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不確実性の時代(VUCA)の「新規事業」のススメ 第1回 成功確率を上げる新規事業への取組み方

不確実性の時代(VUCA)の「新規事業」のススメ 第1回 成功確率を上げる新規事業への取組み方
未来の予測が困難な時代。いわゆる不確実性の時代(VUCA)における新規事業への取組み方に最善策はあるのか?顧客の課題に対し、新しい打ち手をサービス/製品として提供し、既存事業とは異なるビジネスモデルを構築する新規事業の創出。なぜ企業に新規事業が必要なのか。第1回目は新規事業を行う際の必要な要素、成功確率を上げる取り組み方をテーマに解説します。ビジネス=顧客の課題解決という前提で大企業を中心にコンサルティングを展開している株式会社アバージェンスの副社長、葛西幸充氏にお聞きしました。

目次

不確実性の時代(VUCA)の「新規事業」のススメは、第1回から第3回までございます。

第1回 成功確率を上げる新規事業への取組み方 (本記事)

第2回 新規事業に求められるのは「お客様の課題を“自分ごと”として捉えられる」人材

第3回 “一人のお客様”を見つけることが突破口になりビジネスの広がりを加速させる


新規事業の立ち上げに必要なのは本気の熱量


会社の大小に関わらず、なぜ新規事業が必要なのかという理由をお聞かせください。

葛西 理由としては、大きく3つあります。

1.既存事業だけでは明確な将来を描けない
2.新規事業創出を介して、若手を育成したい・活性化させたい
3技術的な進展によってできることが増え、早く・低コストで実現可能になった

私たちが接する企業の多くは、1に該当しています。既存事業で海外進出するか、新規事業で国内に打って出るかを考えなくてはなりません。2のように、人材育成の側面で新規事業を行う企業もあります。特にコロナ禍において大きく状況が一変し、我々にも新規事業創出の相談が増えてきていますね。新規事業の創出ステップとしては

1.事業構想(洞察・発見、アイディア創出)
2.顧客課題・SOL検証(検証・定義、試作品/PoC)
3.事業性実証(開発、事業化、収益化)
4.事業拡大(成長・拡大、Exit)

です。


「新規事業を行いたい」という発信は、企業の経営層からが多いのでしょうか?

葛西 企業の経営層からですね。「新規事業をやらないとまずいね」という発信から、既存事業から人を剥がして新しいチームを蘇生することが多いです。既に新規事業の部隊を立ち上げている組織もありますね。


「企業の経営層から発信」とのことですが、経営層の本気度はどこで測るのでしょうか?

葛西 チェックすべき点は、大きく2つあります。

1.経営層の新規事業創出への関わり方。自らが先頭に立って進めるかどうか
2.新規事業に優秀で、且つ熱量のあるメンバーのフルアサインができるかどうか

ここで経営層の本気度は図れるかと思います。


一方で、新規事業が失敗する組織の共通点はありますか。

葛西 共通点は大きく7つです。

1.顧客課題を発見・検証せずに先にモノを作ってしまう
2.顧客課題を自分事で捉えられず、メンバーの熱量が冷めてしまう
3.優秀で、且つやる気のあるメンバーをフルアサインしない
4.既存事業のメンバーの巻き込み・協力が十分得られない
5.新規事業を立ち上げたことがない経営層からの批判的な言動
6.市場投入のタイミングの見誤り(早すぎる、遅すぎる)
7.新規事業創出プロセスや、人事評価制度の整備がされていない

3の「優秀で、且つやる気のあるメンバーをフルアサインしない」に関しては、失敗しがちな要因の一つです。経営層が“この人は手が空いているから新規事業に当てる”というアサインしてしまうと、後々「続ける熱量がない」「既存事業が忙しいから辞める」ということになりかねません。

4の「既存事業のメンバーの巻き込み・協力が十分得られない」に関しては、当然ながら新規事業は単独で成立するものではなく、既存事業のメンバーにも協力を仰がなければならない場面も多い。しかし、みんな業務で手一杯なので、まだ実態がよく分からない新規事業に協力するという空気が生まれにくいのが実情でしょう。そこで経営層の関わりがものすごく大事になってきます。担当者同士だと動かないところを経営層から促していかないと、なかなかスケールアップしていきません。

7の「人事評価制度の整備がされていない」に関しては、人事評価制度は新規事業担当の評価や既存事業との評価のバランスが整備されていないことが多いですね。ここは新規事業をスタートする前に、経営層がきちんと決めて、提示しておく必要があります。新規事業は形のないものを作り上げていくので、何で評価されるのか、あるいはされないのかという点は、メンバーのモチベーション維持、ひいては新規事業をやり抜けるかということに直結するかと思います。



新規事業は“やらなくてはいけないこと”と捉えられているものの、このように失敗する要因が多いためハードルを感じてしまうのでは。

葛西 新規事業を立ち上げた経験があるかどうかというのも大きい。特に経験がある人とない人では、リーダーシップの本気度がかなり異なってきます。経験がない企業の場合は、アウトソースしてアシストしてもらいながら進めることもできるでしょう。


アウトソースする際、確認するべきポイントはありますか?

葛西 アウトソース先となるコンサルティングファームは、経営層と密に関わることができるところを選ぶのがいいかと思います。具体的な関わり方でいうと、週1回の経営新規事業の会議に参加するとか、新規事業の事業計画を通すことを“自分の役割”だと思ってもらえるかです。“自分の役割”とは、レビューする側ではなく、先頭に立ってやってくれるかどうか。経営層には新規事業を生み出すプロセスのどこかで入ってもらうパターンが多いですが、その時間の確保が難しい場合、コンサルティングファームやメンバーが経営層に報告します。

また、可能性を一方的にぶつけてくるのではなく、一緒に検討するスタンスで材料を提供するコンサルティングファームを選ぶ方がいいかと思います。例えば、今やっているのはこの領域だけど、エネルギー領域やヘルスケア系などの領域がどうなるかの材料を提供して“こんな未来になるんじゃないか”と一緒に未来像を描いてくれる。そして“自分たちの事業領域はどこにしたいか”を一緒に議論をして決めて、そこにあるお客様の課題を深掘りしていくという流れに伴走してくれるようなコンサルティングファームがいいのではないかと思います。


ブルーオーシャンでなくても「勝ち筋」を見つければ可能性あり
事業計画を立てる際の勘所や粒度について教えてください。

葛西 必要な要素は概ね7つ。これらが含まれていれば十分だと思います。

1.誰のどんな課題をどのように解決するのか?(市場性)
2.その課題を抱えている顧客はどれくらいいるのか?(市場性)
3.他ではなく、このサービスを選択する理由は何か?(独自性)
4.どのようにマネタイズするか?(収益性)
5.どのようにスケールアップしていくか?(成長性)
6.実現可能性はどうか?(実現性)
7.ビジョンとの整合性があるか?(合致性)

高齢化が進む日本国内では、新規事業で展開するターゲット領域としてはヘルスケアや介護、終活などが多いです。もちろんこの領域は成長するけど、丸々ブルーオーシャンということはないです。重要なのは、その中で勝ち筋が見つかるかどうか。市場の中で“このセグメントのこの領域だったら、こうすれば勝てる”と見つけられれば、ありなんじゃないかと思います。

ある程度領域を決めたら、顧客の課題が何なのか。仮説を考えます。なぜ発生するかのメカニズムを押さえておき、そのメカニズムの打ち手としてサービスを打ち出していきます。そこで一旦仮説でつくったものを顧客にぶつけていきます。ある程度、顧客の課題としてあるしニーズもあるし優先順位も高いとなれば、PoC(概念実証)を行います。サービスのイメージを持ってもらうものをつくり「これだったらどうですか? あなたの課題は解決しますか?」と反応を確認していきます。それで、いいね!となったら、じゃあ今度は「お金を払ってでもやりますか?」と。一人でも二人でも「買います!」という顧客がいれば事業計画をつくる流れです。この「そのサービスにお金を払いたいと思うか」という点は、確認必須です。


提案とお客様インタビューの間くらいの、仮説提案のようなイメージでしょうか。

葛西 そうですね。ターゲット層とディスカッションして提案して、というのを何度も繰り返して、ようやく刺さるなとなったときに事業計画に入ります。そこから経営層の承認を取ります。その企業の新規事業に関わる基準、投資回収期間などの基準を満たして承認される、という流れです。


モノをつくるより先に“お客様の課題は何か”を考える

検証期間や検証内容(KPI)はどのように設定すべきでしょうか。

葛西 仮説構築ができれば、仮説検証・修正を含め、専任チームの場合で3カ月程度、兼務で6カ月程度が必要だと思います。顧客課題検証とサービス検証は最低10社に対して実施していくのがいいかと思います。その際の検証内容は3つです。

1.課題や原因の検証
2.打ち手(サービス)の検証
3.どれくらいお金を払ってくれるか

1の「課題や原因の検証」は6〜7割くらいは検証実績が欲しいところ。2「打ち手の検証」と3「どれくらいお金を払ってくれるか」に関しては、たった一人でも「買う」という顧客が現れたら、最初の0→1は十分。そのサービスに需要があることを示しています。


失敗しがちな例としてよく聞くのが、新規事業のサービスや商品が、既存の自社のリソースに引っ張られてしまうというパターンです。

葛西 自社の得意分野から展開すること自体はいいと思います。ただ、成否を分けるのは顧客の課題を認識せず、深掘せず、モノを作ってしまうパターン。特に技術オリエンテッドの企業は、技術的に優れているから、競合他社のことを見ずにいきなりプロダクトを作って失敗するケースが多い印象です。


市場の声を聞く前に自社都合でまずは形にしてしまうんですね。

葛西 モノを作ってから、それをピボット(事業転換や方向転換)しようとすると、多大なコストが掛かります。だから、無理矢理「これがあったら便利ですよね?」みたいな形になってしまうんです。技術開発のような組織は基本的に新しい技術を追求していくので、「これを世に出したら売れるんじゃないか?」という発想からモノづくりをしてしまうことが多いです。


人とお金の両面でコストが掛かりますよね。

葛西 最近も「これつくっちゃったんですけど、どうすればいいですか?」という相談を受けました(笑)。経営層もそれを承認してしまったと。経営層が「まだお客様の意見を聞けてないじゃないか?」と問い正すも「これを作りたいんだ!」と熱に負けてしまったパターンもありますね。「つくってしまったほうが早い」と考える方もいますが、一回、最低限必要な機能をつくってニーズを確かめながら修正していくマインドが必要だと思います。

あまり推奨しませんが、モノが先にできてしまった場合、それが解決できるお客様の課題は何かを考える→この課題なら解決できる→この課題を解決したいお客様を探す→「こんなのできちゃったんですけど」と提案する。こうするしかないですね。それで仮説検証して、ダメだったら捨てるしかありません。固執してもサンクコストになるだけです。まだマイナーチェンジでして進められるならいいんですけど。


仕事を受ける際に、“これは失敗しそうだな”というのは、これまでの経験でわかる時もあるかと思います。そうした際にあえて、“失敗を経験させる”というプロセスを踏ませることもあるのでしょうか?

葛西 あえて失敗の経験をさせる必要はないと思います。我々コンサルとしても、上手くいかないだろうと思ったらそれを伝えます。改めて市場を見て、競合を見て、お客様の課題を見て、ちょっとポジションを変えれば、サービスを変えれば、そういった可能性があるんだとしたらピボットして、こうしましょうと提案していきます。

第2回目は「新規事業に求められる人材・プロジェクトメンバーの組成」についてお話をお伺いします。第2回以降の記事はこちら↓

第2回 新規事業に求められるのは「お客様の課題を“自分ごと”として捉えられる」人材

第3回  “一人のお客様”を見つけることが突破口になりビジネスの広がりを加速させる


ダウンロード資料もご用意しています。無料ですので是非ご利用ください。

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<お話をうかがった方>
株式会社アバージェンス
副社長
葛西幸充氏

プラウドフットジャパン(アバージェンスの前身)、シグマクシス、PwCを経て、2016年(株)アバージェンス入社。経営コンサルティング歴18年。米MBA取得。営業改革・原価低減・生産現場改革、SCM改革などマネジメント改革を通じた収益改善や、新規事業創出・特定業種戦略立案・中期経営策定などを経験する。アバージェンスの新規事業として立ち上げた会員数約180名を誇るオンラインサロン『CLUB RIGHT HAND』のオーナーであり、YouTubeチャンネル『CRH』運営も行う。




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