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インタビューインタビュー

思い込みの営業で売上がだだ下がり?!DX営業は顧客インサイトの因数分解がカギ

思い込みの営業で売上がだだ下がり?!DX営業は顧客インサイトの因数分解がカギ
上場企業を中心に、50業種4万人以上の営業強化を支援してきたTORiX(トリックス)の代表取締役・高橋浩一さん。前職のコンサルティング会社では、創業6年間で社員70名、年商10億円ほどに拡大させました。現在は、書籍の出版や講演会も行い、高橋さんの発信には注目が集まっています。オンラインサロンも好評のようです。なぜ日々発信するのか。それは“営業”という仕事にも生きています。お客様の心を掴む人柄や考え方の理由に迫りました。

目次

TORiX株式会社
代表取締役
高橋浩一氏

東京大学経済学部卒業。新卒で外資系戦略コンサルティングファームのジェミニ・コンサルティング(後にブーズ・アンド・カンパニーと経営統合)入社。25歳でアルー株式会社に取締役副社長として創業参画。後に独立し、2011年にTORiX株式会社を設立。8年間、自らがプレゼンしたコンペの勝率は100%を誇る。主な著書に『無敗営業 チーム戦略』『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』など。


武器を「使いこなす」か「使いこなせないか」は大きな分かれ道

TORiX株式会社の事業について教えてください。

高橋 心・技・体を磨く様々なサービスを展開していますが、“技”の部分として、お客様と一緒に伴走しながら営業の仕組みづくりをしています。DXでいうと、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)、MAツールを導入しても使いこなすことが難しい企業の支援もしています。仕事環境がデジタル化してオンラインが導入されるケースが増え、マネージャーの方々からはどのようにメンバーを指導したらいいかわからないといったようなお悩みも多く伺います。様々な便利なツールが誕生している一方、どの企業も“使いこなす”となると苦戦しているというのが現状です。


コロナ禍の前後で、営業の世界で変化は感じていますか?

高橋 コロナ禍以降、便利な武器が一気に揃いました。ただ、それを使いこなして生産性を上げている企業がいる一方、使いきれずかえって非効率になっている企業も多いと感じています。

例えば商談は、オンラインという手段が増えて対面とハイブリットで行うことができるようになりました。オンライン商談の大きなメリットは、移動時間の短縮やお客様との営業接点を増やせることです。一回の長時間の対面商談より、複数回の短時間のオンライン商談のほうが、着実に話が前に進むという調査結果も出ています。さらに、オンラインなら、お客様の許可を頂き録画しておけば、商談の進め方を社内で共有し、“営業の型”を作っていくことができる。メモだけより動画のほうが、情報蓄積量は段違いに変わります。

ただお客様側のリテラシーもあるので、必ずしも対面よりオンラインのほうがいいとも思っていません。業界や商材の相性もあります。私が問題視しているのは、対面しか手段がない状態は、できることがすごく狭まってしまうということです。

また、SFAやCRMをきちんと使えば、“今はこれをしたから、次はこうする”という営業プロセスを可視化したり、次のアクションが遅れるとアラートが鳴って素早く気づけるようにしたりする、といったことも可能になります。こうしたツールは、コストも大分下がっているので、お金をかけずに効率を高めることができるようになりましたし、うまく活用することで営業力に雲泥の差が生まれます。


SFAやCRMなどセールステック系はサブスクで揃っていますよね。そういったツールの導入に踏み込めない企業も多いのは何故でしょうか?

高橋 トップの方のリテラシーという部分は、かなり大きいです。営業でトップへの報告は必ず必要ですが、その資料作成にかなりの時間が費やされているケースも多く、以前ある企業が報告資料作成に費やしている時間を調べたら、業務時間の約20%を占めていることがわりました。資料作成をSFAに置き換えたら、その分を顧客への提案やフォローに使えるわけです。

導入したら、今までの仕事の仕方を変えなければならないので、そこにストレスを感じる方は当然いると思います。便利なツールを取り入れない手はないと思いますが、実際に運用し始める際の手間を敬遠してしまっているケースも少なからずあるのではないでしょうか。


営業成功のカギは“型のグー・チョキ・パー”

高橋さんの著書『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』は非常に興味深かったです。改めて営業で成功するにはどのように進めていくのがいいでしょうか?

高橋 営業の仕方を変えたとき、最初の3カ月で手応えが掴めるかどうか、が一つの見極めポイントだと思います。弊社がご支援する際は、最初に「みなさんの能力を一気に引き上げる魔法はありません」とお伝えしています。ただ多くの営業の方が、思い込みから手つかずになっている領域って、実は結構あるんですよ。


“思い込み”とは、具体的にどのようなことでしょうか?

高橋 例えば架電してもなかななつながらない顧客がいたとき、“電話でのコミュニケーションを嫌がっているから”というのは、思い込みです。実際には、電話を受けることで業務を中断されるのが嫌なだけであって、電話でのコミュニケーション自体が嫌だと思っているわけではないのです。

これを解消するのは簡単です。「電話で10分どうですか」とアポイントを取ってから商談すればいいのです。要件が決まっていれば、10分でも意外としっかり話せます。これを「対面商談じゃないと進まない」と思っていたら、大幅に遅れを取るわけです。

それからもう一つのよくある思い込みとしては、“最終的に顧客の判断軸になるのは価格だ”というもの。この思考が染みついてしまっているから、値引きでしか戦えないと思っている営業の方もすごく多い。顧客がちょっとでも迷うと、すぐに「お安くできますよ」とディスカウントを提案するんですね。

しかし、顧客に聞いてみると、“絶対的に金額が安いこと”と“相対的に費用対効果に納得がいくこと”でいったら、後者のほうが価値が高いと感じていらっしゃるわけです。新規取引だけで見たときも、4割以上の顧客が見積もりを見る前に決めていたというデータもあります。金額の話をする前に顧客の心が決まっているとすると、価格を提示する前に、ちゃんと心を動かしたほうがいいんです。


その思い込みにどう気づくか、ですね。

高橋 よく使いがちな「ご検討状況いかがでしょうか」と確認するのはやめましょう、とも伝えています。進捗状況を上司に問われ、「(クライアントから)『社内で検討します』と言われました」と社内報告する場面がよくあると思います。しかし、これはただ待っているだけで結果的に案件を落としているのと同じ。クライアントからすれば、お断り文句として何と返事をしたらいいか困った挙句の「社内で検討します」なわけです。こうした思い込みによるバグを解消していけば、着実に成果は上がるんですよ。


“上司の過去の経験や思い込みを部下にそのまま伝えてしまう”という構図も否めないですよね。

高橋 ただ上司の経験を否定してはいけないと思っています。彼らも自分の成功体験から教えようとしているだけで、決して間違いでありません。問題は“事実を見ていないこと”だと思います。例えばDXでいうと、受注した案件を見ていくと、コンタクトの経緯から、提案をどう進めて最終的に受注したのか、一連の流れがあります。データを見ていくと、受注した顧客の共通点が見えてきます。事実を見ることで、結果として思い込みに気づけるんです。


“事実を見る”ことは、本来は当たり前のようにも思いますが、できていない理由があるとすればどんなことでしょうか?

高橋 トップにいる方が“なんでこんな簡単ことをみんなできないのか”と思っているから、ですね。過去に卓越した成果を上げてきたからトップの位置にいるのであって、彼らにとってはそこまで難しいことを要求している意識もないと思います。ただトップがそれを言えば言うほど、組織のDXは遅れていく。その人のやり方が、半永久的に再現性があるわけではないからです。現実を見て“そんなに簡単じゃない”ということを知り、今直面している難しさを解消していけば、自然と前に進むと思います。


トップの方が部下の方の見えている景色に目線を合わせていくことも大事ですね。上手くいく組織の共通点などはありますか?

高橋 自分の考えの正しさを浸透させることに焦点を当てるのではなく、お客様にちゃんと焦点が当たっているかどうかです。 “自分にできたんだから、みんなもできるだろう”は、トップの方の正しさですよね。それが先行すると上手くいかない。同時に、現場の方は「私の営業法が悪かったから失注しました」とは報告しません。「(私は間違ったことはしていないけど)お客様の事情でダメになりました」というのがほとんどです。上司に責められたくないですから。社内的な事情が優先されると、本当の課題は見えてきません。営業が上手くいく=お客様に喜んでもらうことと捉えて、ここに焦点を置くことです。


高橋さんが支援する場合は、どのようなことから始めるでしょうか。

高橋 まず営業の型として、3つの要素をつくりましょうというお話をしますね。これを“型のグー・チョキ・パー”と呼んでいます。「グー(Gutai)」はお客様と信頼関係を築く商談の具体的なサンプル、「チョキ(Check point)」は上手く人の共通点をまとめたチェックポイント、「パー(Performance)」はロールプレイを通してのパフォーマンスの確認。この3つを揃えることが、出発地点です。


まずは“型”に沿って進めていくのがいいんですね。

高橋 ハイパフォーマーは具体的サンプル(グー)の動画に登場するのはいいと思いますが、滑らかな喋り方を真似する方向に行かないようにしましょう。喋り方は多少ぎこちなくてもよいので、お客様が最近取り組んでいることや課題を聞き、キーワードをつけて優先順位をつけて、いくつかのチェックポイント(チョキ)を提示する。その上でパフォーマンス(パー)の確認を行います。スーパープレーの連続を見せられても、真似しづらいですからね。


「人と話すのは好きだけど、売り上げをガツガツ追うのは得意じゃない」という営業の方もいるかと思います。数字への興味が薄い人へは、どのような環境をつくったらいいでしょうか。

高橋 人間は根本的に、目の前の現実が良くなることに興味がないはずがないんです。だからこうして文明が進化しているわけですよね。数字に興味が薄いのは、言い換えれば“達成率や進捗率に追われるのが嫌だ”とか、“数字に対するプレッシャーをかけられるのが苦痛”ということだと思うんです。受注が足りないときに数字を上げようとしても、手遅れなことが多い。例えば、週ごと、月ごとで安定的に案件が生まれて、それぞれがある程度同じペースで進行していく、という流れをつくっておけると、上司やマネージャーから突かれることもないはずです。

もちろん、数字だけではない営業の喜びをつくることは、すごく大事だと思います。「この調子で頑張って」と言われれば、悪い気はしないですよね。ただそのためには営業の方も受注の前段階の案件を生み、案件を進めている必要はあります。


情報収集しないといけない環境を自らつくり“お役立ちレベル”を向上

「ChatGPT」などAIを使ったテクノロジーの進化で、調べなくても答えが出るような時代になったとき、営業の未来はどのようになるとお考えですか?

高橋 AIや機械がいくら進化しても、“これに困っている”“これが欲しい”というような人の頭の中のことを、全て言葉にしてくれることは難しいと思います。自社の商品やサービスを通じて顧客の成功や幸せをつくる営業の仕事は、絶対になくならないと思っています。ただ、人々は自分で情報を探すようになり、困っていることの解決手段はどんどん充実してくることを思うと、営業のハードルは上がっていきますよね。人でなければ担えない部分に求められる難易度が上がるのは、確実だと思います。


人に聞かなければ解決できないことが、今よりもかなり少なくなりそうです。

高橋 人が自分で解決できる範囲が広がる一方で、情報が充実するほど選択肢がありすぎて迷ってしまうことはあると思います。例えば、就職活動や受験勉強がまさにそう。昔はある程度決まったプロセスがあったけど、今は手段がいろいろある。AIが100%自分に合う答えをくれることは、難しいでしょう。誰かしらアドバイスができる人、お役立ちできる人、という立ち位置の人は、一層必要とされると思います。


最後に、高橋さんの情報収集の方法や意識していることを教えてください。

高橋 “情報収集をしなければならない環境をつくる”ことが大事だと思っています。“今のままでいい”と思ったら、情報収集なんてしないはず。お客様に対してお役立ちレベルを高めようとしたとき、情報を取得していかないと質が落ちていきます。営業として、ただ「買ってください」というスタイルになると、単純にニーズにピッタリのお客様を探してきて営業するだけの世界になる。だから、情報収集しようと思うより先に、情報収集をしないといけない環境をつくることだと思います。

特に弊社のようなコンサルティング業態は、無形商材。何をやってくれる会社なのか、お客様からするとわからない状態ですよね。依頼をいただくためには、圧倒的にこの会社にお願いしたい!という状態をつくらないとビジネスにならない。情報収集しないと生き残れません。定期的にチェックするメディアなどはないですが、定期的に自分から情報発信するようにしています。毎日SNSや講演会などで発信しているので、中身が変わらなければ“同じこと言っているな”と思われる。人に振り向いてもらうためには、常に新しいこと、アップデートした情報を発信することが重要だと思っています。





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