インタビューインタビュー

現実空間と仮想空間が融合するXRで切り開く新たなコミュニケーション

現実空間と仮想空間が融合するXRで切り開く新たなコミュニケーション
“テクノロジーの力で、コミュニケーションを進化させる”をミッションに掲げるSoVeC(ソベック)。3つのサービスを軸に事業を展開しています。目指すは“デジタルコミュニケーションの民主化”。現実空間と仮想空間の融合技術“XR”と呼ばれる技術を用いたサービス内容はもちろん、今後のデジタルコミュニケーションの可能性などについて、代表取締役社長の上川 衛さんと企画・戦略を担当するシニアマネージャーの吉原早紀さんにお話しいただきました。

目次

SoVeC株式会社
代表取締役社長 
上川 衛氏

ソニーにおける様々なビジネスカテゴリーの事業企画・戦略を手掛けた後、本社ビジネスディベロップメント部統括部長に就任。積極的な新規ビジネス開発で、ベンチャー企業との連携・協業やクリエイター共創を積極的に推進した。2019年4月よりSoVeC株式会社(ソニーグループ子会社)の代表取締役社長に就任。

 
企画・戦略シニアマネージャー
吉原早紀氏

ソニーで新規事業の事業開発やプロジェクト推進業務を経て2019年よりSoVeC株式会社に参画。サービスの企画・戦略、XRコンテンツ企画開発を担当する。


デジタル広告は“未来の広告”として広がっていく

まずはSoVeC株式会社の事業内容を教えてください。

上川 現在は主に3つのサービスを展開しています。

  1. SoVeC Smart Video(ソベックスマートビデオ)
  2. イベントDXプラットフォーム「そのままシリーズ」
  3. XR CHANNEL(エックスアールチャンネル)

1.は専門知識不要で手間なく簡単にハイクオリティな動画を生成できるサービスです。2.は3D技術で普段使用しているウェブブラウザで“そのまま”『バーチャル展示会』や『バーチャルプライベートショー』が開催できる空間プラットフォーム。3.は現実空間と仮想空間の融合技術“XR”をベースに、ソニーが開発したVPS技術を活⽤した国内初の3DマップARアプリです。“XR”とは“Extended Reality/Cross Reality”の略称ですね。

“VPS”とは何でしょうか?

上川 “Visual Positioning System”の略称です。現実世界のデジタルコピーである3Dマップと、スマートフォンなどに搭載されたカメラを通して見ている画像を照合し、向きや方位を含む高精度な位置情報を特定します。









XR CHANNELはスマートフォンアプリなので実際に使っていただくのはエンドユーザーの消費者の方々ですが、ビジネス的には商業施設、自治体、企業の方々などと体験いただくコンテンツの企画・制作を行います。そのコンテンツを一般の方に無料で見ていただくメディアアプリです。1〜3は、どれもビジネス的にはB2Bサービスですが、エンドユーザーの体験を創っていく意味ではB2B2Cですね。

御社がこういった取り組みをされる中で、広告市場をどのように見ているか気になります。











上川 僕らはテクノロジーを使ったソリューションプロバイダー。可能性としては広告媒体にも使えると思います。SoVeC Smart Videoは動画広告やPR広告に広く使われています。僕らのツールはサブスクリプションベースのSaaSなので、制作会社や代理店に大きな金額を支払わなくても、自社のマーケティング担当者が普段使用しているウェブブラウザだけで、プロデザイナー級の動画がつくれることが特徴です。

自社で広告制作ができるツールということですよね。

上川 そうですね。だから広告業界でビジネスをしているというより、あくまで動画制作のツールですよという売り方です。それからXR CHANNELは、先ほどお話ししたようにVPSという技術で、その場所に特定のコンテンツを出すことができる。XRと名付けているのは、ただのARではなく“そこでしか見られない体験を提供する”から。XRとは“現実世界と仮想世界を融合して、現実にはないものを体験できる技術”のことです。



XR CHANNELでは、これまで様々なパートナー企業と共創して参りました。JR東日本さんとは駅周辺での施策や観光地など、銀座三越さんとは『GINZA XR Media』と題し三越銀座店の壁面及び銀座4丁目の空間を使って、XR広告コンテンツを出現させました。

実際に『GINZA XR Media』を拝見するとすごく素敵ですよね。

上川 『GINZA XR Media』では、これまでいくつかのXR広告を展開しておりますが、この枠に「広告を出しませんか?」という営業をしています。何人の人が見てどれだけコンバージョンがあるかという広告の世界に対し、これはXR CHANNELのアプリをダウンロードして銀座三越まで行くところまでがセット。ただ実際に行ってやってみると、体験としてすごくおもしろい。この体験をメディアで取り上げていただいたり、SNSでシェア拡散されたり、コンテンツが二次拡散、三次拡散されて多くの人の目に行き渡ることで、結果として広告価値的な価値も追及できるようになりつつあります。











確かに。すごくチャレンジングかつ面白い試みですね。

上川 アナログ広告はみんなの目に見えるけど、我々のデジタル広告は通常では見られない。これはもう未来の広告ですね。いきなり大きなビジネスになるとは、僕らも思っていない。今までに無い新しい手法でメッセージができるという意味で、多くの企業からお声掛けいただくようになっています。今は街には広告だらけですが、いつかはメガネ型のXRデバイスをかけたら情報が入ってくる世の中になるかもしれない。まずはエンターテインメント施設やショッピングモールなどで違う世界がもう一つ体験ができるようなれば、広告として十分成り立つと思いますね。

将来的にはXR空間のデジタル広告が当たり前の世の中になるかもしれませんね。どれくらいの費用がかかるんでしょうか?

上川 高精度のVPSを使った施策のためには、周辺を撮影して正確な3Dマップを制作するところから始めます。初回はそれなりにかかりますが、2回目以降はそこまではかかりません。案件や予算に合わせて使う技術も考えます。

吉原 すごくリッチにやる場合もあれば、お客様の予算に合わせてカジュアルにやることも。スタンプラリー的なこともやっているんですよね。本当にいろいろな使い方ができるんです。











我々は“ロケーションベースXR”と呼んでいるんですが、様々なロケーションにおいて、集客促進、イベントプロモーション、広告やPR、情報や顧客インセンティブなどをXR技術で提供しています。道案内を含んだ周遊施策なども可能ですし、イベント会場で関連キャラクターを会場のビルの上に出現させるとか。アニメキャラクターとかファンエンゲージメントがあるようなコンテンツは需要が大きいですね。自分の知っている場所に好きなコンテンツが出現し、その写真を撮ってシェアする。ニーズがありますね。 

そうなると汎用的にみなさん興味を持ちそうですよね。

上川 普通のARではあまりクオリティまで追求できないんですが、僕らのVPSを突き詰めると、アートやブランディングに使えるものになってきています。

エンタメ系以外でも対応できる分野はありそうですね。

吉原 JR東日本さんとの施策では、歴史的な電車の車両を精巧な3DCGとして再現し、それをARとして出現させたのですが、そもそも電車って大きいので、古い列車を歴史的資産として保存しておくことは難しいんですよね。それをデジタルデータなら保存可能なので、精巧な3DCGとしてデジタルアーカイブすること自体に重要な意味があったんです。そのデータはARでもVRでも活用することができる。歴史的な意味がある古い車両の3DCG化は、将来的にもいろいろ使えるであろうとのことで、JRの車両センターで撮影させていただき、CG制作は細部まで徹底的にこだわりました。シートの布や金属パイプの質感、経年劣化の床の汚れ…鉄道ファンの方でも満足いただけるように作り込みました。光の反射率とかも全部リアルタイムに計算して再現しています。

上川 JR東日本さんとしても、デジタルアーカイブが資産としてキープできれば、研究としても使える。歴史的建造物なんかも同様ですよね。エンタメだけでなく、学術的意味やアートとしての意味合いも追及できそうです。

リアルとオンライン、ハイブリッドの時代に突入する

“そのままシリーズ”は、コロナ禍によりニーズが高まったのでしょうか

上川 そうですね。コロナ禍で僕ら自身もイベントや展示会などの出展ができなくなったんです。だから実際の場所のような空間をデジタル空間でつくって、そこでコミュニケーションを取ることは需要があるなと感じました。ただデジタル空間で商品やサービスを紹介するだけでは、手触り感がないというか。我々のサービスはデジタル上に場所があり、動き回りながら興味のあるブースに入る。そこで出展者と来場者が会話をしたり名刺交換やアポイントができる仕組みを導入しています。









このサービスの重要な点は、ブラウザでやっているということ。アプリじゃないんです。メタバースとかVRサービスって扱うデータや処理も重いので一般的にはアプリであることが多いんですよね。企業向けのイベントでは、アプリベースではハードルが高いので、ブラウザにログインするだけでコミュニケーションを取れるというのは、大きいかなと思います。











コロナ禍を経て、こうしたバーチャル展示会の現在の需要はいかがですか?

上川 コロナ禍の期間に比べると、オンラインイベント自体の需要は減っており、リアルに回帰している状況は見られます。ただ、コロナ禍でこういったオンラインのサービスが普及し、Zoomなどもそうですがその便利さを知った今、なかなか離れられないですよね。お金をかけてイベント会場で3日間イベントを開催するよりは、オンラインで1カ月開催するほうがメリットもあるかもしれない。リアルとオンラインそれぞれのいいところを使い分けるか、あるいはハイブリッドでやっていくみたいな時代ですよね。

VRやARをカジュアルに体験する世の中に

御社ではデジタルの活用についてどのような未来を期待していますか?

上川 メタバースは広がりを見せていますが、まだまだ開発途上の段階だと思います。我々はクライアントがいて、要望を叶えるためにXRの技術を使っているので、基本的にはビジネスのニーズに基づいてソリューション開発をしている。まだまだ黎明期ですが、手応えはあります。ロケーションベースのXRは、なかなか他でできない体験を提供している。XR CAHNNELの事例を見て、さらに新しい体験を創造したいという問い合わせは結構あります。地方の観光促進や地域活性化なども、非常にマッチしやすいサービスだと思っています。

キャズムを超えるきっかけはあるのでしょうか?

上川 XRやメタバース、あるいはデジタルツインの領域って、アメリカを中心に世界的にものすごいお金が投資されている分野ですよね。デバイスもそうですし、技術的にも世界の巨大テック企業がその仕組みで新しいビジネスを狙っている状況。Googleマップは、いつの間にか世界のインフラになりました。これがどんどん今後は3D化していく。あるいは時間軸でのデータ蓄積もありますよね。最近では観光地とかに行くと“去年のここはどうだった”とか見られるようにもなってきました。都市のデジタルツインデータは少しずつ整備されつつありますが、僕たちはまだ局所的なアプローチにすぎないですね。











VRやARの分野は広まってはいますが、ユーザー価値に直結したものがなかなかないのも事実。ゲームとかはわかりやすいですが、それ以外でずっと継続しているサービスって実はあんまりないんです。もう少しカジュアルに“あの場所に行ってスマホで見れば、常に新しいものがある”とか“アーティストがARで現れて新曲を披露する”とか、そんなのがあったらみんな見る気がしますよね。

吉原 技術の進化によって表現できることの幅が広がればどんどん体験としても面白くなっていく。B2B2CのCにいかに簡単に価値のある体験を届けるかで今後普及していくと思いますし、制作コストも下がっていくとどんどん新しいサービスが増えていくんだと思います。

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