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インタビューインタビュー

“整備士を社会の主役に” 「Seibii」が働き方・生き方のオプションをDXで提案

“整備士を社会の主役に” 「Seibii」が働き方・生き方のオプションをDXで提案
車の「出張」整備‧修理のオンデマンドECサービスを展開する「Seibii」(セイビー)。「DXが遅れている」と叫ばれる整備業界において、“テクノロジー”と“リアルな現場作業”の両方を担う画期的な取り組みを行なっています。業界として整備士不足は大きな問題。そんな課題やこれからの展望を代表取締役の千村真希さんとグロース・オペレーション部・品質管理部部長の木岡現一郎さんにお聞きしました。

目次

株式会社Seibii
代表取締役社長
千村真希氏

1987年チュニジア生まれ。日本人の母とチュニジア人の父を持ち、7歳から日本に移住する。2011年から三井物産に8年間勤務し、資源ビジネス(貿易投資)を担当。南アフリカにも駐在する。その後、「日本の自動車整備業界を変革する」と決意し、2019年に株式会社Seibiiを創業。中古自動車部品の貿易商を東アフリカで営む父を持ち、車や整備業界を身近に感じ起業した経緯も持つ。


株式会社Seibii
グロース・オペレーション部 
木岡現一郎氏

京都大学大学院修了後、日産自動車へ入社。R&D組織でシャシー開発を担い、Renaultとのアライアンス業務やサスペンションシステムの先行開発~量産設計までを経験。外資系戦略コンサルティングファームに転職し、自動車メーカーを中心に事業戦略/技術戦略立案支援に従事。海外オフィス駐在も経験後、製造業PFスタートアップを経て現職。


「最もDXが遅れている」整備業界に「出張」サービスで躍進

千村さんのご経歴をお聞かせいただけますか?

千村 親族が中古自動車部品を日本から流通しウガンダやケニアで売っていたこともあり、車業界を身近に感じていました。

2011年から勤めた三井物産では、鉱物資源の部署に在籍。三井物産は昔から地上資源に強かったんですね。いわゆる鉄などのリサイクルを行なっているんです。基本的に車は鉄でできているので、廃車になったときに鉄に戻す。これをスクラップと言います。要は立派な資源なんですよね。鉄の業界にいて、最終的な顧客は自動車メーカーということもわかりました。


ご家族のお仕事と三井物産での仕事内容がつながるんですね。そこから起業に至る経緯をお聞かせください。

千村 Seibiiの共同創業者でもある佐川悠と三井物産で出会い、企業に在籍しながら週末起業的に車とは関係なく色々なサービスを作っていました。そして30歳を迎えるにあたり“本当に人生を賭けられる領域は何か”を改めて考えてみました。するとケニアやウガンダなど南アフリカでの日本の自動車部品のセカンダリー・マーケットが、かなり需要があるということがわかって。この領域で事業を立ち上げようと決意しました。


Seibiiの主力事業である整備業界のマーケットはどれくらいなのでしょうか?

千村 整備業界だけでも5.5兆円、周辺領域を含めると8〜9兆円くらいです。ただDXとは程遠い、長い歴史を持つかなりレガシーな産業。業界のアップデートは必要不可欠ということにいろいろな経験を通して気づき、「出張整備」に出会いました。出張整備って、全く目新しいビジネスではなく、古くからこの業界で仕事をしている人たちはいる。ただ、整備工場が近隣のお客様の整備に行くことはあっても、私たちのように47都道府県に展開するプラットフォームを有する会社はありませんでした。


初めてのお客様はどのような依頼だったのでしょうか?

千村 忘れもしません。2019年のGWに初成約をした際、整備士からは「こんなにもらえるんですか」、お客様からは「もっと払いましょうか」と言ってもらえるサービスができたんです。1件目でビジネスモデルとして成り立つことを確信し、そこからは五月雨式でご依頼を頂いていますね。最初の1〜2年は僕自身も毎日のように現場に出てユーザーヒアリングをして、“社会に絶対に必要だ”と確信しました。創業当時の最初のお客様100人くらいは、顔を見れば全員わかる。それくらい思い出があります。


現在の自動車業界と自動車整備業界の取り巻く環境はどう見ていますか。

千村 自動車は100年に1回の変革期と言われていて、現在では自動車ではなく「モビリティ」と呼ばれる時代になりました。車と整備業界は、世間的には割とセットで考えられていますが、実は全く違う業界。構造も全然違います。車は日本メーカーだけでも約15社、海外合わせても50社弱くらい。彼らはすごく大きな経済圏で生きていて、自動運転や電気自動車といった新しい技術を使って「CASE」(ケース)や「MaaS」(マース)という文脈の中で、早くその技術を世に出していこうと奮闘しているんですよね。一方で、整備業界は約9万社あるんです。コンビニよりも多い数ですよ。どちらかというと地場に根付いた産業で、ものすごくミクロな経済圏で生きています。

整備業界における課題は、人手不足や高齢化などが主で、技術革新を進めている自動車業界の進歩のスピードとはかなりの差がある。ただ整備業界においても100年に1回の変革期は絶対に起こると確信しています。そのとき僕たちにできるアップデートをする。セットで考えていかないといけません。


整備業界が抱える課題感は、起業してから見えてきたのでしょうか?

千村 今となってはビッグモーターさんの件で、この業界の不透明さや不条理さが色々言われていますが、この業界に携わっている人であれば、多かれ少なかれ感じてはいたはずです。

例えば、インターネットでオイル交換やバッテリー交換を調べると、4,000〜40,000円と記載があるんです。振れ幅が桁一つ違うのですから、相場もないに等しいですよね。整備業界では、自社のホームページを持っている企業はたったの30%。経産省が出していたデータでも、あらゆる産業におけるECプラットフォームの中で「整備業界が最もDXが遅れている」と言われているんですよね。創業時に100社ほどの整備工場を回りヒアリングする中で、私自身も肌で感じました。

 

マーケットは大きくても、「整備士が減っている」というデータもあります。

千村 整備士学校の入学者数自体がかなり激減していて、2003年時点で約1万2000人卒業していたのに対し、20年たった現在は6,500人くらいと半減。整備士を目指す人自体が減っていますね。整備士の平均年齢は45歳ですが、今後は体力的にもリタイアする人が増えてくる。一方で、車は日本で約8,000万台あり、徐々に減っていくでしょう。1台あたりの車齢も5年くらい伸びていて、かつては10年で廃車になっていたのが15年くらいに寿命が伸びている。車体の性能が良くなっていることに加え、可処分所得がそんなに上がってないので、買い替えが発生しづらくなっている。壊れないとはいえ、車齢が上がればいつかはほころびが出てくる。その時に整備士が足りないという問題はあります。

ディーラーも人手不足ですが、彼らが中心に据えている客層はメーカー保証5年以内の人々。それ以上経過した人々には、車は買い替えさせたい。けれどトレンド的には長く乗りたいユーザーが増えているんですね。そういったユーザーたちは、基本的には自分たちで整備会社を探して直すんです。高くてもディーラーでという人もいますけどね。


自分たちで探して依頼するとなると、やはり近所の整備会社が選ばれるのでしょうか。

千村 面白い話があります。お客様に「なぜ近くの整備工場に行かずに弊社にご依頼くださったんですか?」と聞いたら、「うちの近くに整備会社はないんですよ」と言うんです。僕は当時、自分の足で近くの整備工場にも行っていましたから、お客様の近所に整備工場があることは知っていました。ホームページを持っている企業が30%しかいないので、お客様が依頼したいと思っても、ネット上に存在証明がないので探せないんですよね。それくらいネットに精通していない業界なんです。


ホームページも持っていないとなると、お客様の獲得は難しいですよね。

木岡 2極化してると思います。集客が上手くいっていて対応しきれないほど繁盛している工場やディーラーさんももちろんいますが、家族経営で昔からのお客様だけを相手に商売しているところが多い印象です。




渋々業界を去った“元整備士”を新・働き方提案で取り戻す

「Seibii」のサービスは、御社に登録した整備士さんとお客様をつなぐというものですよね。

千村 はい。ただ、我々がやっていることは、マッチングではなく「プラットフォーマー」。いわゆるホリゾンタルで行うマッチングサイトは、“やってほしい人”と“やれる人”をマーケットプレイスとして提供・運営をしていて、やり取りは当事者間で行い、その手数料を受け取るというもの。この手数料は、大体10〜20%。しかし我々の場合は、バーティカルにやっているんです。例えば「車が動かない」とお客様から言われたとき、原因はお客様に聞いてもわからないですよね。専門家やマニアではありませんから。だから我々がチャットボットも活用しながらヒアリングをしています。部品も星の数ほどありますが、その選別も行う。車に不具合が発生したときのオペレーションを全て担っているのが我々なんです。総利益的な部分は、マッチングサービスとはだいぶ構造が違う。部品も自分たちで仕入れているので、当然ボリュームディスカウントも出てくる。整備としてサービスを提供しているので、手数料ビジネスではないということです。


マッチングサービスにしなかった理由はあるのでしょうか?

千村 絶対に上手くいかない。トラブルになると思いました。我々の付加価値は、整備士という一個人のサポートもしているんです。部品の適合や発注、お金の回収や整備後の保守、クレーム対応など。これらを一整備士がすべてやるとなると、1日5件整備できるところを2件しかできない。結局、稼げないと言われる整備士となんら変わりのない報酬になってしまうんですよね。我々は整備士がしなくてもいい部分をソフトウエア化して、なるべく人件費をかけずに自動化させる。整備士の一番の価値は、現場に行って作業をして、お客様に真摯に説明すること。それ以外の部分は、正直我々でリプレイスできる。だからこそ自動化は、整備士にとってもお客様にとってもいいことだと思っています。


お客様からすると、Seibiiの顔がずっと見えている状態も安心ですよね。

木岡 何かあってからのアフターサポートというよりも、元々の現場の作業の品質管理は徹底しています。車という高額なものを預けていただくからには、一個人に頼るのではなく「Seibii」というブランドでデジタル技術を使いながらしっかり保証していく。DXで作業の効率化や生産性を上げるというのもありますが、我々は作業品質の透明性を担保したり既存業者にはできなかったようなところに対してデジタル技術を使って付加価値を上げていくことで、業界全体の質の向上にもつなげられたらと思っています。



「Seibii」を通して整備士の活性化にもつながっていくのも望ましいですよね。

千村 整備士のなり手を増やすのは、簡単な話ではありません。ただ我々は“整備士を社会の主役に”と発信しています。整備士がちゃんと稼げる、整備士として誇りを持って働ける、プラットフォームを作っていきたい。整備士って、認証工場と言われる国が認めた工場で働いている人たちは30万人いるんです。ただ整備士資格を持っている人たちって100万人はいるんですよ。ということは70万人が、国が定めた工場で働いていない、もしくは辞めた整備士です。稼げないからと整備士を辞めて中古車販売店の営業やトラック運転手をやっている人って、多いんですよね。これだけ労働人口が減っていく中で、どうやってこのキャパシティを追いつかせていくか。それこそ60歳くらいの方で「長時間の仕事はきつく、重い物を持って工場で作業するのは大変」という方もいるわけです。そういう方たちは週3働いて月20万円の稼ぎ+年金でも生きていけますよね。出張整備なら自分たちが拠点を持たなくていいし、整備士だったら工具さえ持っていれば明日から始められる。集客やお客様対応が苦手な方も多いと思うんです。その部分は我々で行うので、整備士の方々にはこれまで培った技術を存分に現場で生かして頂く。辞めた整備士をもう一度現場に戻していく。足りないキャパを埋めるのは、我々のプラットフォームだからこそできること。働き方のオプションは“生き方のオプション”でもある。これを提供することが、業界においてものすごく価値のあることだと思っています。



一人勝ちはできない車・整備業界で協業関係を構築

 

「Seibii」では同業種ともアライアンスを組んでいますよね。

千村 「整備」という言葉は分解すると、車検、リコール、タイヤなど用品販売、故障・修理があるんですね。車検はみんなやりたいし、しのぎを削っている。超レッドオーシャンです。リコールはディーラーしかできない。カー用品の販売はディーラーも行いますが、本流はオートバックスやイエローハットなど。もし“やりたいことを一つだけ選んでそのボタンを押してください”となったとき、10年選手の車の修理やメンテナンスは恐らく誰もそのボタンは押さないですよ。でもそこを押すのが我々なんです。競合と思われるかもしれないですが、限られたキャパの中で“あなたたちが本当にやりたいことは?”と聞きたい。そこから外れたことを我々がやるとなれば、冷静に考えれば組んだ方がよくないですか?という話です。


最後に「Seibii」の今後の展望をお聞かせください。

千村 創業当初は、業界内で黒船に思われていたこともあったんです。“何だこいつら、よくわからない若い奴がきたぞ”と。ただ最近メディアなどを通じた発信が増える中で、我々がパイを取りたいわけではないということが周りに浸透してきたかと思います。そもそもこんなに大きな業界で、独り勝ちなんて絶対できない。協業関係を築かなきゃいけないんです。だからディーラーさんや大手とも一緒に仕事をしています。実は相模原のほうに整備工場を持っているんですが、そこはトライアル的に工場を運営して、効率化できる部分を模索しているところです。やはり整備士の満足度が高いと、依頼が増える、整備士も増える、キャパも増える、そうすればより多くの車両情報を獲得できる。お客様に対してもいろんなオプションが提供できると思います。


 

 




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