不確実性の時代(VUCA)の「新規事業」のススメ 第3回 “一人のお客様”を見つけることが突破口になりビジネスの広がりを加速させる
目次
不確実性の時代(VUCA)の「新規事業」のススメは、第1回から第3回までございます。
第2回 新規事業に求められるのは「お客様の課題を“自分ごと”として捉えられる」人材
第3回 “一人のお客様”を見つけることが突破口になりビジネスの広がりを加速させる (本記事)
顧客の課題が検証されるまでは、モノをつくらないのが鉄則
新規事業を行う際のリスクの回避・軽減策について教えてください。
葛西 大きなリスクは3つあります。
1.事業機会を逸失するリスク
2.投資が回収できないリスク
3.品質の高いサービス提供ができないリスク
1の「事業機会を逸失する」は高速で仮説検証を行い、そのプロセスを確立することで軽減できるでしょう。2の「投資が回収できない」は、顧客の課題や真因の検証ができるまではモノを作らずに軽いPoCとすること、たくさんの顧客よりもたった一人の顧客の課題の解決にフォーカスを充てることが重要です。
3の「品質の高いサービス提供ができないリスク」はたった一人の顧客に使ってもらいバグ潰しをすること、立上げ前に社内体制の構築を完了させておくことで軽減できるはずです。
コンサル会社が入る場合、コンサル目線でマーケットに参入する際の具体的なチェックポイントはありますか?
葛西 市場性や収益性、なぜ自分たちがそれをやるのか。チェックポイントを設けて満たしているかどうかはチェクします。実際にモノをつくったところで「買うよ」というお客様が現れれば、どの程度の課題感を持っている方が買ってくれているのかがわかります。そこでもう一度、事業計画を精緻化します。
便利だけどお金払うか否かは、確かに別の話かと思います。
葛西 お金を払ってまで買うかどうかは、課題の深刻さとも言い換えられると思うんですよね。課題解決によって得られるメリットと払う金額の差分が描けるかどうか。そこのチェックポイントを設けておいて、自分たちなりに基準を考えます。そこがクリアにならないと、無駄な投資になってしまいますので。
新規事業の継続・撤退基準の設定方法についても教えてください。
葛西 5つのゲートを設けておくことです。
1.事業機会抽出のタイミング(やる・やらない領域をあらかじめ決めておく:ビジョンとの合致度、強み・資産を活かせるかどうか)
2.顧客の課題検証のタイミング(課題・熱量で判断)
3.(顧客課題の検証後)サービス・製品設計のタイミング(受容性・競争優位性・熱量等)
4.事業計画作成のタイミング(市場性・競争優位性・収益性・熱量・実現性等で判断)
5.(顧客が見つかった後)事業計画精緻化のタイミング(市場性・競争優位性・収益性・熱量・実現性等で判断)
幾つかのステージで、項目(定性的・定量的)と基準を決めておくことですね。
一人に刺されば、その後ろにたくさんのお客様が隠れていることを知る
外部のコンサル会社を入れずに成功する確率は低いでしょうか?
葛西 そんなことはないと思います。リクルートさんは成功例でしょう。新規事業ではないですが、キーエンスさんも新サービスや新製品が仕組み化されて回っていますよね。彼らの基準は、世界初か業界初に拘っています。その辺りのプロセスが確立されていると思います。とにかく重要なのは、顧客の需要とサービスが固まるまではモノを作らないことです。
新規事業が形になるまでの期間は、どの程度見るべきなのでしょうか。
葛西 つくるモノやサービスにもよりますが、スムーズにいって1年から1年半は掛かりますよね。
この期間にモノが見えずにディスカッションばっかりだと、熱量が冷めてしまうのでは?
葛西 そのレベルで熱量が下がるのであれば、やめておいたほうがいいとは思います。厳しいようですが、計画段階で熱量が上がらなければ、やめてしまったほうがいいです。立ち上げてからのほうが苦労しますから。
いくら自ら手を上げて新規事業のチームに入るからとは言え、熱量が上がり続ける人のほうが稀なのでは?という気もします。もちろん、熱量を高く維持できるメンバーが集まればラッキーですが。
葛西 だからこそ“一人のお客様を見つける”のが大事になります。一人でいいから、課題を解決して喜んでもらうというのを早期に経験できると、モチベーションが上がります。そこを感じ取れるかどうか。事例があるということは、すでに需要があるということ。事例がない一歩は、確かに難しいでしょう。
大企業で事例がないものを意思決定者に決断させやすい方法はあるでしょうか。
葛西 有名な話ですが、キットカットは受験生の“きっと勝つ”の願掛けとしても有名になりましたよね。実はその最初の一歩は、ホテルに連絡して「受験生が泊まったときに、応援するつもりでキットカットを渡してほしい」というところから。最初のうちは100件回っても話を聞いてもらえなかったのですが、その受験生を応援するという想いに賛同した1件のホテルが決まったことで、他のホテルにも広がりを見せたといいます。
100社に断られ続けたメンタルの強さもすごいですよね。まさに“きっと勝つ”の想いで、はじめの1社を見つけたのではないでしょうか。一人に刺されば、あとは同じように課題を持っている人を探すだけなので、一人に刺さるって大きいことなんです。
この連載の記事はこちら↓
不確実性の時代(VUCA)の「新規事業」のススメ 第1回 成功確率を上げる新規事業への取組み方
不確実性の時代(VUCA)の「新規事業」のススメ 第2回 新規事業に求められるのは「お客様の課題を“自分ごと”として捉えられる」人材
不確実性の時代(VUCA)の「新規事業」のススメ 第3回 “一人のお客様”を見つけることが突破口になりビジネスの広がりを加速させる(本記事)
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<お話をうかがった方>
株式会社アバージェンス
副社長
葛西幸充氏
プラウドフットジャパン(アバージェンスの前身)、シグマクシス、PwCを経て、2016年(株)アバージェンス入社。経営コンサルティング歴18年。米MBA取得。営業改革・原価低減・生産現場改革、SCM改革などマネジメント改革を通じた収益改善や、新規事業創出・特定業種戦略立案・中期経営策定などを経験する。アバージェンスの新規事業として立ち上げた会員数約180名を誇るオンラインサロン『CLUB RIGHT HAND』のオーナーであり、YouTubeチャンネル『CRH』運営も行う。