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インタビューインタビュー

生成AIがもたらすパラダイムシフトでビジネスはどう変わる? 驚異的な進化で業務改革に待ったなし

生成AIがもたらすパラダイムシフトでビジネスはどう変わる? 驚異的な進化で業務改革に待ったなし
コロナ禍においてオンライン会議などデジタル化が加速した。さらにAI(人工知能)の発達と生成系AIの登場でビジネスの常識が変わろうとしている。ChatGPTのAPI連携で新規事業やサービス開発を行うデザインワン・ジャパン代表取締役社長の高畠靖雄氏と、AI技術とビッグデータを活用し、企業との共同研究プロジェクトを複数進行している明治大学理工学部情報科学科教授の高木友博氏にAIの現在と未来、AIを扱う人材論をお聞きしました。

目次

AIを活用したビジネスの現在と未来とは?

本日は企業の活用が広がりつつあるAIのビジネス展開についてご意見をお聞きしたいです。

高畠:AIというキーワードが新聞やテレビに取り上げられ、世間を騒がせました。加熱した報道が落ち着いてきた裏で、更なる技術の進化を遂げたAIには驚異的な能力を感じており、ビジネスチャンスを秘めた存在だと思います。

高木:AIによるビジネスチャンスはいたるところに存在しています。今ある仕事がAIに置き換わると実感している人は本当に少ない。現在の利用者はITに詳しい人にとどまりがちですが、使いやすく参入障壁も低いのでAIによる業務革新は待ったなしです。

AIでは今、産業革命並みのパラダイムシフトが起こっていて、あと数年でこれまでの発展スピード感を遥かに超えて、業務のかなりの部分がAIに影響をうけて変わるでしょう。 学習用のデータを必要とする単純な機械学習から、既に学習済みで高度な能力を持つ生成系AIの誕生で、これまでよりも圧倒的に広い分野で高性能なAIを利用する時代になります。簡単に言えば、今まではあらかじめ決められた作業しかできなかったコンピューターが、知的で臨機応変な対応が必要とされる作業まで受け持てるようになった、と言うことです。


OpenAI社が開発したChatGPTに代表される「生成系AI」が一般社会に普及してパラダイムシフトが起きつつあるように感じます。企業がAIを活用するにあたって、現状の生成系AIでできることを教えて下さい。

 高木:AIにできることは大きく分けて2通りあります。1つは「機械学習」。もう1つは最近流行っている「生成系AI」です。

機械学習は膨大なデータから、 変数間の関係を学習し、その学習した関係によって予測や分類をする手法です。データさえあれば、売上予測や在庫最適化なども可能です。

もう一つ。これまでは「AIは クリエイティブなものは苦手」とされていたのですが、生成系AIのアーキテクチャが開発されてここ数年で実用化されました。GoogleやMicrosoftのような世界トップクラスの企業が資金をつぎ込んで「生成系AI」を開発しており、ものすごい速度で今までできなかったことができるようになっています。 あらかじめ世界中のデータを学習しており、知識量は人間より生成系AIの方が多い。ポイントは、知識も文章生成スキルも学習し終わっていることです。少なくとも知識に関しては、一人の人間をはるかに超えていますね。

高畠:社内にはベテランから新人までたくさんの人が働いていますが、新入社員レベルの仕事はAIに任せられると、以前高木先生から聞きました。

高木:複数の要因から、試行錯誤や論理的推論をする仕事はまだChatGPTではできませんが、資料や議事録の作成などの単純作業は全てAIに置き換わる時代に来ています。宣伝や提案資料のキャッチコピーをChatGPTに作らせるような個人プレーはもう行われているはずです。一見、人間の仕事が奪われるのはツラい現実のようですが、その時間で新しいことをやればいい。柔軟な考え方と行動力がある企業はこれから大きく成長するでしょうし、できない会社は取り残される。今はちょうどその分岐点にいますね。


一方で、AIができないことや気を付けるべきことはありますか。

高木:今の生成系AIは試行錯誤することができません。その点は人間がAIよりも優れている部分と言えるでしょう。例えば、人間が旅行のプランを考える時に電車の時間や宿泊場所を調べて、時間に間に合わなかったり場所が遠い場合は修正をして最良の回答を見つけます。現在のChatGPTは、入力された条件に対するレスポンスを生成して終わり。悪い計画を考え直すことはできず、人間が再度命令し直さなければなりません。

AIが専門的な知識を学習していないことも注意すべき点です。医学的な分野や専門性の高い情報は勉強していないので、正しい回答ができません。東京のことは知っていても、地方の町の情報は知らないことばかり。また、日本語は英語や中国語と比べるとマイナーな言語なので、日本語にない情報は弱いですね。

高畠:もっともらしい嘘をついたり、間違った情報をさも正しそうに回答してしまう、「ハルシネーション」は課題ですね。企業は流行り文句に流されず、導入の着想や判断を正しく持つべきです。





生成系AIがエンジニアの仕事をさらに効率化する

危険性も孕んでいる中、ChatGPTを活用している企業が増え始めています。マッチしやすい業種や業務領域などはどのようなものでしょうか。

高木:サイバーエージェントが独自の日本語LLM(大規模言語モデル)を開発し、商用利用可能なパラメータを無償公開したことが話題になりました。 世界的にも、GoogleやMetaのような 電子データでビジネスをしている企業がAI開発の先端を走っています。このような企業ではデータも専門的技術者も豊富で、これが先端的AIを活用できる企業の特徴だと思います。

すでにこのような条件が揃っている領域がマッチしやすいと思いますし、そうでなくてもそのような条件を揃えていこうとする企業がAIを活用できる企業だと思います。

高畠:私もそういうフェーズに来ていると思います。ソフトウェア開発会社では、プログラミングの要件定義を人間が考えて、AIにソースコードを書いてもらっている企業も増えています。完全にAI任せといかないまでも、AIが書いたソースコードをエンジニアが見て変なところや不具合がある部分を修正するだけでも圧倒的に効率がいい。「ゼロから作るのは非効率」と思える企業こそ、これから伸びるでしょうね。

弊社でもグループ内の会社でどの領域ならAIを活用できるか議論しましたが、マーケティングのコピーライティングやオウンドメディアの記事作成、メールや問い合わせ対応などの業務サポートはAIと相性が良く全社共通で導入できると思っています。ChatGPTで生成したメールマガジンをセグメント分けしたユーザーに送信して、A/Bテストを重ねて反応率を上げる施策も面白いですね。

 私は高校時代からパソコンでプログラムを組んで遊んできた技術者畑の人間です。現職になってからは自分でコードを書く時間がほとんどなかったのですが、興味本位でついついソースコードをChatGPTに聞きながらプログラミングをして遊んでしまいました(笑)。私の実体験から、エンジニアがChatGPTを活用すると生産性が相当上がると感じました。

高木:多くのIT企業とお付き合いがありますが、新しい価値観や専門知識に乗ってこれない技術屋さんも多いです。プログラミングをChatGPTにやってもらう発想が浮かばないのは恐ろしいこと。高畠社長の常にアンテナを張って新しい技術を使ってみる姿勢は尊敬します。安住しないでもっと素直に、謙虚になって勉強しないと時代の変化に乗り遅れてしまいますね。

高畠:いずれ生産性にも差が出ますね。AIを使わないで生き残ることは不可能に近い。業務のほとんどがAIに置き換わるからこそ、クリエイティブなことに時間を使って新しいビジネスがたくさん生まれるでしょうね。

高木:研究室の共同研究で、ある会社で「AIによる業務の改善案」をあげたら、700個もアイデアが出たのですが、なんと意味のないアイデアは1つもなかった。それだけ業務改善のチャンスがあるんです。

高畠:数字を追いかける営業マン、プログラムを書くエンジニア、サポートスタッフは組織の中では分断されがちで、どうやって橋渡しをすべきかが課題でした。ChatGPTは全ての役割を担う力がある。高木先生と協力して実用的な仕組みを実現させたいですね。



ChatGPTが特にビジネスで活用しやすい理由はどういうところにあるとお考えですか。

高木:まず、GPTという生成系AIに「chat」と言う対話能力を持たせたことです。これによって、技術者以外の一般ビジネスマンも気軽に使えるようになり、活用土壌が莫大に広がったといえます。

またこれから、言語と画像の2つに対応することだと思います。仕事のほとんどは言葉、図や絵で表現するため活用しやすい。つまり、写真や言語の入力に対して答えを出す「マルチモーダル性」は、 ビジネスになじみやすいと思います。一方で、画像の生成は言語ほどリアルではありません。新宿の風景を生成しても雰囲気は捉えていますが、よく見ると「本当に新宿?」と感じる画像になりがち。まだまだビジネスになじまない状況です。人間が思い描く理想とは若干違う画像を生成してしまうのでもう少し時間が必要ですね。

高畠:YouTubeのショート動画を見ていたらAIが生成した、人間離れしたかっこいい男性や美しい女性が出てきて驚きました。販売が中止されましたが、生成系AIが生んだアイドルの写真集が大人気だったそうですね。

高木:人間の画像を生成する技術はかなり進歩しています。週刊誌の表紙やテレビCMに活用される日が来るのも近いかもしれませんね。

生成系AIに関する情報が玉石混交の中、一次情報を取得していく重要性が益々高まっているように感じます。情報収集する際に気をつけるべきことはどのようなことでしょうか。

高畠:AIがフェイクニュースを学習したり生成するリスクは排除すべきだと思いますが、イタチごっこになりかねません。人間側が真実かどうか見極める目を磨いていく必要があるのではないでしょうか。AIの専門家の方々は今の状況を静観しているように感じます。高木先生はどのように捉えていらっしゃいますか。

高木:人間も長所・短所があるわけだから、AIも同様に潜在的なリスクはあります。AIに論理的な判断や思考能力を期待するのには時間がかかるとした上で、全て信用したり、全て否定したりせず、我々人間がAI活用の場面を正しく判断していくことが大事ですね。


エンジニアのプログラミングスキルはAIに置き換わる

最後に、AIを使いこなす人材に必要な素養はどのようなものでしょうか。

高木:マネージャーレベルの人はどの業務にAIが導入できるか適切に判断したり、方向性を指し示す能力が求められます。勉強のためには、ビジネス書ではなく「プログラミングをして、こういう結果が出た」と、書き手の経験をもとにした技術記事はおすすめです。簡単な記事を最初と終わりだけ読むだけでも十分です。

エンジニアレベルでは、ITやプログラミングのスキルがますます不要になります。AIやChatGPTを使いこなすためには、AIが「できること」と「できないこと」を知り、正しく動かすセンスと指示能力が重要です。アメリカでは、AIに対して適切な質問や指示を与えるプロンプトエンジニアという職業が年収4,000万円を超えています。プロンプトの構成に影響を与える「命令・文脈・入力・出力」を身につけておけば、意図した通りの回答や文章生成を実現でき、AI時代に必要な人材になれるでしょう。

高畠:私は学生時代から工学の研究をしてきたのでAIを使いこなす能力だけでなく、コンピュータがどうやって動いているか、半導体、電気回路、ソフトウェアの原理も知っておきたい古いタイプの人間です。なので、プロンプトエンジニアという職業がでてきた時は衝撃的でしたね。AIの技術は日進月歩。好奇心を忘れずに積極的に行動した人がこれから活躍できる人材になるはずです。

<プロフィール>

株式会社デザインワン・ジャパン
代表取締役社長
高畠 靖雄氏

 1975年、兵庫県高砂市生まれ。岡山大学大学院工学研究科修了後、富士通へ入社しスーパーコンピュータの研究開発、CRMソリューションソフト事業に携わる。2005年9月、すべての消費者の暮らしをより発見的で豊かなものにするために「世界を、活性化する。」というミッションを掲げ「デザインワン・ジャパン」を設立。2007年に地域の活性化をコンセプトにした口コミ型地域情報ポータルサイト「エキテン」をリリースし、2023年に16周年を迎えフルリニューアル。


株式会社デザインワン・ジャパン
取締役
明治大学
理工学部 情報科学科 教授
高木 友博氏

1954年、石川県金沢市生まれ。1979年東京工業大学大学院総合理工学研究科システム科学専攻修士課程修了。1983年同博士後期課程修了し、カリフォルニア大学バークレー校コンピュータサイエンス学科客員研究員に。1984年インターフィールズシステムズ、1988年松下電器産業に入社。1998年から明治大学理工学部情報科学科助教授、2000年同教授。計算型人工知能における世界的権威として、多数の大手企業との共同研究実績を有する。趣味はバイク。



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