インタビューインタビュー

DX=動画は安易。クリエイティブ×マーケティングの力で動画市場の異端児に

DX=動画は安易。クリエイティブ×マーケティングの力で動画市場の異端児に
「Switch to The RICH.クリエイティブで、世界を豊かに」をミッションに掲げる株式会社リチカ。事業開発責任者・ビジネスプロデューサーとして、マーケティング領域のクリエイティブ運用を促進するのが妹尾浩充さんです。前職はアマゾンという異色の経歴の持ち主。大手企業を辞めてでも取り組む事業は、どれほどまでに魅力的なのか。記事作成するように、動画作成する時代へ。妹尾さんの思いをお聞きしました。

目次

株式会社リチカ
事業開発責任者
妹尾浩充氏

「映画を作りたい」「映画ビジネスに関わりたい」という思いから株式会社IMAGICA GROUPに新卒で入社。制作プロダクションなどを経て、2014年に独立しコンテンツビジネスを手掛ける。2016年、Linkedln経由でアマゾンジャパン入社のきっかけを掴むと「ドキュメンタル」「バチェラー・ジャパン」などのマーケティングマネージャーに。2019年、株式会社リチカへ参画。「リチカ クラウドスタジオ」をコアにした事業開発領域を担当する。


動画づくり”で終わらない、“動画で成果を出す”想いでお客様と併走

株式会社リチカの事業について教えてください。

妹尾 2014年10月に創業した会社です。当初は現在のモデルではなく、いわゆる動画制作で“こういう動画がつくりたい”というニーズに対して、実際に人が制作する感じでした。当時はYouTubeも急成長していてWeb上でのプロモーション動画も“やらなくてはいけないもの”になってきた頃。すごくニーズがあったので、仕事としてはバブルですよね。ただどうしても労働集約的になっていて、マンパワーありきの状況になっていました。

ニーズが高まり発注が増えるなかで、制作の市場は二極化。よりお金を掛けてよりよいものをつくりたいプレイヤーがいる一方で、より安くというプレイヤーも当然増えてきました。“予算単価がすごく下がるけど、やらなくてはいけないこと”として捉えている企業も、結構多かったんですよね。その課題に対してこんなプロダクトがあったら解決できるんじゃないかと生まれたのが、マーケティング動画生成ツール「リチカ クラウドスタジオ」の前身となるようなものでした。


「リチカ クラウドスタジオ」は、2018年にリリースされました。

妹尾 リリース直後から多くの反響を頂き、我々としても価値があるものだと確信しました。当初はTV局やWebメディアのお客様の食いつきがよかったですね。そんな中、予想していなかったニーズが、デジタル広告運用の部分です。Googleのサーチ検索やディスプレイ広告などがあるなかで、動画広告の市場も伸びてくる。「広告代理店にとって、EC運用のときにこういうサービスが欲しい」と、動画広告についてお客様からフィードバックを頂いたんです。広告代理店様向けのサービスとして活用できるんじゃないかというところから、マーケティング領域に特化してプロダクトを改善していきました。


マーケティングに特化したプロダクトにするなかで、新たに見えてきた課題はありましたか?

妹尾 お客様がやりたいのは“簡単な動画づくり”ではなく、“動画で成果を出したい”ということ。となると“何のために、どんなものをつくる必要があるのか”が大事になってきます。デジタルは結果が数字として出るので、とてもシビア。我々としては“アカウント発行するので、自分たちだけで使ってください“というより、企業の課題に一緒に向き合い“クリエイティブソリューションを提供する”ことを大きな柱として考えています。クリエイティブエージェンシー×SaaSプロダクトの力で、いつかは一連の課題をプロダクトで解決したいですね。


クリエイティブだけでも、マーケティングだけでもない。両社を持ち合わせていることが御社の強みですね。

妹尾 お客様からも「ありそうでなかった会社だね」と言って頂きます。広告を出稿する人だけではなく、広告のプラットフォームの方々からも問い合わせがあるのが、おもしろいところですよね。痒いところに手が届く存在でありたいと思っています。


広告のプラットフォームの方々からは、どのような依頼なのでしょうか?

妹尾 プラットフォーム側は、広告主に対して「クリエイティブの運用をしっかりやることで成果が出ます」とみなさん仰っているんですよね。実際に広告主たちが「動画広告やってみよう」となったときに、「一体どうやってやればいいんだ?」となるわけです。自社でクリエイティブリソースを持っているわけではないとなると、プロダクトを持っている我々の出番。そういった広告のプラットフォームの方々たちとも仕事をしています。


動画広告は“だれに何を伝えたくて、どこで配信するのか”がキモ

御社が新しい動画市場をつくったと言えるかと思います。動画市場が拡大するなかで、動画の品質はどのように向上しているのでしょうか?

妹尾 “品質を何と捉えるか”ということにはなると思います。あえて素人っぽい完成物の方が、成果が出ることもある。我々がクリエティブの改善をするときには“コンテンツ×デリバリー”を大切にしています。世界に名だたるクリエイティブディレクターが1週間考えて渾身で出したコンテンツも、外れることはあると思うんですよ。そのくらい、コンテンツは難しく移ろいやすい。だけどデリバリーは、出稿元があることですよね。“だれに何を伝えたくて、どこで配信するのか”もセットで考える必要がある。「配信面の最適化が抜け落ちてないですか?」とお客様にはよく伝えています。

御社のプロダクトを使い事業が上手くいっている組織の共通点はありますか?

妹尾 しっかりと動画を“HOW”だと捉えられているかどうか、だと思います。DXの市場の盛り上がりを見て“うちもやらなきゃ”と、動画をやることが目的になっている企業がまだまだ多いんですよね。それ自体は悪いことではないですが、どういう目的があるのか、どんなことを実現したいのかを明確にしてから進めないと、意味がない。極端な事を言えば、コンテンツとしては「動画」である必要性は必ずしもないのです。たまに単発の動画制作のご相談をいただきますが、継続的な運用がとても大事になってくると思っています。仮に動画1本2,000万円の契約が決まったとしても、3日で飽きられる時代になってきています。目的と予算が噛み合って初めて、意味があるものと捉えています。

動画を“どうやって”つくって届けるかかまで考えることが大切だと考えています。

妹尾 例えば、採用って毎年何かしら手を打たなくてはいけない部分。「ターゲットとする層がテキストを読まなくなってきているので、動画を活用したい」ということ自体はいいと思いますが、“何を伝えるための動画で、それをどう使うか”をお互い整理して進められないと、ミスマッチですよね。「何かカッコいいものをつくってください」と漠然としたご相談をいただくケースもあるのですが、ここが、“どう届けるか”まで考えた時のギャップに感じることもあります。


どのようにそのギャップをすり合わせていくのでしょうか?

妹尾 頭ごなしに否定するのは簡単です。そうではなく、リファレンスなどを見せながらお話していくなど、ケースバイケース。お客様がやりたいことをまずは大事にすることを心掛けています。動画といってもいろんな種類があります。TVコマーシャル、TikTok、YouTube、GIF画像だって動画と捉えることもできる。各プラットフォームで、「動画」というものがどう閲覧されているかを確認することも大切だと感じています。


経営者層の動画に対するリテラシーも問われますよね。

妹尾 どんどん新しいものが生まれる中でキャッチアップしていくのは、相当大変だろうなと感じています。だからこそ我々がいる。お客様にコンテンツ×デリバリーの話をしたときに、じゃあデリバリーってどれだけあるのか。しかも機能面も常にアップデートを繰り返しているわけです。それを本業のかたわら追いかけ続けるなんて、到底無理ですよね。そこは我々が日々カバーしているので、お客様に還元していく。“媒体の最適化”は、コンテンツ同様に重要な部分だと思っています。


「動画をマーケで活用したい」と思っている企業が、なるべく失敗なく最短距離で結果を出すためにすべきことは、どのようなことでしょうか?

妹尾 いきなりすごい動画をつくろうと思わないこと。多くの方は、動画=TVコマーシャル的なものと認識しているようです。タレントを使って、撮影して、といったイメージです。動画を“動く絵”と捉えるなら、すでにある素材を動画という表現に落とし込んだっていい。撮影などしなくても、もっとスモールに試したって全然いいんです。まずは小粒な施策から試すことをおすすめしますね。


とは言っても担当者は予算が付くとすぐに形を求められそうです。そういったスモール施策の場合、社内調整や上司の説得の方法はあるでしょうか?

妹尾 弊社は昨年、ピップ株式会社が提供する「スリムウォーク 24h マルチスキニー」のデジタル戦略パートナーとして、クリエイティブプランニングやメディアプランニングなどの戦略・企画から、ウェブCM・SNS広告の制作、運用、分析までトータルにサポートしました。具体的には、CM制作前にターゲットに刺さる複数のクリエイティブを、まずは静止画の広告で検証したんです。そこで見えた結果から、より反響が出たクリエイティブのデザインやキャッチコピーを使って動画作成を行いました。このような事例を紹介することが、説得材料になるかもしれませんね。


自分の経験値で物事を判断して、可能性は狭めてはいけない

動画活用で成功している組織の共通点はありますか?

妹尾 意思決定者が、しっかり現場レベルのことを把握しているかどうか。一次情報に触れていることは、すごく大きなポイントだと思います。関連する場面でいうと、部下から上がってくるデータを鵜呑みにしないこと。報告書は標準化して上がってくるので、異常値みたいな数字が上がってくることは、まずない。悪かった部分の傾向はわかっても、実際に見て触れていないと気付けないことってたくさんあるんですよね。また、一回の結果で成果を決めつけないのも大事です。当たると思っていたものが、当たらない世界ですから。


これまで取材してきた企業にDXの組織戦略をおうかがいしていると、共通しているのがミドルマネージャー以上の最新トレンドへの情報感度の低さです。現場は比較的感度が高い。そこが企業のDX化を阻んでいるようにも感じます。

妹尾 私はいま40代ですが、20代の子たちが使っているものをすべてわからなくてもいいと思っているんです。クリエイターエコノミーが進むとキャッチアップできずに、3年後はどうなってしまっているんだろうと不安になる気持ちはもちろんあります。知ろうとすることは大切ですが、迎合するのは危険。しかし、自分のやってきた経験値だけで判断していたらダメだとは思います。


妹尾さんのご経歴をうかがうと、組織の大小を気にせず会社選びをしてこられた印象です。

妹尾 いまいる場所を当たり前と捉えるのが、危険だと思っているんですよね。前職のアマゾンは簡単に潰れる会社ではないし、仕組みづくりが非常にが上手い会社なので、そこで高めることができた能力はあると思っています。ただ10年後の自分が、全く読めなかったことに、とてつもない不安を感じたんです。そんなときエージェントさんから声が掛かり、リチカで働くことに。当時は社員も10数名しかいないし、調べてもなんの記事も出てこないし、マンションの一室がオフィスだし…怖かったですけどね(笑)。これがいわゆるスタートアップ企業か!とも思いました。これまでの人生、遠回りしたようで近道を進んできた感覚があって。昔から“これがやりたい!”と思ったことをことごとくやれなかった人生ですが、だからこそ知れたことも多い。結局はそれが財産になっているなと感じます。





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