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インタビューインタビュー

建材サンプルのマーケットにDXで参入 建築デザイナーと建材メーカーをつなぎ業界の「イネイブラー」に

建材サンプルのマーケットにDXで参入 建築デザイナーと建材メーカーをつなぎ業界の「イネイブラー」に
幼い頃は建築家を目指していた中沢剛さん。ITを用いた事業開発のキャリアを活かし、建材サンプルの納品にかかる手間と時間をDXで簡略化する「Material Bank®」の日本での事業展開を行っています。DXで建築デザイナーと建材メーカーをつなぎ、クリエイティブを加速させる世界を実現する。中沢さんが思い描く建材サンプルマーケットの変革と叶えたい夢をお聞きしました。

目次

DesignFuture Japan株式会社
CEO
中沢剛氏

2000年代にNTTデータにて黎明期のアパレルEC事業立上や組織開発のコンサルティング等に従事後、ソフトバンク社長室にて孫正義氏の戦略立案をサポート。2018年より各種ベンチャー企業の経営及び経営支援に携わる。 2021年にDesignFuture Japan株式会社を設立し、Material Bank® Japan事業の立ち上げに従事。建材やデザイン領域の課題解決に強いパッションを持つ。 


建築デザイナーの業務プロセスを最適化するサービスをアメリカから導入

「Material Bank® Japan」の概要ついてお聞かせ下さい。

中沢 インテリアや建築設計などを行う空間デザイナーとマテリアル(建材)メーカーをつなぐサービスを提供しています。デザイナーはMaterial Bank® Japanのウェブサイトに登録すると、数多くのブランドから一括で建材を探したり、製品名や品番からでも検索が可能です。気に入った建材のサンプルを見つけたら深夜0時までにオーダーしていただければ最短で翌日には1つの箱にまとまった形で届きます。他には、ウェブサイトで探した建材を組み合わせてウェブ上で直感的で自由度の高いマテリアルボードを作成することもできます。

Material Bank®は2019年にアメリカでサービスを開始しました。現在では450社以上の建材メーカーと約10万人のデザイナーが利用しており、1日あたり約8万個の建材サンプルがデザイナーの手元に届く世界最大の建材サンプルマーケットプレイスへと成長しました。私たちはこのビジネスモデルを日本市場に展開するため、2021年に会社を設立、2023年1月にサービスのβ版をリリースし、大手建材メーカーやインテリアデザイン、建築設計事務所に所属するデザイナーに参画していただいています。運用実証事業段階なので現時点では利用者の数を限定しておりますが、システムや運用のマーケットマッチを行った後に本格的にサービス展開する予定です。


アメリカのサービスを日本で展開できるメリットはどのあたりでしょうか。

中沢 日本とアメリカのデザイナーにヒアリングしたところ、「デザインする時間が足りない」という共通の悩みに気づきました。デザイナーがデザイン案を検討する時に建材メーカーに問い合わせてサンプルを取り寄せる作業が発生しますが、このサンプル探しだけで業務時間の約4割を使っていると言われています。基礎材、タイル、テキスタイルなど種類も多くメーカーさんもバラバラなので、電話をしたり、カタログを取り寄せたり、営業の方と打ち合わせをするなどサンプルを入手するまで時間がかかります。非効率ですが業務としてはとても重要なので、デジタルの技術を使うことでこの課題を解決できると感じました。1つのウェブサイトで建材サンプルを探し、ワンボックスで届く仕組みを提供しています。

複数メーカーの建材サンプルが、1つの箱に入って翌日に届く


デザイナーの業務改善に貢献しているんですね。

中沢 そうなんです。日中は打ち合わせに追われ、夜にようやくデザインに取り掛かるデザイナーも多い。ウェブサイトでは24時間注文を受け付けているので営業時間を気にする必要はなく、デザイナーのインスピレーションを妨げることなく業務を行うことが可能になります。煩雑な業務をDX化したことで、デザイナー本来の仕事である建築デザインに注力できます。

弊社では最先端の物流システムを導入しており、建材メーカーのサンプルをお預かりして効率的に倉庫の運営を行っています。日本とアメリカは別々の倉庫ですが、日本製だけでなく海外製など多品種な建材を取り扱い、日本初の取り組みとして大手グローバル企業を顧客に抱え、物流倉庫向け自律移動ロボット(AMR)に実績のある「Locus Robotics社」と連携し、煩雑な倉庫内の業務を効率化しました。

これまで、複数メーカーの建材サンプルを一括で届ける仕組みが業界に登場しなかったのは、この物流システムを構築するのがあまりにも困難だったからです。我々はそこをカバーすることで実現しました。


建材メーカーはデザイナーとのダイレクトなコミュニケーションが可能に

建材メーカーにとってのメリットはどのようなことが挙げられますか。

中沢 建材メーカーはデザイナーに売り込みたい商品があるはずです。しかし、今のやり方ではデザイナー一人ひとりに直接アピールしたり、営業スタッフが訪問するには限界があります。サンプルの郵送だけでも企業側の管理はひと苦労なのに、お客様との進捗状況の確認など煩雑な業務が多く課題を抱えていました。Material Bank® Japanのウェブサイトに建材サンプルを掲載するだけで商品の認知度を高めることができ、デザイナーが持つ案件の情報をキャッチし、商談を進めるきっかけにもつながると考えています。

また、商品の宣伝やサンプル送付の簡素化に加えてデザイナーのニーズが情報として蓄積されていくので市場分析もできるようになります。将来的には建材メーカーの右腕になる業務も展開できたら良いですね。


大量のサンプルが廃棄されてしまっていると聞きました。

中沢 デザイナーに届いたサンプルは一部使用されないため、泣く泣く産業廃棄物になることもあります。私も事務所にお邪魔した時に未使用のサンプルがオフィスの隅に置かれている光景を見たことがありますが、デザイナーたちも罪悪感を抱いていると言います。

今まではサステナブルではなかった建材サンプル送付の業務を2つの点で改善していきます。1つは配送する回数の削減です。私たちがワンストップで送付業務を行うことで箱、緩衝材、配送業者などの無駄を排除します。2つめは不使用のサンプル返品受付です。サンプルが入っている弊社オリジナルのサンプル配送トレーは返品ボックスとしても利用でき、使用しなかったサンプルは弊社の倉庫で再検品して保管するルールを徹底。メーカーの営業さんがデザイン事務所を訪問したタイミングで引き取るなど個別に対応していた問題を解決し、業務を効率化することに成功しています。


建材サンプルマーケットのDXは「顧客体験(CX)」を叶えること

建材のDXはアメリカが世界に先駆けて進んでいるのでしょうか。

中沢 国レベルでアメリカが進んでいるというよりは、世界的にみても、アメリカのMaterial Bank®が建材DXの先駆けといえると思います。ウェブサイト・倉庫・ロジスティックスを完備してお客様にまとめて配送するサービスは日本、アメリカ、ヨーロッパを調査したところ同じサービスを展開している企業はありませんでした。

アメリカのMaterial Bank®を訪問した時にスタッフの誰もが仕事にやりがいを感じて生き生きと働く姿をみて感動したんです。お客様であるデザイナーもデザインに集中できて、生活リズムも崩していない。建材メーカーさんも様々な建材を市場に出し、商品開発にも時間を割くことができる。これが「あるべき姿」であり「三方よし」のサービスだと私の目には映りました。


理想を叶えるためにデジタルはどのように活用していくべきですか。

中沢 建材サンプル探しの効率化はロジスティクスとDXが重要です。実際に建材メーカーさんの倉庫を見学に伺うと、小さいサンプルも取り扱っているので商品管理ができていないケースも見受けられます。また、今までは届いたサンプルが壊れていたり、違う商品が送られるなどクレームもあったと聞いています。独自バーコード)やロボットで建材サンプルをきちんと管理する体制を整えたのは業界では初の試みでした。ウェブサイトで建材サンプルを選べたり配送を効率化するアイデアは20年前からあったかもしれませんが、私たちのような業界の外からきた人間だからこそ、常識を疑い、新しいオペレーションやテクノロジーを活用して一気通貫で変革を起こせたのかもしれません。テクノロジーがようやく時代に追いついてきた今だからこそ、建材サンプルの管理をDXで変革するチャンスなんです。デザイナーが存分に力を発揮できる社会を作りたい、デザイナーが数十万種類からベストな1つを選ぶお手伝いをしたい。ラストワンマイルのオペレーションはアントレプレナーシップと根気が必要です。

私はDXとはそもそも「CX(顧客体験)」だと考えています。例えば、アマゾンで欲しい商品をクリックすれば簡単に購入できるという体験があります。ところがプロフェッショナルであるデザイナーの仕事に置き換えるとややこしく、煩雑な作業になることも多い。デザイナーのことを考えれば、インスピレーションが途切れない体験に応えることがDXですよね。DXのニュアンスはそれぞれですが、お客様のCXを叶えるために努力することがDXだと捉えています。我々は「イネイブラー(他者の課題解決の手助けをする人)」と呼んでいますが、お客様の支え手、可能ならしめる存在でありたいです。


別の業界にいた中沢さんにとって建材DXは新しい挑戦になりませんか。

中沢 私としては、根本的には同じ挑戦をしていると思っています。NTTデータで働いていた時は、アパレルメーカーさんにEコマースを導入するなど事業者のIT化を推進する仕事をしていました。15年前は「服がインターネットを通じて売れる」なんて誰も考えつきませんでした。前職で経験した知識を使ってITから遠い業界に付加価値を生み出したいという強い願いが叶って、「IT」×「空間」を組み合わせた今の仕事につながっています。

幼い頃はガウディに憧れ、建築士になることを夢見ていました。建築士の道を選ばなかったのは、姉が建築士になり「別の職業もありなのでは」と模索している中でクリエイティブな仕事を裏で支えることにやりがいや興味を感じる自分に気づいたから。私は『アイデアのスイッチ!誰でも「ひらめき」が生まれる4ステップ思考法』という本を出版するほど、あらゆる方法で人のクリエイティブを促進させることに喜びを感じます。建築のデザインはクリエイティブが詰まっていますし、人間の生活にダイレクトにつながる仕事なので、言葉にならないくらい毎日が楽しいですね。


最後にDXを通じて実現したいことを教えて下さい。

中沢 Material Bank® Japanを通じて建材メーカー、デザイナーの業務をDXする存在になりたいですね。弊社の理念である「彩り豊かに様々なデザインの選択肢があり違いを楽しめるような社会をつくりたい」を実現するため、建材サンプル業界の「もったいない」を削減しつつ、最終的には生活者が豊かになるサービスを提供していきたいです。



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