能における世界的権威として、多数の大手企業との共同研究実績を有する。趣味はバイク。

前編の記事はこちらからご覧いただけます。

AIが描くDXの未来 前編 「AI(人工知能)は使えない」のではなく、使いこなせないアナタが問われる時代

 

「AI」という言葉に逃げず「一段具体化した言葉」で話せないとダメ!

学生は就活の際、最初は名前のある大手企業を希望する傾向にあると思います。それについてはどうお考えですか?

高木 研究室の学生には、大手企業を勧めています。もちろん企業によるのは大前提ですが、私の研究室だと〝人工知能のスキルアップができるところ〟と考えるんです。技術者を核に置き技術を養成してビジネスを広げていける企業じゃないと、技術者として成長できません。最終的に個人で活躍するとしても、まずは優秀な人材のいる企業でしっかり勉強し、業界で名前が売れるようになってから。いきなりベンチャーに入社すると、すぐに売り上げや目の前の仕事に追われてしまうので、成長機会を失います。


これまで長期に渡り、多くの学生さんたちを見てきたと思います。どんな職場に行っても活躍できる学生の資質や考え方に共通点はあるでしょうか?

高木 私の研究室に、帯状疱疹になった学生がいましたが、「地元で頼まれたことが大変で、研究できなかったから」と言っていました。その学生は、研究している時の方が自分の工夫で可能性を広げられることにワクワクして楽しいのだそうで、かえって地域での依頼のほうが緊張してストレスだったそうです。また、共同研究においては、専門家と対等に話す必要がありますが、そこでしっかり責任を果たす心構えも備えていました。どんな職場に行っても活躍できる人材に共通している資質はこの2点で、このような学生は、何をなすべきかや、それをどうやって実現するかの道筋を、自分で見つけて進んでいく能力があります。


やはりそのためには前編でもお話しされたようにAIの勉強をする必要があると言うことですか?

高木 例えば、目の前にビジネス課題があり、利益を上げたいとしましょう。「売り上げをあげてコストを抑える→コストを抑えるためにロスを無くす→来週の売り上げ予測を正確にする」というロジックがありますが、徐々に話を具体化していきビジネス課題からAI課題に展開していきます。このときAIが何から何を、どう予測できるかを知っていなければ 解決プランを決められません。つまり、AIに何ができるかを正確にわかっている必要があるんです。ビジネスパーソンが「これってAIで何とかならない?」と言った時点で、「この人はAIをわかってないな」と分かります。一方で、「これって予測器をつかえば?」と言う人は〝話して大丈夫だな〟と思います。AI、という総称ではなく、それをもう一段かみ砕いた言葉を使える人は、わかっている人ですし、そうなっている必要があります。

AI技術とビジネス、両方わかっている人がベスト。ただ、それはなかなか難しい。専業に徹するのではなく〝はみ出し者〟になれるかどうかが非常に重要です。技術が専門だけどビジネスもわかる、あるいはビジネスが専門だけどAIもわかる人が〝両者を繋げる能力〟を持てるようになるんです。しっかり研究論文を読めるくらいの人たちがビジネス課題にあたり「じゃあこういう方法を使ってやればいけるんじゃない?」と繋げていく。こういう人材なら活躍できますが、現状では今はまだ少ないです。


現在は、ジョブディスクリプションで動いている企業がほとんどだと思います。これからは〝はみ出す〟ことが必要になってくるということですね。

高木 はい、必須です。結局ミドルマネージャー以上のトップの話にも戻りますが、上が正しい理解をして判断できれば、企業に足りていない部分がわかるはずです。世の中のツールが変わりデータも溢れてきてやり方が変わってきている。その時にどう足りないところを埋めるかといったら、トップの視点から見て指示をするしかない。トップマネージャー自身が、今の自身の範囲に留まらず、AIITに関する知見をカバーするようにはみ出していくことが必須で、それができれば、明らかに効果が上がります。

現在、時価総額トップ10の企業を見ると9社がアメリカで、9社のうち5社がITです。ITはお金を生む。日本のトップは、50位でトヨタです。なぜ日本が遅れているかというと、組織が硬直化しているからですよね。例えばAmazonの登場で書店が3分の1に減少し、デパートの売り上げも半分くらいになってきています。世の中の変化に合わせて企業も変わらなければならないのに、変われなかった結果です。この結果が示すように、硬直化した組織でITを取り込めない企業はダメになります。その意味でDXやITは絶対必須です。情報やデータがいっぱいあるという現象に合わせて、人材も合わせていかないと遅れていくんですよね。


〝はみ出す〟ことで自分の人生ゲームを楽しみながら進んでいく

高木先生自身はアメリカのベンチャー企業から社会人としてのキャリアをスタートし、松下電器産業を経て大学教授になられました。大学に来てどのようなことに取り組まれたのですか?

高木 「情報システム論」という授業を任されたんですよ。知識を詰め込むような授業では面白味が無いと思い考えたのが、各回でさまざまな企業の方を招き、ITについて話をしていただく授業です。私のほうでITの業界ごとにトップランナーの企業をピックアップし、「こういう授業をやりたいので、ぜひ話してくれませんか?」とお願いしたんです。ほとんどの企業の方が快諾してくれ、授業が実現できました。

こんな授業、どこにもないですよね。予備知識として、学生には私からビジネスディベロップメントの演習を最初にしておきます。基礎が分かった上で、各業界の方がそれぞれ独自の技術やノウハウを話してくれるので、業界全体が理解できるんです。この授業は、学生たちからの非常に評判はいいのですが、正直私が一番得しているかもしれません。コネクション作りなど全く目的ではありませんでしたが、結果的にIT業界の知り合いだらけになりました。 無理と思われることでも、「必要だからやった」結果です。


幼少期から〝はみ出す〟マインドはお持ちだったのでしょうか?

高木 アメリカでは組織よりも人。個人の能力で仕事をする。与えられた〝椅子〟、つまり肩書やポジションにこだわることは罪悪だという意識があります。実際、椅子にこだわっていると自分の成長が止まってしまい、仕事はつまらなくなります。私は今68歳。企業にいればとっくに定年ですが、それでもまだ学生たちに「はみ出せ」とはっぱをかけ続けています。


将来の夢やこれからやっていきたいことはありますか?

高木 私はオンラインゲームなどはやりませんが、この道を進んでみたらどうなるか、AをBに変えてみたらどう変化するか、まずそうなら引き返そう、など、架空の世界ではなく現実だからこそ、ゲームより本気になれるし、それだけわくわくする。上手くいけばお金にもなる。声が掛かるうちは、仕事を続けたいですね。


情報はみずから集めるのではなく、自ずと集まってくる人材になる

高木先生の情報収集の方法や意識していることを教えてください。

高木 情報を「自分で集めている」うちはまだまだ。情報が向こうからやってくるくらいの立場にならないといけないと思っています。有料のセミナーやコンサルなどもありますが、お金を払ってもらえる情報は、たかが知れています。それなりの情報提供はあっても、「とっておきの情報」は出しません。情報が向こうからやってくるために必要なのは、他から求められる人材であること。最初は努力が必要ですが、ある程度まで高められれば存在価値ができてくるはずです。良い循環が生まれてきます。


高木先生に良い循環が生まれてきたのはいつ頃からでしたか?

高木 50歳くらいからかもしれないですね。自分にもそれなりの専門能力があり、いろんな会社の人とも繋がりがあり、協業するようになった頃です。自分自身に中身がないと、得られる情報もそれ相応です。


これまでのお話で、高木先生の研究室の学生は学生時代からレベルの高い人材からレベルの高い授業を受けられていることがよくわかりました。

高木 私の研究室では、企業のプロの技術者と学生がチームを組んで、1年間研究を続けます。1年たつ頃には格段にレベルアップしている。強要されてやる勉強と違って、自分が一人前になるために自ら主体的に学ぼうとする。机に向かって勉強する授業と違い、実社会と繋がっているから、自分が今やっている勉強が、自分の将来にどうつながるのか、筋道が見えるんです。だから今勉強することにも力が入るし、勉強すべきことも見えてくる。ただ単位を取るためだけのいやいややる勉強とは、まるで違います。


教授みずから行動されている。それは一般企業では当たり前の行為かもしれないですが、大学でずっと教授だけをやってきたような人にとっては当たり前じゃないように思います。

高木 自発的に学ぶ意識を高く持っている人がいるほど、大学は楽しい場になるはず。大学で本当にやらなければならないこと、大学に通っているからできること、大学にいないとできないことに対し腰を据えてやれば、大学自体が楽しく、学生たちの人生は変わっていくと思います。私の研究室はそういう事例だらけです。

 


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