「わたしのスマホがレジになる」 マルエツ・カスミ・マックスバリュ関東の3社が加 速させる小売りDX
目次
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社
ignica for Life プロジェクトリーダー/株式会社カスミ ブランド戦略室マネジャー
廣瀬千恵さん
2016年株式会社カスミに入社。2021年より、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社へ出向。顧客サービスに関する機能開発プロジェクト「ignica ForLife」プロジェクトマネージャーを務め、Scan&Goアプリの開発を推進。2023年4月からはMBA取得を目指し、ビジネススクールへ通学中。
レジ待ち不要のスマホ決済で買い物体験向上
貴社の事業内容について教えてください。
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社は、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東の3社で構成されるスーパーマーケットの企業集団です。グループ合計で533店舗を展開し、デジタルとオフラインを融合させた施策で、“お客様の買い物体験の向上”を目指して取り組んでいます。
デジタルに関する施策としては、2020年に弊社独自のデジタルブランド「ignica」を立ち上げました。ignicaは4部門に分かれており、私はスマホ決済サービスや、EC・ネットスーパーなどに関する機能を開発・運用する「ignica for Life」でプロジェクトリーダーを務めています。
基本的にはそれぞれの部門が独立して開発や運用を進めていますが、アプリ開発は主に「ignica for Work」「ignica for Life」で行い、お客様が目にしたり体験したりするUI・UXの部分は「ignica for Life」が主体的に開発を進めています。
“お客様の買い物体験の向上”というのは、具体的にどのような状態を目指しているのでしょうか?
日々の買い物における不便を解消して、すべてのお客様が買い物でワクワクできる未来を目指しています。食料品や日用品の買い物は生活する上で欠かせないものですが、日常的なことだからこそ、小さな不便がストレスになってしまいます。
レジの待ち時間が長くて予定に支障が出る、雨が降っていて大変だから最低限のお買い物をコンビニで済ませる、妊娠中やご高齢の方で重いものを持てないので欲しいものを諦めるなど、そういった買い物における課題をデジタルで解決したいと考えて、2018年からサービスの本格的な開発に着手しました。
スマホ決済サービスの「Scan&Go(スキャンアンドゴー)」は、アプリに支払い情報を登録しておくだけで、自分のスマホがレジになります。カゴに入れるタイミングでスキャンすると会計に反映され、買い物から決済までスマホひとつで完結するため、セルフレジにも並ぶ必要がありません。
レジを担当していた従業員は、お客様とのコミュニケーションに多くの時間を使えるようになり、商品の陳列・整理や店内の清掃も頻繁におこなえるため、より快適な買い物環境を提供できるようになりました。
例えば小さなお子さまを抱っこしている方のお手伝いをしたり、何を買うか迷っている方におすすめの商品をご紹介したり、買い物のサポートだけでなくコンシェルジュのようにお客様に寄り添う接客をしています。
導入後の課題をオン・オフ融合施策で解決
アプリの導入において、難しさを感じたシーンはありましたか?
アプリの利用にはSMS認証やクレジットカード情報など、個人情報の登録が必要になるため、不安に思われるお客様も多く、当初は説明に苦労することもありました。
スーパーは老若男女さまざまなお客様が利用するので、画一的にデジタル化を進めてもついてこられない方が出てきてしまいます。そこで、アプリに不慣れな方やクレジットカードを利用されないお客様のために「Scan&Goカード」を開発しました。プリペイド式ポイントカードで、事前にチャージしておくことで、セルフレジでの会計がスムーズにでき、溜まったポイントはアプリへの移行も可能です。
2023年7月からカスミでの導入を進めている段階で、最終的にはグループ全店舗での導入を目指しています。ネットスーパーなどECサイトで購入した商品をリアル店舗で受け取るサービス「BOPIS(ボピス)」や駐車場でのピックアップサービスを導入し、オンラインとオフラインを融合した体制で、すべてのお客様を置き去りにしない施策を心がけています。
顧客のニーズに寄り添った結果として、Scan&Goアプリはどれくらい普及しているのでしょうか?
カスミ全店舗平均で約7%のお客様にご利用いただいており、利用率が高い上位25店舗では10%を超えています。地域性やスーパーの特色に左右される部分はありながらも、導入前の予想よりも普及率は高いです。「Scan&Goカード」の利用者を含めれば、普及率は約60%にのぼります。
茨城県つくば市にあるカスミ系列の新業態スーパーマーケットの「BLΛNDE(ブランデ)」2店舗は、アプリ会員特典のサービスが充実していることもあり特に普及率が高く、利用率が高い月は40%を超えています。
2020年のScan&Goアプリの導入当初はポイント10倍キャンペーンなどを打ち出して普及に務めましたが、非接触で買い物を完結できるというのは感染症対策の面においても有効なので、コロナ禍が追い風になって一気に導入が進んだ面もあると感じています。
Scan&Goアプリの普及によって、顧客の行動に変化はありましたか?
利用を重ねるうちに、購入金額が増えていく傾向があります。ネットショッピングでは合計金額にびっくりして買い控えてしまうケースもあるかと思うのですが、弊社のアプリでは買い物時に使用できるクーポンや獲得できるポイントも表示されるので、購入金額を確認しながら安心してお買い物ができます。
実店舗を利用されるお客様からは「ピッとスキャンするのが楽しい」「ポイントが獲得できて嬉しい」といったご意見もあり、こだわりを持って開発した機能や事業会社の施策がちょっとしたゲームのような面白さを演出していることも購買意欲の促進に繋がっていると考えています。
DXによる変化で、社内から戸惑いの声などはなかったのでしょうか?
社内ではとくに反対意見などはなく、「業務が楽になるならいいよね」というポジティブな声が多かったです。カスミでは入社後に店舗内での接客業務を経験するので、社員も現場の大変さや課題を理解しています。だからこそ「どうしたらもっと現場が良くなるか」を考えて行動でき、結果としてお客様の買い物体験の向上にも繋がっていると感じています。
買い物体験の満足度を測る指標として、具体的な指標がありましたら教えてください。
会社としての指標は、SNSでの反響やScan&Goアプリのアンケート機能を用いたお客様からのフィードバックです。個人的にはより定量的な1バスケットの購買金額やアクティブユーザーの増加率が重要だと考えています。
アクティブユーザー数は、入店時のチェックイン情報などの、サービスへのアクセス情報をもとに算出しています。
小売DXで買い物をエンタメに
小売事業者がDXを推進するメリットは、具体的にどんなものがあるでしょうか?
機会損失の解消が挙げられると考えています。
雨が降っている日など、スーパーまで行くのが面倒であったり、ドラッグストアやコンビニでのお買い物時についで買いで済ませてしまう場合もありますよね。最近はスーパーのように生鮮食品を売っているコンビニも増えていますし、スーパーは誰でも「気軽に足を運ぶ場所」ではないと思います。
しかしスーパーが、“ちょっと手間でも足を運んでみたくなる楽しい場所”であれば、機会損失を防げます。近年はグループ3社だけでなく、弊社が開発したサービスの外販にも力を入れています。
現在はイオン系列のスーパーや、弊社が運営するスーパーに併設された一部のウエルシアなどのテナントでもScan&Goアプリが利用できます。小売業界全体にサービスを普及させ、より多くの買い物体験に貢献できるサービスに成長させていきたいと考えています。
今後、Scan&Goをどのように進化させていきたいと考えていらっしゃいますか?今後の展望をお聞かせください。
Scan&Goアプリを、ただの買い物ツールではなく生活に欠かせないアプリにしたいと考えています。デジタル化で日々の買い物における困り事を解決し、ワクワクする買い物体験を提供することで、必要に駆られて買い物に行く場所ではなく、素晴らしい体験ができる場所としてスーパーを選んでいただきたいです。
そして最終的には、買い物がエンターテインメントになる未来を目指して、今後もお客様に寄り添ったサービスを開発・展開していきます。