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インタビューインタビュー

“紙の名刺”が当たり前の世の中から、ひとり1枚“デジタル名刺”を持つ世界を目指す

“紙の名刺”が当たり前の世の中から、ひとり1枚“デジタル名刺”を持つ世界を目指す
友人へのプレゼントとしてつくった1枚のデジタル名刺が、のちに『プレーリーカード』として世に誕生。その生みの親の一人が、坂木茜音さんです。起業したいと思ったわけではなく、やりたいことの先に起業があっただけ。“紙の名刺”が悪いのではなく、もう一つ便利な手段として“デジタル名刺”が生まれただけ。プレーリーカードの誕生秘話や見据えているこれからの世界を語っていただきました。

目次

スタジオプレーリー
共同代表
坂木茜音氏

京都美術工芸大学・京都建築大学校のWスクールで伝統工芸・建築を学ぶ。株式会社ロフトワークでクリエイティブディレクターを務め、独立。2023年2月よりスタジオプレーリーにて共同代表を務める。写真、ラジオ、バンド、DJ、コスメ制作など、幅広く活動。アーティスト、クリエイターが集まる古民家のシェアハウス『アサヒ荘』の管理人という顔も持つ。


友人のために作ったツールが“世の中の出会い方を変える”と確信

2022年9月にベータ版、2023年2月にプレーリーカードがリリースされました。SNSでもかなり広まっていましたよね。

坂木 ありがとうございます。友人へのプレゼントとして作ったのをきっかけに、販売に至りました。使い方はめちゃくちゃ簡単で、このプレーリーカードをスマートフォンにかざしてもらえば、自分の自己紹介ページを表示できるというもの。紙の名刺だと情報量の限界が決まっているし、肩書きを伝えるだけになってしまう。人と人とが出会うときって、肩書きだけでは語れないバックグラウンドがたくさんあると思うんですよね。職歴・趣味・特技などを伝え合うことで、出会いがもっと素敵なものになるんじゃないかな?と思い活動しています。


名刺=紙の概念があるなかで、サービスの発想に至った経緯をお聞かせください。

坂木 私と共同代表の片山が住む『アサヒ荘』の住人の一人が、海外で路上アーティストをしていて。日本に帰国し再びヨーロッパで挑戦する際に、何かプレゼントを渡したいと思ったんです。せっかくなら、活動を応援するものがいいなと。そんなとき、NFCの技術とたまたま出会い、 InstagramなどSNS情報に飛べるオリジナルのカードをつくったんです。

※Near Field Communication:通信距離10cm程度の近距離無線通信技術。非接触ICカードの通信などに活用されている。

せっかくだからと当時の住人6人にも作ってプレゼントしました。そこから『アサヒ荘』に遊びに来るクリエイターさんたちに「何それ? 便利だね!」と言ってもらうことが多くて。ちょっとずつ広まっていきました。決して紙の名刺に課題感があったわけではありません。友人のために作ったツールが、結果的に“世の中の出会い方を変える、すごいものなんじゃないか”と気づいたんです。初対面の相手に「ポートフォリオを見せたい」「Instagramを見せたい」けど、どうしても紙の名刺だと表現の幅が減ってしまう。身の回りのクリエイターたちの反応で、改めて実感しました。

さらに、偶然にも周りにいる人たちがアーリーアダプタだったというのもすごくよくて。自然にフィードバックをいただくことができ、改善につながっています。


利用者のイメージはありますか?

坂木 ゆくゆくは一人1枚持ち歩く世界観を目指しています。そのためにどこから広げていくかというと、まずは個人事業主やスタートアップの方。そういう方々はイベントに参加したり、SNSでコミュニケーションを取ったり、新しい体験を楽しんでくれる方が多い印象です。

ただ、「紙の名刺を渡す」というのは、ビジネスシーンにおける通過儀礼みたいなもの。すぐにはなくならないとも思っているんです。まずはアーリーアダプタの方々に使ってもらいながら、文化として醸成していくことを考えています。


Twitterに力を入れている人もいれば、Facebookが主戦場の人もいる。仕事がメインなSNSもあればプライベートなだけのSNSもありますよね。

坂木 それぞれのSNSでそれぞれの顔を持ち活動していますよね。そもそも自分がどのSNSを使っているのかを相手に伝えるところから始めるコミュニケーションに変わってきているなと思います。その上でプレーリーカードがあると、連絡が取れる手段はこれですよ、というのを先に相手に見せることができる。その中で、相手も使っているものを選んでもらったり、勧めたりができるんです。

私は頂いた紙の名刺を束になるまで溜め込んで、名刺管理アプリにまとめて登録していたんですが、“この人連絡したっけ?”とわからなくなったりすることが多かったんですね。プレーリーカードなら双方が持っていれば交換履歴が残るようになっているので、自分が頑張らずともデータを残してくれるんです。ビジネスチャンスも逃さない。相手のプロフィールを見れば、“あ、この人だ!”と思い出せるので、いちユーザーとしても重宝しています。


特殊な技術ではなく、昔からあった技術を使い、新しい市場を開拓する。とても素敵なチャレンジだと思います。

坂木 例えば、個人でコーヒーショップを経営している方はプレーリーカードを個人的にもショップカードの役割としても使ってくださっている。美容師さんやスナックのママで「公式LINEとつなげるために使っています」という方もいます。今って、個人と企業や店舗が半分溶け合うような時代になってきているんですよね。企業の営業の方は自分も覚えてもらわないといけないし、個人店の方も“私に会いに来てくれる”みたいな世界観が大事にされてきているのかなと思います。そこがプレーリーカードとマッチしているのは、リリースしてからユーザーさんに気付かせてもらった点ですね。



感動体験を純粋に伝えるユーザーが、さらにユーザーを呼び込む

話が盛り上がって、プレーリーカードを差し出す世界観はいいですよね。相手が持っていない場合には「何それ?」と知るきっかけになる。

坂木 「アイスブレイクになっています」という話は、すごく聞きますね。紙は好きですが、紙の名刺はデジタルデータで閲覧することが多い昨今、SDGsの観点からももっとイノベーションが起きても良いなと感じています。


現在、プレーリーカードのユーザー層はどれくらいなのでしょうか?

坂木 20〜30代がボリュームゾーンというのは体感としてあるんですが、学生さんも使い始めていて。まだ紙の名刺を持ったことがない学生さんに使ってもらうのは、一緒に文化を作っていく上で大事だなと思っています。40代、50代の方も使ってくれています。


いわゆるおじさん世代も使われているんですね。想定していなかったユーザーの使い方はありますか?

坂木 上の世代の方ほど、雑談を大事にされていると感じています。「俺は船が好きなんだよ」と、プレーリーカードに船の写真を載せている人や、山登りの写真を載せている人もいらっしゃいました。そんな方たちにも楽しんでもらえていますね。SNSだけじゃなく、紙の名刺の画像を取り込んでいる方もいます。

他には、例えばYouTuberの方がダイレクトに見てほしいYouTubeのURLをペタペタと貼って誘導したり、弁護士さんなど士業の方が過去の実績を載せることで信頼を得たり、医療関係の方が研究資料や論文を載せていたり。そういう使い方をしているとの声も伝わってきています。


企業名だけでは“いい会社にお勤めですね”としからならないところで会話が生まれる。まさにアイスブレイクですよね。

坂木 表面は社員証と全く同じデザインで、裏面を人それぞれ好きな画像にしたプレーリーカードを使用してくださっている企業様もいらっしゃいます。お子さんと手をつないでいる写真の方もいれば、カッコいい自転車の写真の方もいる。そこからコミュニケーションを広げていきたい、というところに共感してくださっている企業様に導入してもらっています。


ユーザーの声をSNSなどでチェックすることは多いでしょうか?

坂木 事細かに見るようにしています。“こういう機能が欲しい”という声があると、すぐにチームのみんなにシェアして話し合い、必要なものはアップデート。ユーザーさんにお礼と共にお伝えしています。これができるのは、スタートアップの強み。ユーザーさんにサービスを広げてもらっていると、強く感じていますね。


友達割り”というキャンペーンはいかがでしたか。

坂木 世間一般の友達割りは、大抵インセンティブが発生しますよね。紹介した人もされた人も1,000円もらえるとか。友達を紹介するときに“どうせ得したいんでしょ”と嫌がるユーザーさんは多いんじゃないかと予想しました。いいものを広めたいだけなのに、お金のためにと転換されちゃうのは嫌だなと。なので、紹介された友達は1,000円引きで、紹介者へのインセンティブは敢えて何も設けませんでした。それがいいか悪いかは一概には言えませんが、純粋に広めてくださっている方が多い印象です。


恩送り”という言葉があるように、自分が受けた恩を他者(ユーザー)に広めていく。UXをシェアしたいという感覚ですよね。

坂木 自分自身の体験を相手にも伝えたいとかみんなに広めたいと思ってくれるんですよね。「5人購入してくれたよ!」と報告してくれる友達なんかもいて、ありがたいです。法人のお客様からも結構なお問い合わせを頂いているので、法人プランもお問い合わせをいただいた方のみ提供を開始しています。企業向けのプレーリーカードには、“社員のカードやアカウントを管理できる機能コミュニケーションを可視化できる”機能を付加しています。


コミュニケーションを可視化”とは、具体的にはどのようなことでしょうか?

坂木 今まで紙の名刺でカウントしていたコミュニケーションをデジタル上で数値化することを考えています。これまで何枚配った・もらったかでどのくらい営業したとか、こんな人に会いましたっていうのを測っていたと思うんです。でもそこだけじゃないコミュニケーションが、これからの時代たくさん発生してくるはず。例えば、イベント交流会。名刺は渡してないけど営業としては活動しているとか、ラフなコミュニケーションから密なコミュニケーションまでをちゃんと数値化して、それを企業として評価することができたらいいなと思っています。

例えばオフラインのイベントって登壇者の話を聞くために行くという側面はもちろんありますが、その後の交流会でいろんな人とつながるために参加する、という動機もあると思うんです。そこで全員がプレーリーカードを持っていたら、コミュニケーションの数が増えますよね。これまでイベントをやる上で来場者数がKPIになっていたけど、100人が100人と交流することで、1万回の素晴らしい出会いが生まれる。新しいKPIを作っていくのも取り組みたい部分です。



toCで“やっぱりこれがいいね”という文化をつくる

今後はどのようなアクションを考えていますか?

坂木 マネタイズとしてはもちろん月額制度を取り入れたり法人様にも使っていただいておりますが一番大事にしたいのはtoCの部分。見る人によっては儲からないと思うかもしれないけれど、まずはプレーリーカードをスタンダードにしていきたい。“やっぱりこれがいいね”という文化を作れるのは、toCだと思っています。

最近だと、Slackがいい例かなと思うんです。ずっと無料で使えていましたが、もっと便利に使えるようにと課金する仕組みをつくった。「組織のコミュニケションツールは、Slackにしよう」と選択するようになり、文化として定着しつつあります。プレーリーカードもすぐに稼げなくても、長期的に考えて“これがいい”という世界観をまずは作っていきたいです。


ブランディングも大切ですよね。

坂木 現在3人で動いていますが、私がブランディング部分を担っていて、どういう世界観にするか、どんな言葉を使うか、どんな色を使うか、そういった先の未来を妄想して語り続けることが、自分の役割だと思っています。


そう考えると古民家シェアハウスの『アサヒ荘』での様子も見てみたいですね。DXというとインテリジェントビルやベンチャーを想像しがちなので。

坂木 はい、アサヒ荘にはいろんなクリエイターが集まっています。毎月イベントも行っているのでいろんな方と話すのは刺激になります。私もクリエイターとしてアート活動を行っています。私はアート作品をつくるときは“どんなメッセージを発信したいか”を自分の中で内省して、それに対するおもしろい見せ方や美しい見せ方を考えて作品づくりする。そのプロセスがプレーリーカードを作るときと近い思考を使うんですよね。プレーリーカードという土台はありながら、こういう使われ方をしたら嬉しいな、と手段の部分を妄想する。それを具体的に落としてくれるのがエンジニアリングやビジネス的な数値計算。その部分を他の2人が担ってくれることで、バランスが取れていますね。


社会課題を通じて起業するトレンドもありましたが、現在はさらに多様化しているように思います。

坂木 確かに多様化しているように感じます。社会課題を解決する事業もとっても大切です。ただ、マイナスをゼロにするという観点が強すぎると創業者やユーザーが責任感を背負って走り続けないといけない。このサービスを使いたいというWantの先に社会課題を解決する何かがある。というアクションしやすい選択肢があってもいいと思います。

私自身、すごく強いペインがある人生だったわけではなく、絶対にこれを解決したいから起業してやる!って性格でもない。やりたいことが見つかったとき、それがビジネス化して上手くいくならのせていきたい。その表現がアート作品かもしれないし、シェアハウスかもしれない。自分の中で、余白を持って生きていきたいと思っているんです。選択肢をあえて自分で狭めないようにしていることが、プレーリーカードが生まれたひとつの起点だったかもしれません。


プレーリーカードにも坂木さんにも可能性しかないですね。これからも楽しみです。最後に御社のサービスを通じて見据える最終的なゴールとは?

坂木 プレーリーカードを使うと、人生が豊かになる・出会い方が楽しくなる・人につい自慢したくなっちゃう。そういう感情で使ってくれる方が増えると、もっともっと広がっていくと思います。ひとりひとりが自分自身の肩書きだけで生きていくよりも、お互いのことを知った状態で、仕事が始まったり仲良くなったりする。そのツールとしてひとり1枚プレーリーカードを持つ世界を実現していきたいです。






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